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医者の病気①ただの風邪だと思ったら

ときどき医者と患者というものを対立する図式で捉える人がいますが、医者は簡単に患者にもなります。私自身、これまで大小いくつかの病気にかかってきました。そのため、患者サイドの視点で考えることが多く、患者さんの病気も自分の病気のように心配することが多いです。

この「医者の病気シリーズ」では、私が経験した病気について私の視点からお話したいと思います。不定期に、思いついたら綴っていく予定です。

風邪症状を繰り返す

小さい頃、患者さんとずっと接してるのにお医者さんって風邪引かないのかなぁと思っていましたが、引きます。ただ、早めに対処しますし、コロナ以前は軽い風邪なら薬を飲みながら多少無理して働いていました。コロナ禍では、無理するとかえって迷惑をかけることもあるので注意していましたが。

専門医試験も終わり、やっと研究に専念できるようになった大学院生時代のことです。夏風邪を引きました。37℃台の微熱とだるさで、大した症状ではありませんでした。ところがいったん治ったと思うとまた熱が出てきます。何度もそれを繰り返し、だるさはひどくなるようでした。

あるとき、ふと思いついて前頸部を押してみました。すると、ギクっとする痛みが走ったのです。左右どちらだったか忘れましたが、何度か押してみてもやはり痛い。心なしか腫れているような気もします。

これは亜急性甲状腺炎では、と思いました。甲状腺の病気といえばバセドー病や橋本病が有名ですが、亜急性甲状腺炎はウイルス感染によるとされていて、今のコロナ感染後にも増えているという話があります。採血してみたところ、バッチリ甲状腺ホルモンが増えていて、甲状腺刺激ホルモンは低値になっていました。自己抗体はなく、バセドー病・橋本病ではなさそうです。専門医を受診したところ、大当たりでした。

亜急性甲状腺炎を治療する

「亜急性」というのは、急性よりはゆっくり、慢性よりは速い経過をとるという意味です。この病気はself-limitedな、要するに放っておいても自然に治る病気ですが、完治までには半年くらいかかります。

痛みがけっこう強かったため、強い抗炎症薬であるステロイド内服を開始しました。しかし少なすぎたのか痛みは取れず、寝ても起きてもだるく、十円玉を持っても重く感じ、手がへなへなしてしまいます。

甲状腺は前頸部に左右対称な形にあり、代謝を活発にするホルモンを作る工場のようなところです。亜急性甲状腺炎では、そこが攻撃されて、貯蔵されていたホルモンが流れ出たような状態になります。動悸がひどく、寝ていても全身がドクドクと鼓動している感じで、なかなか眠れません。クリーピングといって、左から右に、右から左に痛みが移ります。私も治療中にこれが起きました。9.11(アメリカ同時多発テロ事件)ではニューヨークのツインタワーに相次いで飛行機が突っ込むのをテレビで目撃して衝撃を受けましたが、私の首の上でもそんなことが起こっていたわけですからたまりません。

だるさが限界で、通勤するのもやっとの状態になってしまったので、人生で初めての入院、しかも自分の勤める病院に入院してステロイドを増やすことになりました。増量によって痛みはようやく治まりました。

副作用に悩まされる

しかし、今度はステロイドの副作用に悩まされました。下肢に力が入らなくなり、しゃがんだら立ち上がれなくなったのです。また、ある朝起きて顔に触ったら、前の日より膨らんでいるのを感じ、他人にも指摘されるほど顔が膨らんでいました。これは満月様顔貌と言われる副作用です。

さらに恐い副作用が出ることもあるので、ステロイドは少しずつ減らしていかなくてはなりません。でも早く減らしすぎると炎症が再発してしまうので、調節が難しいのです。そんな事情もあり、結局1か月半も入院してしまいました。ステロイドを完全に止めるまではやはり半年近くかかりました。

当時の私の職場では内分泌科と脳神経内科が同じ病棟だったので、自分が働いてきた病棟の二人部屋(!)に入院しました。1か月半の間には隣のベッドに様々な人が入院して、様々な人間模様をみることになりました。具合が悪く夜中に苦しむ患者さんが隣にいたときは、いたたまれなくなって枕持参でロビーのソファーで寝ていたこともあります。

ようやく元気になって退院が近づいてきた頃には、まだ入院患者なのですがこっそり白衣を来て,別の患者さんの検査をしたりしていました。元気で診療できる喜びを実感したものです。

なんと再発😵

この病気は普通再発しないのですが、私はなんと13年後に再発しました。あ、懐かしいこのだるい感じ…と思って採血したら、また甲状腺ホルモンが上昇していたのです。一度破壊されたところにさらに破壊を受けたので、今度炎症がおさまるころには甲状腺機能低下の状態になるかもしれない、この冬はいつもにもまして寒く感じられることでしょう、と天気予報のようなことを主治医から言われました。それでも前回で懲りたので、また症状も前回よりは軽かったので、ステロイドは使わずに軽い鎮痛薬だけで頑張りました。でも、これ以上の再発は勘弁して欲しいです。

このように、一見風邪のようでも普通の風邪ではない病気は山ほどあります。私から一般の方に言いたいのは、

「風邪だと思うんですが」は言わないほうがいい。

ということです。医者の方も、ああ風邪ですねという気持ちで診察するので、大事な病気を見逃してしまう場合があります。気になる症状を丁寧に簡潔に伝えるのがいいですよ。

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