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(1) コンプライアンスは行動が一番大事。そこで「死人テスト」をしよう

こんにちは、非営利組織とコンプライアンス研究会の代表世話人を務める弁護士・塙 創平(はなわ そうへい)です。
私はこれまでの2年間で計10回以上、主に非営利組織の運営者や現場で働く人に対し、ハラスメント防止・コンプライアンス研修を行い、おかげさまで好評を得ています。

コンプライアンス研修は、私が組織に招かれたり、組織で働く人が私の研修会に自ら(もしくは組織から言われて)参加したりして行うわけですが、いざ私が「コンプライアンス」と話し始めると、参加者の皆さんが、死んだ魚のような目をされることがしばしばあります。

・コンプライアンスの前に、目の前の人たちの力にならなきゃ。
・ただでさえ大変なんだから、足かせをつけないでくれよ。
・本業以外の仕事をさせないでくれよ。
・こんな話だけ聞いても、そもそも上が変わらないから何も変わらないよ。

みなさんの目からは、このような切実な訴えが聞こえてきます…。

「これは、なんとかしなければ」と思っていたときに、私は「死人テスト」という概念に出会いました。
さっそくこの概念を取り入れて研修を行うようになってからは、研修の冒頭はともかく、研修が終わる頃には、みなさんの目にやる気に満ち溢れるようになりました。

そこでこのnoteでは、実際のコンプライアンス入門の前にまず、臨む心構えともなる「死人テスト」についてお話ししたいと思います。
コンプライアンスを組織内に伝えようという方も、ぜひ参考にしてください!

コンプライアンスは「習うより慣れろ」

コンプライアンス研修って、講師が「◯◯してはいけません」という言葉を連呼するイメージがありませんか?

「ルールは守らなければいけません」
「ハラスメントをしてはいけません」
「人を傷つけてはいけません」
…知ってるちゅうの! 小学校のときから繰り返し言われてるっての!
耳を閉ざしたくなりますね。

ここで、参加者に耳を塞がずに聞きいれてもらえる工夫のひとつとして有効なのが「死人テスト」です。

「死人にもできることは行動ではない」

by オージャン・リンズレー

オージャン・リンズレーは、行動分析学の研究者です。
彼はこの不作為について、〇〇をしない=死人にもできる=何もしないことは行動ではない、と行動分析学の見地から定義したのです。

確かに、何もしないだけなら、死人でもできますね。

ちなみに、このような「◯◯をしない」ということを、法律の世界では不作為、といいます。「作為」をしない(「不」)から、不作為です。
法律家の考え方では「不作為」も立派な行動なのですが、これは一度横においておきましょう。

さらに、「〇〇をしない」は、その代替となる行動が示されていません。
受け手が「『〇〇をしない』ために、どうしたらいいのか」がわからないので、納得感がないのです。

コンプライアンス研修で、日々現場で奮闘されている方ほど、
そんな机上の空論はいいから、そもそもそんなことしないで済むように、あの利用者/同僚/上司をなんとかしてくれよ。
と思うのは、それが理由でしょう。

では、死人にはできない行動とは、どう示したらいいでしょうか?
実はこれ、特に子どもと関わる保育士や先生方が、プロです。

たとえば……
・大きな声をだしちゃいけません!(大きな声を「出さない」ことは死人でもできる)
アリさんの声の大きさで話そう(死人にはできない)

・走らないで(死人でもできる)
歩こう(死人にはできない)

言葉やメッセージが明確でないと伝わりにくい特性を持っている人に対して話すときも、なんとなく「◯◯しちゃダメ」ではなく、具体的に「こういう風にして欲しい」と言うと伝わりやすいのです。
そしてそのような表現は、当然ながら、誰にとってもわかりやすいわけです。

ですから、誰かに何かを伝えるときは、「(死人にはできない)具体的な行動」を示せているかを意識してみてはどうでしょうか。
私のコンプライアンス研修でも、できる限り、死人にもできることを受講生に求めないことを意識するようにしました。

・ルールは守らなければいけません
あなたの職場でルールが破られやすい場面はどこだろう/守るためにできる工夫を考えよう。

・ハラスメントをしてはいけません
あなたの職場でハラスメントが起こりやすい場面はどこだろう/防ぐためできる工夫を考えよう。

・人を傷つけてはいけません
どのような場面で人を傷つける言い方が起こりやすいだろう/防ぐためにできる工夫を考えよう。

コンプライアンスのような抽象的な話をするときこそ、「◯◯してはいけません」ではなく、「◯◯しよう!」はとても有効です。

死んだ魚の目で研修会に臨んだ皆さんが、「自分が」「今日から実践できる」コンプライアンスを守るための行動案を得て目に力が宿る時は、私にとっても本当に嬉しい瞬間です。

組織内に持ち帰って、そのままのやる気で、変化を生み出したことを祈っています。

NPO組織論の新常識!ケーススタディで学ぶ「ハラスメント防止・対応」実践ゼミ

これが2023年現在、私が特に現在力を入れている研修です。ほぼ同内容を既に3回実施し、ありがたいことに毎回、好評を頂いています。

研修は2時間を3日間、合計6時間かけて、「コンプライアンス」を自分ごととしてイメージできることを目指しています。

<研修内容>
初日:座学としてコンプライアンス・ハラスメント入門を学び、その後ワークショップとして具体的な事例検討・解説。
2日目:自分が実際に所属する組織における、コンプライアンスやハラスメントリスクの洗い出し。
3日目:具体的なコンプライアンス違反の事例を使って、被害者や加害者の聞き取りから賞罰委員会の実施までをロールプレイ。

結局、いくら知識をつけても、経験に勝るものはありません

本やニュースでかじった知識だけで、「私がハラスメントをするわけがない」とか、「うちでそんな問題が起きるわけがない」と言っている人には、コンプライアンス違反やハラスメントを防ぐことはできないのです。

ニュースでは、連日似たようなコンプライアンス違反を目にします。さらに残念なことに、少なからぬ企業で、誰が見ても明らかに「それじゃまずいだろう」という会見により、さらに炎上しています。
これだけでも、コンプライアンスには当事者意識が必要であることがわかると思います。

ただ、「経験に勝るものはない」とは言っても、コンプライアンス違反やハラスメントの「経験」は未然に防ぎたい(防ぐべき)。

ですから、痛い目にあう「経験」をせずとも「具体的にイメージ」できるよう、私の研修では、リスク発見の端緒からその対応までをさらえるようにプログラムを作っています。
座学で知識を学ぶだけではなく、実際の事例検討や自組織の点検、さらには聞き取りや賞罰委員会のロールプレイまでを擬似体験することで、コンプライアンスを自分ごとにできます。

非営利組織向け、特にこれから頑張る若い人向けにかなり安く提供していますが、正直内容的には、一桁お値段が違うくらいの価値があると胸を張っています。

受講生の皆さんは、コンプライアンスに対する意識が間違いなくあがったと思いますし、私自身も、このゼミを行うことで、育ててもらいました。

そして、行動に移せる人の裾野を広げるべくはじめたのがこのnoteです。

まとめ

コンプライアンスは、みんなを幸せにするためにあります。

ですからこのnoteも、「元気になるコンプライアンス!」を目指して発信していこうと思います。

特にコンプライアンスは、知識より行動です。

私が行っている研修も本来、組織にとっての単なるアリバイづくりだけではなく、行動に移すためのきっかけとして行っているものです。
みなさんも、「しないこと」ではなく「すること」をイメージしながら、生き生きとした目で、このnoteを読んでいただければ幸いです。

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