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昭和の名優シリーズ①加藤嘉さん

私は生まれた時点で生きていた祖父母が父方祖母ひとりだったせいか、おじいさんというものになんとなく憧れがあります。

加藤嘉(よし)さんは、そんな私が(おそらく)初めて見たときから気になっていた俳優さんです。

名前を聞いてピンと来ない人も、写真を見たら、あーこの人!と分かるのではないでしょうか。

でも1988年に75歳で亡くなっているので、現代では見たことがないという人も多いでしょう。

私の中では元祖名バイプレーヤーの俳優さんです。他のおじいさん役の方に比べてとんがった役が多く、独特の話し方と高い声が特徴です。小さな顔とやせた身体、でもよく見るとまつ毛が長くつぶらな瞳で、可愛らしいと感じてしまうという、魅力あふれる俳優さんです。

砂の器

嘉さんといって一番記憶に残るのは、なんといっても映画「砂の器」の千代吉役でしょう。

この映画は何度もリメイクされていて、知っている方も多いと思います。でもこの先はネタバレになるので、これから見たいという人はスキップした方がいいかもしれません。

昭和40年代、ある殺人事件の犯人を探していったところ、その捜査線上に新進気鋭の音楽家、和賀英良が浮上します。この音楽家、裕福な家庭の出かと思いきや、謎多き少年時代を過ごしていて、どうもその不遇な過去を知る人物を自分の出世の妨げになると考え殺したらしいのです。

映画は松本清張原作のサスペンスで、前半は捜査が難航するなか少しずつ状況が明らかになっていくのですが、ラスト30分で、和賀英良の幼少期のつらい経験が、本人の作曲・演奏する「宿命」という曲に重ねて描かれます。

加藤嘉さんが出てくるのはこのラスト30分なのですが、強烈な印象と感動を与えます。和賀英良というのは偽名で、もともとは本浦千代吉の息子秀夫でした。千代吉はハンセン病にかかったため村に住めなくなり、妻も離れてしまったため息子の秀夫を連れて全国放浪の旅に出るのです。

ハンセン病というのは、結核と同じ抗酸菌の一種であるらい菌に感染して、皮膚と末梢神経が障害される病気です。今では治療薬もありますし、実は感染力も弱いことが分かっていますが、当時は偏見・差別の対象となっていました。そのせいでこの親子は旅中ひどい目に遭います。

そんな中、善良な警官に助けられます。この警官が過去を知っている人物として殺されてしまうわけですが、私の推すもう一人の名優、緒形拳さんです。 

私的には史上最高のツーショット

裏をとるために訪れた刑事に、千代吉は成人した秀夫の写真を見せられ、本人だと気づいて号泣するのですが、「こんな人知らねえ!」と絶叫して証言を拒否します。この震える演技を見たくて、私は何度もDVDを見てしまいます。

テーマ曲「宿命」も素晴らしく、音楽がこれほどまでにストーリーに食い込んだ映画はないのではないでしょうか。ちなみにずっと芥川也寸志さん作曲と思っていたのですが、よくみたら菅野光亮さんの曲だったんですね。刑事の台詞で「彼は演奏している間、会えない父親と会っているんだ」というものがありますが、自分で曲を作るようになって初めて、この台詞の意味を実感するようになりました。

それぞれの嘉さん

「砂の器」では弱々しい役でしたが、元祖「白い巨塔」では知的で厳格な大河内教授を演じており、これはかっこいい嘉さんの姿です。ここではまた別の魅力を見せてくれます。

きりっとした嘉さん

かと思うと認知症患者も演じます。モスクワ国際映画祭で最優秀主演男優賞をとった「ふるさと」では、あまりに自然な演技で、本当の認知症ではないのかと審査員が思ったほどだと言われます。

認知症であっても、子供に釣りのてほどきをします

こんなふうにいろんな顔を見せてくれる嘉さんのファンは私以外にもたくさんいるとみられ、こんな本も出ていますよ。(もちろん既に持っています)


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