秋
「私はね、親の離婚裁判に出たことあるのよ、すごいでしょう」と自慢しながらニヤニヤ話しているバカがいた。
そのバカは、私だった。
家の5階から飛び降りたらどうなるだろうね、15歳の夏の夜、こんなことばかり考えていた。
秋の夜は、涼しくて気持ちよかったな。私が一番好きな季節だった。
小学校三年の頃から、父が単身赴任で海外行っていて、家に帰ってくるのが一年に一回しかなかった。
父は、いつも季節がちょうど真夏になった頃に帰ってくる。
外、蒸し暑くて耐えられない空気、うるさいセミの鳴き声、売店の冷蔵庫から出した瞬間すぐに溶け始まるアイス、垂れてきたアイスのせいでベタベタになった手と、通りがかりの人の笑顔、全てが嫌だった。
家の中、どぎつい言葉が飛び交っていて、愛し合って結婚を選んだはずの二人は、どうしてこんなになったのか。ご飯を食べている途中に投げ出されたお皿、弟に食べさせようとしたご飯は淡い黄色の床に飛び散っていた。
一刻も油断せずにお互いの言葉尻をとらえながら生きるのが楽しいなのか。
人をイライラさせる空気が部屋に満ちた夏、嫌いだった。逃げようとしても逃げられない夏、嫌いだった。
夏の終わり頃に、父が家から離れていく。
それと同時に、秋もやってくる。
耐えられない蒸し暑い空気も、涼しくなった。開けっぱなしの窓から流れてきた夜風がすごく気持ちよかった、夜も静かで、家の中にゆるい空気が漂っていて、ぐっすり眠れる。秋が気持ちよくて好きだ。
17歳の秋、親の離婚裁判がやっと行われた。待ちわびた日がやっときた。
私は母と原告席に座っていて、父が被告席に座っていた。親が弟の養育権でもめていたから、裁判をするという選択肢しかなかった。
裁判が始まる1ヶ月前、母と一緒に散歩に行った夏の蒸し暑い夜に、母にこう言われた。
「弟はまだ小さいんだから、父に養育を託したらまともな大人になれるわけがない、あんたも弟のことが心配でしょう。それだったら、裁判の日にあんたは父と一緒に生活したいって裁判長に言ってね、あんたもう高校だから、どこ行っても自由だから、養育権が父に取られても自分で行く場所を決められる」
その瞬間に、心のどこかが引き裂かれるような気がした。心の何かが静かに粉々に砕けた。
母の期待に添うために、私は大人しく「はい、わかった」と答えた。そう答えるしかなかった。
その日に、被告席に座っていた父は、父じゃなかった。憎しみに満ちた父の目つきは、忘れたくても忘れられなかった。
それからの数年間も、家族のことを思い出すたびに、その目つきが時々勝手に浮かんでくる。怖かったな、その目つき、私は目を逸らすのに必死だった。
秋も嫌いになってしまった。
text/XIAO
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