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ハラスメント対応に必要なのは「3つの視点」!

こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。前回は、「ハラスメントとは何か」について、語源にさかのぼって全体像をお伝えしました。

今回は、ハラスメントに対応する際に必要な「3つの視点」についてお話したいと思います。

ハラスメント事案が起きた際の主な関係者は、「被害者」「加害者」、そして「事業主」です。つまり事業主は、「被害者(当該労働者)との関係」、「加害者(行為者、通報対象者)との関係」、「被害者と加害者の関係」という3つの関係性をそれぞれ考えます
コンプライアンスの記事で繰り返しお伝えしたように、紛争は人と人との間で発生します。職場でのハラスメントは3者が登場するので、誰と誰の間の関係について議論をしているのか、ハッキリさせる必要があるのです。


【第1の視点】事業主と被害者(被害を受けたとされる労働者)との関係

まず、第1の視点として、事業主と被害者(当該労働者)との関係を考えます。
事業主は、ハラスメントについて「当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」と定められています。措置(対応)は義務付けられていますから、すぐに対応してください。

この際、事業主が行うべき対応は、被害者の安全確保→状況把握の順番となります。被害者は、「労働者の就業環境が害される」結果が生じたor生じると感じているわけですから、事業主は、まず被害者の心身状態を確認した上で、さらなる被害に遭わない状態を確保します(出勤停止や人事権行使としての異動等)。

そのあとで、何が起きたのかを具体的に把握して、その行為によって被害者の就業環境が害されたかどうかを確認することになります。つまり、ハラスメントかどうかを議論するのは、被害者への対応が終わったあとの話です。

いずれにせよ、事業主と被害者(当該労働者)との関係は、労働者の就業環境が害されたという【結果】に着目するのがポイントです。「その行為はハラスメントか」という議論を先にしてしまうと、被害者への対応が遅れてしまうので気をつけましょう。

<ポイント>
被害を訴えている労働者に対しては、「労働環境が害されたという【結果】」に着目し、すみやかに安全確保をおこないましょう。「当該行為がハラスメントにあたるか」の議論は、そのあとの話です。

【第二の視点】事業主と加害者(行為をおこなったとされる労働者)との関係

次に考える「第2の視点」は、事業主と加害者(行為者、通報対象者)との関係です。

通報された、加害者とされる労働者は、たいていまず最初は「あれはハラスメントではない」と主張しますから、ついつい「その行為がハラスメントにあたるか」から検討したくなってしまいますね。組織内部に、就業規則やハラスメント規程があって、ハラスメントを明文で禁止している場合であればなおのことです。

しかし、最短距離での問題解決に向けては、ハラスメント該当性からではなく、次のステップで検討することをオススメします。

(1) その行為が、犯罪にあたるか否か(刑事事件該当性)
(2) その行為が、不法行為にあたるか否か(民事事件該当性)
(3)その行為によって、「労働者の就業環境が害される」か否か(≒ハラスメント該当性)
(4)その行為が、組織内のルールに違反したか

被害者から話を聞いて、何が起きたのか把握した後、加害者とされる人物からも聴き取りを行い、何が起きたのか把握した上で、上記ステップに従って評価するという流れです。図にすると次のようになります。

ハラスメントは、とても広い概念ですから、(1)(2)のような違法行為もあれば、(3)のような不当な行為(違法とまでは言えない行為)もあります。
暴力をふるう、大声で侮辱するといった「誰がみても違法」「誰がみてもハラスメント」という行為ばかりではありません。「仕事を与えない」「容姿のことを話題にする」などのように、行為者からすると「子どもの病気で休みがちだから、気遣って仕事を減らしただけ」「コミュニケーションのつもりだった」と『ハラスメントの意図はなかった』と主張する余地のある行為もたくさんあるのです。ここが【受け手によって感じ方の違いが大きい】という、ハラスメントの難しいところでもあります。

だからこそ、事業主と加害者の間においては、「労働者の就業環境が害されるか否か」という『結果論』からアプローチを始めてしまうと、双方にとって納得のいく落とし所に議論を持っていくことができません
事業主と加害者の間においては、「行為そのものの客観的是非」にスポットをあてましょう。

<ポイント>
加害者とされる労働者に対しては、「この人にだからOK、この人にはNG」が起こり得る【結果】ではなく【行為そのもの】に着目しましょう。

つまり、被害者に対する対応と、加害者に対する対応は、最初のアプローチが異なります。事業主がここをしっかり分けて理解・対応できるかが、こじれない解決へ向けて明暗が分かれると言っても過言ではありません!

【第三の視点】被害者(当該労働者)と加害者(行為者、通報対象者)の関係

最後に、第3の視点として、被害者(当該労働者)と加害者(行為者、通報対象者)との関係です。ここは本来的には、事業主が関与すべきポイントではありません。しかし、もしハラスメント行為に違法性があった場合、使用者責任(民法第715条)を追及される可能性もあるので、両者の関係がどういう形で決着するのかは、事業主にとっても関心事です。
どのような形で問題が決着するかまで、しっかり確認し、他人事にしてしまわないように注意をしましょう。

時に事業主は、この第3の視点『だけ』が問題と、誤って捉えてしまう場合があります。2人の間で起きたことだから、2人の問題でしょ、こっちを巻き込まないで!というような態度です。何度もお伝えしていますが、そんな単純な話ではありません。

個人や組織がとっさの損得勘定で保身に走ってこのような態度をとると、通常、事態はさらに悪化します。その結果メディアまで巻き込んでとんでもなく炎上した企業の例は、枚挙にいとまがありませんね。

ハラスメントは、組織からみると、むしろ、第1の視点、第2の視点の方が大事です。ハラスメント対応は緊急度が高いがゆえにとっさの判断が難しく、つい保身から第3の視点のみにフォーカスしがちなので、気をつけましょう。

3つの視点を意識して、適切なハラスメント対応を

ハラスメント事案が起こった際、どの視点から受け止めるかで、事案の見え方は全く変わってきます。

3人が目隠しして象さんの身体の違う部分を触ると、どこを触ったかによって感想が変わってくるのと同じです。

全体像を把握せずに印象だけで物語るのではなく、組織は、客観的に3つの視点すべてから事案を見つめましょう。全体像を適切に把握することが何より大事です。

ハラスメントの問題は、色々な視点を意識しないと、つい一面だけを見て結論づけてしまい、大事な視点を見落とします。気を引き締めて対応していきたいところです!

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