モロッコ便り~遅れてやって来たボトルメール②

こんにちは、塚本です。
前回に引き続き、昨年滞在していたモロッコでの日々の断片をお届けします。

本題に入る前に少しだけ。
現地の友人たち何人かとは今もメッセージでのやり取りが続いています。
といっても、短い近況報告ばかりですが、時々はっとさせられることもあります。
「元気?最近どうしてる?」
「元気だよ!ずっと家にいるけど」
「ははは、僕も。今は似たようなもんだな」
“今は”似たようなもんだと言われ、あらためて、私と彼らは全然違っていると日々感じていた去年の感覚を思い出します。同時に、私の場合は、違うところがあり過ぎるからこそ、境界線なんて軽々と無視して無邪気に現地の人に話しかけることができたのではないかとも思います。
一方で、いきなり飛び込んでくる怖いもの知らずの私を前にして、彼らは彼らで異質な人間に対する恐れのようなものを抱いて当然だったと思うのですが、それでも、“似たようなもん”とは言い難い私のことを彼らの多くが受け止めて、関係を築いてくれました。それはとても貴重で、有り難いことだったのだなと、今になって一層しみじみと感じられるのです。

11月6日(水)

今日は祝日(緑の行進記念日)だったけれど、靴売りのおじさんはいつものようにいた。久しぶりじゃないか! 会うのは15日ぶりだ! と言われた。たしかに、少し間が開いてしまったかもしれない。
長居はしなかっただけで、ちょくちょく会って短時間のおしゃべりはしていたように思うのだけれど、記録も記憶もなくなってしまったので、本当のところはわからない。

おじさんが陣取っている場所の目の前の通りには普段は車がびっしりと駐車されているが、今日は全然停まっていなくて、祝日なのだなと思った。いつもよりすっきりとした路肩には、荷台のついたバイクが停められていて、果物を売る人がいた。その果物売りは靴売りのおじさんと雑談していた。私が行くと、果物売りの人が荷台からマンダリンを取って、一つくれた。おじさんと一緒にその場で食べた。

そのまま道端にいると、背中の丸くなった小柄なおばあさんが通りかかり、靴売りのおじさんが挨拶をした。聞けば、同じ通りでいつも物乞いをしている、アイシャというおばあさんだという。この通りはよく歩いていたつもりだったのに、今まで気づいていなかったということに自分で驚いた。挨拶と自己紹介をしたら気に入られて、「あんたはいい子だね~」というようなことを言われた(彼女の話し方はなぜかとても聞き取りにくい)。靴売りのおじさんは「良い心を持っていれば、周りにも良い人しか集まってこないんだ」と言っていた。

11月15日(金)

モロッコの冬は雨季にあたるので、寒いなか雨が降る日が続く。雨が降っていると外に出るのが億劫なので部屋にいることが多かったけれど、こんな天気の時、あの通りの人たちはどうしているのだろう、とふと気になり、会いに行こうと思い立った。アイシャは年齢的に(といっても、実際に年齢を聞いたことはないのだが)この寒さなら家にいるのではないか、おじさんはおそらく今日も働いているだろう、と勝手に予想した。寒いだろうから何か温かいものを持って行こうと思い、洗った空きペットボトルに紅茶を入れて持って行くことにした(紅茶の冷まし方が足りなくてペットボトルが少し変形した)。

向かう途中、アザーンが聞こえてきた。以前、金曜日におじさんを訪ねた時に、彼が席を外していて、駐車の見張りをしている人に聞くと、モスクにお祈りをしに行っているところだったということがあった。なので、今日もお祈りに行っていていないかもしれないと思いながら向かった。
案の定、おじさんはいなくて、代わりにアイシャがいた。アイシャは、おじさんの定位置から10~15メートルほど離れた場所に座っていることが多かったけれど、今日は靴を並べたシートのすぐ横にいた。というのも、おじさんが陣取っている場所には大きな木があって、雨が避けられるのだ。背後の建物の壁が内側に凹んでいる部分に腰かけたアイシャは、ビニール袋で体をすっぽり覆うようにして万全の雨対策をしていた。

持ってきた紅茶をアイシャに渡すと、「美味しくない、砂糖がほしい」と言われてしまった(モロッコの人たちはたいてい、ミントティーでもコーヒーでも砂糖をたっぷり入れて飲む)ので、近くのカフェで角砂糖を2つだけもらってきてペットボトルに入れた。ましになったようで、満足してもらえた。アイシャに「ご飯を食べていない」と言われた。また美味しくないと言われてしまわないようにと、どんなものが欲しいのか聞いたら、ヨーグルトとパンと言われた。それだけ? と言ったら、アイシャは頷いた。私は食料品店へ行き、欲しいと言われたヨーグルトとパン、それに加えてビスケットを買った。5.5DH(60円ほど)だった。戻って渡すと、「家にいる子どもにやる、ありがとう」と言って、アイシャはその袋をしまい込んだ。私はてっきり、彼女が自分で食べるためだと思っていたので、驚いた。お腹空いてない? とか、子どもって孫のこと? とか、聞きたかったけれど、私の言葉は全然彼女に伝わらなかったので、本当のところはわからない。


(2020.6.13 塚本)


転載元:語学塾こもれび スタッフブログ


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