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【マタイ効果】「持たざる者」は「持つ者」に成れるか

持っている者はさらに与えられて豊かになり、持たない者は持っているものまでも取り上げられるでしょう。

マタイによる福音書13章12節

この言葉は、イエス・キリストが弟子たちに教えた「種を蒔く者のたとえ話」の中で述べられているもので、このたとえ話でイエスは「神の言葉が人々の心にどのように受け入れられるか」を、さまざまな地面に蒔かれる種に例えています。

ここで言う「持っている者」とは、「神の言葉や教えを理解し、それに従うことができる人々」を指します。彼らはその理解を深め、さらに多くの知恵や洞察を得ることができるという意味です。

一方、「持たない者」は、「神の言葉を受け入れないか、表面的にしか理解しない人々」を指します。彼らはその浅い理解さえをも失ってしまうと言うのです。

聖書に親しみのない私たち一般のビジネスパーソンにとって、神の教えを信じる人を見ると「え?」というリアクションと共に敬遠されたり、場合によっては忌避されるかもしれません。

しかし、この神の教えを「新しいビジネスの情報」や「人生が上手くいく情報」として解釈すると、私たちの見方は180度変わり、まるで新しい儲け話に飛びつくかのように、急に関心を持つのではないでしょうか?

神の教えにおいて、最もしてはいけないことが「偶像」を作って拝むことですから、実は神の教えそのものが「情報」として捉えられるのです。

さて、聖書のこの一文を累積的優位性の法則として「マタイ効果」と名づけ提唱したのが、アメリカの社会学者ロバート・キング・マートンでした。このネーミングセンスはまさに白眉と言えるものでしょう。

マートンは1968年に発表した論文でこの概念を紹介しました。彼は「科学における業績と名声の不均等な分配」を説明するために「マタイ効果」と名付け、著名な科学者が同等の業績を挙げた場合、無名の科学者よりも多くの権威や資金を受ける傾向があることを指摘しました。

マートンの研究の一環として、彼はノーベル賞受賞者に関するデータを分析しました。その分析の中で、彼は次のようなパターンを発見します。

  • ノーベル賞を受賞した科学者は、その後の研究業績がさらに高く評価され、引用される頻度も増える

  • 同じ質の研究を行っていても、受賞者でない科学者の業績は受賞者ほどの注目を集めない

ちなみに、マートンの論文は、The Matthew Effect in Science で読むことができます。意外と面白いので、興味のある向きはどうぞ。そして以下はこの論文からの引用です。

最近の報告では、生物学者R.C.レウォンティンとJ.L.ハビーが共同で執筆した二つの論文に関して興味深い現象が見られました。この二つの論文は、内容も発表の仕方も非常に密接に関連しており、同じ雑誌の同じ号に連続して掲載されました。一つ目の論文は新しい研究方法を説明し、二つ目の論文はその方法を自然集団に適用した結果を詳細に報告しています。

この共同研究は、構想、実行、執筆のすべてにおいて真の共同作業であり、著者の順序も交互にして公平を期しました。しかし、「二つ目の論文は一つ目の論文よりも50%以上多く引用されており、一つ目の論文が引用される際はほとんど必ず二つ目の論文とセットで引用されていましたが、二つ目の論文が引用される際には一つ目の論文が一緒に引用されることはあまりありませんでした」。

この現象は「マタイ効果」の典型例です。つまり、分野内で既に知られている研究者が、共同作業の成果であっても過剰に評価され、その結果さらに有名になるという自己強化的なプロセスです。

1966年当時、レウォンティンは既に12年間のキャリアを持ち、集団遺伝学者の間でよく知られていましたが、ハビーのキャリアはそれほど長くなく、生化学遺伝学者の間で主に知られていました。そのため、集団遺伝学者はレウォンティンをチームの主要メンバーと見なし、彼に過剰な評価を与えたのです。

このように、評価の不均衡は、科学の世界でも依然として存在しており、既に著名な研究者が共同研究の成果であっても大きな評価を受ける傾向があります。これは、新たな才能が正当に評価されるための課題として考えられるべきでしょう。

上記について、「これは科学分野だから、私たち一般的なビジネスパーソンには関係ない!」と思うなかれ。「読んでもらえない」という悩みを前提に取れば、私と同じく、ここnoteで成功を目指す人にとってみると「そうなんだよ、なかなか読んでもらえないんだよお」と、大共感されることは間違いありませんんね。(私だけ?)

それでは次に、著名な科学者や権威ある研究機関が持つ既得権と、無名の研究者の成果がいかにして影に隠れてしまうかを浮き彫りにした、「ある世紀の大発見の裏で起きていたエピソード」について見ていきたいと思います。

消された英雄

1962年、DNAの二重螺旋構造の発見による功績から、この年のノーベル生理学・医学賞を受賞したのは、ジェームズ・ワトソン、フランシス・クリック、そしてモーリス・ウィルキンスの3人でした。しかし本当であれば、ある一人の女性の姿もここにあるはずでした。

1950年代初頭、DNAの構造を解明する競争が科学界で盛んに行われていました。ロザリンド・フランクリンはX線結晶解析の専門家として、キングス・カレッジ・ロンドンでDNAの構造を研究していた女性です。

フランクリンは、1952年に撮影した有名な「写真51」と呼ばれるX線回折画像を通じて、DNAが二重螺旋構造を持つことを示唆する証拠を得ました。しかし、フランクリンの研究は当時あまり注目されていませんでした。

フランクリンの「写真51」は、彼女の同僚であるモーリス・ウィルキンスによって、ケンブリッジ大学のジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックに見せられました。ワトソンとクリックは、これを基にしてDNAの二重螺旋構造モデルを完成させました。

1953年、ワトソンとクリックはNature誌に論文を発表し、その論文は非常に高く評価され、広く引用されました。一方で、フランクリンの貢献は当初ほとんど認識されず、彼女の仕事は同じ時期に発表されましたが、同じ程度の注目を集めることはありませんでした。

ワトソンとクリックの二人は、ケンブリッジ大学のキャヴェンディッシュ研究所という非常に名声のある研究機関で研究を行っており、この研究所のリソースと支援は彼らの研究に大きなアドバンテージを与えていました。

一方のウィルキンスは、キングス・カレッジ・ロンドンでロザリンド・フランクリンと共に研究していましたが、フランクリンとは異なり、彼の立場は比較的高く評価されていました。

そしてそのフランクリンは、1958年に卵巣がんで亡くなっており、ノーベル賞の対象外でした。

この出来事にはいくつも議論があり、例えばウィルキンスは、フランクリンの「写真51」をワトソンとクリックに見せた人物ですが、この行為はフランクリンの同意なしに行われたという点で問題視されています。ウィルキンスは、フランクリンのデータを共有することで、自身の研究の評価を高める意図があったのかもしれない、と言われています。

ワトソンとクリックは、「写真51」を見た後にDNAの二重螺旋構造モデルを完成させたことで、彼らの発表は科学界で大きな反響を呼びましたが、フランクリンの貢献についてはほとんど触れなかったことで、彼女の研究成果を彼らが利用したとの批判を受ける理由となっています。

フランクリンの死後、彼女の業績が再評価されるまでの間、ワトソン、クリック、ウィルキンスは彼女の貢献を十分に認識しなかったという批判もあります。特にワトソンは、後に出版した著書『二重らせん』において、フランクリンの描写に対して多くの批判を受けています。同書では、彼女の研究の重要性を軽視し、個人的な描写が偏っていると指摘されています。

フランクリンの貢献が正当に評価されなかったのは、まさにマタイ効果のお手本のようなもので、名声ある者には更なる栄光が与えられ、無名の天才の業績はあたかも存在しなかったかのように扱われる、科学界の皮肉な現実を見事に体現しています。

持っている者は、最初から持っていたのか?

ここからは、科学という枠組みから抜け出し、ビジネスの世界において誰もが知っているであろう歴史的な「持っている者」をいくつか挙げてみたいと思います。

「持っている」と言えば百人百様の価値観によって定義は異なるかと思いますが、そうは言ってもまず真っ先に思い浮かぶのはやはり「現ナマ」ではないでしょうか。

というわけで世界一の大金持ち[1]といえばこの人、ジョン・D・ロックフェラーの名を上げないわけにはいきません。19世紀後半のアメリカでは、ロックフェラーが設立したスタンダード・オイル社が石油業界を支配しました。ロックフェラーは、その強大な資本力と効率的な経営手法を駆使して競合他社を次々と買収・排除し、石油市場を独占するに至りました。

次に、これを現代企業で考えてみれば、GoogleやAmazonのようなテクノロジー企業は、巨大な資本とリソースを持っているため、新しい市場や技術に投資する体力があり、それがさらなる成長と市場支配を可能にしています。彼らはデータ解析や人工知能の分野で先行者利益を享受し、競合他社が追随するのを非常に困難にしています。

ブランド力という観点でも見ていきましょう。AppleやNikeのようなブランドは強力なブランド力を持っており、それを基にして新製品の開発や市場展開を迅速に行うことができますね。その結果として、既存のブランド力がさらに強化され、他の企業に対して市場参入障壁を高くします。

さて、このようなビッグネームを挙げれば、「それは彼らだからできたことでしょう!」という指摘を受けることになるわけですが、しかしそれでは、彼らは生まれた時から「持っていた者」だったのか?ということを、まずは知らねばならないのだと思います。

ジョン・D・ロックフェラーは「持たざる者」として貧しい家庭に生まれました。彼は若い頃から商才を発揮し、19歳で最初のビジネスを始めました。彼の成功の鍵は、慎重な投資と財務管理にありました。1863年に石油精製業に参入したロックフェラーは、効率的な運営と価格競争力で市場を拡大しました。スタンダード・オイルを設立した頃は、まだ大企業とは言えず、競争の激しい業界でのし上がっていきました。

Googleは、ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンがスタンフォード大学の学生だった1996年に始まりました。彼らは大学の寮の一室で検索エンジンの開発を始めました。「持たざる者」である彼らには当初、資金はありません。外部からの投資を受けるまで300回以上も断られ続けており、当時は学生のプロジェクトとして運営されていました。

ジェフ・ベゾスは1994年にAmazonを設立しました。当時、彼はニューヨークで金融業界に勤めていましたから「持っている者」と思われがちですがが、そんなことはない普通の人、つまり持たざる者です。彼はインターネットの成長に着目してシアトルに引っ越し、当初はガレージでオンライン書店を開業していたのです。最初の数年間は、限られた資金とリソースで運営されていました。

スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックは1976年にAppleを設立しましたが、やはり最初のコンピュータはジョブズの両親のガレージで組み立てられ、初期の資金はジョブズが所有していたミニバンの売却によって賄われました。Apple Iは限られた資源の中で開発されたものです。

フィル・ナイトとビル・バウワーマンは1964年にBlue Ribbon Sportsを設立し、後にNikeとなりました。ナイトは日本のシューズメーカー、オニツカタイガー(現在のASICS)の靴を輸入販売することからビジネスを始めました。初期の投資はナイトが個人的に調達した資金で、決して大金と呼べるものではありませんでした。

このように、今日の私たちが思う「持っている者」の多くは、「持たざる者」からその歩みを始めていることがわかります。

彼らのような成功者たちが示しているのは、努力と挑戦の「先」に道が開けるという事実です。彼らも最初から「持っていた」のではなく、逆境の中で行動を起こし続けた結果、「持つ者」となったに過ぎません。

ですから私たちもまた、その足跡を辿ることができるのです。彼らの成功は、彼らの日々の小さな努力の積み重ねによるものなのですから。

しかし多くの人は「自分が本当にやりたいことがわからない状態にいることにすら、気づいていない」かもしれません。

ドイツの文豪、劇作家のゲーテは、「自分自身の道について迷っている子供や青年のほうが、他人の道を迷いなく歩いている大人よりもずっと好ましいと思う」という言葉を残しています。ですが、実際に他人の道を迷いなく歩いていると自覚できる人はどれほどいるでしょうか?

まずは「気づく」ことから始めましょう。今、あなたが歩んでいる道は本当に自分自身のものですか?それとも、他人の期待や世間の価値観に従っているだけではないでしょうか?

現状に甘んじるのではなく、「いま、ここ」から、何でも構わないので何か一つ新しいことに挑戦してみる、それだけで未来が変わるかもしれません。現実は厳しいですが、行動を起こさなければ何も変わりません。小さな一歩から、大きな変化は始まります。

行動を起こせば必ず応えられるという保証はありません。しかし、行動を起こさねば、何も開かれません。何も見つかりません。何も与えられません。

実際に、大きな成果を上げるために、今すぐ大きなことをする必要はありません。あなたも、「いま、ここ」から一歩を踏み出せば、未来を変える力を手に入れることができるかもしれません。

求めなさい。そうすれば、与えられる。捜しなさい。そうすれば、見つかる。門をたたきなさい。そうすれば、開かれる。

マタイの福音書7章7節



[1]
インフレ調整後の資産価値を考慮すると、マンサ・ムーサ(14世紀のマリ帝国の王)が、史上最も裕福な人物とされることもある。



僕の武器になった哲学/コミュリーマン

ステップ2.問題作成:なぜおかしいのか、なにがおかしいのか、この理不尽を「問題化」する。

キーコンセプト24「マタイ効果」

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