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(2)そもそも「コンプライアンス」とはなに?実は単に「法令遵守」ではない!

営利企業・非営利組織問わず「組織」で不祥事が起きると、「コンプライアンス意識が足りない」という言い訳やバッシングが必ず起こります。

不祥事を起こした当事者やメディアにおいて、もはや定番文句ともいえる「コンプライアンス」。
そもそも、「コンプライアンス」とは何でしょう。

今回は事例をあげながら、コンプライアンスとはなにか、について解説します。


コンプライアンスとは?

コンプライアンスは、英語のcomply(応じる、守る、従う)を名詞にしたcomplianceです。

通常、弁護士は意味が不明確になるカタカナの外来語はできる限り避けますが、コンプライアンスに関しては本来のニュアンスを優先する為、そのまま使います。 

ただ、ここでは、「コンプライアンスとは何か」の理解を深めるため、日本語に置き換えながら説明します。

コンプライアンス=単なる「法令順守」ではない

 コンプライアンス=法令順守だと思っている方は多いですが、正確にはそうではありません。コンプライアンスは、単なる法令順守より広い概念です。

 実はこのことは、文章のプロである新聞社でも間違えていることがしばしばあります。実際の記事を事例として、見てみましょう。

電通Gの五輪談合報告書「法令順守の感度鈍い」
ー以下本文一部抜粋ー
>>電通グループは9日、東京五輪・パラリンピックを巡る談合事件について、外部の弁護士で構成する調査検証委員会による報告書を公表した。報告書は「コンプライアンス(法令順守)リスクに対する感度が鈍かった」などと指摘した。

「電通Gの五輪談合報告書『法令順守の感度鈍い』」
日本経済新聞.2023年6月9日

私はこの記事を読んだ時、違和感がありました。弁護士がコンプライアンスを法令順守と置き換えることは、現在ではほとんどないからです。

そこで元の報告書を読んだところ、確かに「コンプライアンスリスクに対する感度が鈍かった」という言葉はありましたが、やはり「(法令順守)」は見つかりませんでした
どうやら新聞社が、読者の理解を補うために独自に加えたようですが、残念ながらこれは明らかな誤解(誤用)です。

もしコンプライアンス = 法令順守であれば、「法令さえ順守していれば、コンプライアンスには違反しない」ことになりますが、そんなことはありません。そもそも「法令順守」は、「感度」とか「鈍い」とかいう程度の問題ではなく、「守っているか」「守っていないか」の二択であるため、『法令順守の感度が鈍い』は的外れな表現なのです。

つまり、コンプライアンス = 法令順守だったら、調査検証委員会の弁護士は端的に「遵法意識が低かった」と書いたはずなのです。だから、コンプライアンス = 法令順守ではない。

コンプライアンスは、法令順守より広い概念である、ということを、まずは覚えておきましょう。

ちなみに、報告書において「感度が鈍かった」としているのはそもそも「コンプライアンス”リスク”」に対してです。
コンプライアンスに反する事象が発生する可能性(危険性)に対するアンテナが低かったよ、ということが言いたかったのだと思います。

コンプライアンス = 法令等遵守

 今のところ、私を含め多くの弁護士は、コンプライアンスを説明するときには、法令等遵守と表現します。

基本的には、弁護士は「等」がキライです。
「等」に何が含まれるかわからず、対象が不明確になるからです。
ただ、コンプライアンスに関しては、法令「等」と書くことで、法令にとどまらないんだ、ということをハッキリ示すことができるメリットがあるので、個人的にはイヤイヤ受け入れています(笑)

では、この「等」には何が含まれるでしょうか。

まずは、「法令」です。
憲法、法律、政令、勅令、府省令、規則等をいいます。
次に、組織内のコンプライアンスなら、以下に示す「組織内のルール」も法令等に含みます。

  • 定款

  • 定款の下位規程(就業規則、コンプライアンス規程、プライバシーポリシー等)

  • 組織の所属する業界や社会のルール(業界のガイドラインや倫理、常識といったその他の社会規範

コンプライアンスには、これだけ広い範囲が含まれるのです。

私は、弁護士という職業柄、「法律に抵触しないギリギリの線を教えてくれ」と言われることがよくあります。しかし、コンプライアンスには「法令順守にとどまらず、社会規範なども含まれる」ということが理解できると、この問いがいかに無意味であるかがわかりますね。

残念ですが組織は、ハラスメントにならない(不法行為と裁判所に認定されない)ように、人事権の適正な行使を装って、労働者に対し嫌がらせをすることが、(物理的には)可能です。しかし、倫理や常識といった側面からみると、これはコンプライアンス(法令等遵守)を徹底しているとはとても言えないでしょう。

さらに、裁判所が不法行為と認定しなくても、現代ではこのような嫌がらせはしばしばSNSなどに晒され、炎上します。その結果、組織の売り上げが落ちる・人材が集まらないなど、不利益が自身にかえってくるのです。

このようなことまで具体的に想定し行動できる力が、先ほどの報告書でいう「コンプライアンスリスクに対する感度」なのでしょう。

非営利組織とコンプライアンス

コンプライアンスは、その遵守が直接・間接的に利益に関連する営利企業においては、「不祥事を防ぐ」という意味でも理解をされています(ただ、そうであってもなお、不祥事はしばしば起こりますが。)。

「2018年企業が選ぶ弁護士ランキング」の「危機管理分野」で第1位にランクされた國廣正弁護士の著書『企業不祥事を防ぐ』(日本経済新聞出版)では、コンプライアンスを「日々変化する社会的要請にしたがった(=complyする)企業行動」(同書151頁)と定義しています。
complyする対象を「規範」ではなく「日々変化する社会的要請」とし、「遵守」ではなく、能動的な「企業行動」としたこの定義は、あなたがコンプライアンスとはなにかを理解できた今なら、実にわかりやすく感じるのではないでしょうか。

一方で、「企業行動」ですと、私が注力している非営利組織のコンプライアンスは含まれません。

実は、私が弁護士として非営利組織のコンプライアンスに関わり始めた2012年頃は、法人格の根拠法や自団体の定款さえ、ろくに把握できていない団体がたくさん(!)ありました。近年はようやく底上げが進みつつあるものの、コンプライアンスに関連する規程類を自団体単独で作ることができない団体は、いまだに多いのが現状です。

そこで、非営利組織とコンプライアンス研究会の世話人を務める私の法律事務所(りのは綜合法律事務所、といいます。)では、これらの規程類を1つにまとめたコンプライアンス規程(案)と題する雛形を作成し、提供しています。

この雛形におけるコンプライアンスの定義は、法令等遵守の「等」の部分を少し具体的にし「法令、定款、定款の下位規程、その他の社会規範の遵守」としています。法令等になじみの薄い非営利組織の担当者でも理解しやすいようにというねらいがあります。

さらに、以下のような実質的な話をして、コンプライアンスの理解が深まるよう努めています。

  • 法令を守ることが、最低限の出発点
    「法令」とは、常識の最大公約数を明文化したもの(ルール)。
    常識の最大公約数である以上、これを守らなければ始まらない。

  • 法令を守っていれば、社会的な非難を避けられる…わけではない(所詮、最低限。最大公約数)

  • 法令「等」ということは、対象は「法令」に限られない
    ▶︎定款
    ▶︎定款の下位規程   ex)就業規則、コンプライアンス規程、プライバシーポリシー..
    ▶︎その他の社会規範 ex)業界のガイドライン、倫理、常識..

コンプライアンスとはなにかーまとめー

コンプライアンスは、単なる法令順守にとどまりません。

法令等遵守であり、さらにその「等」にあたる「法令、定款、定款の下位規程、その他の社会規範」の遵守が肝要なのだ、ということがなんとなくご理解いただけたと思います。

では、なぜ、組織はコンプライアンスを必要とするのでしょうか。
社会的な非難を避けたいから?
次回はそんな話をしたいと思います。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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