【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #23】 バンガーズ&マッシュ(1/4)
ソーセージと自由
メル・ギブソン主演『ブレーブハート』(1995年)の有名なセリフだ。スコットランドの英雄ウィリアム・ウォレスを描いたこの大河映画。イングランドとの決戦に臨む前に味方を鼓舞するために吐かれたセリフだが、スコットランド軍がイングランド軍を破ったこのスターリング・ブリッジの戦いが1297年なので、遅くとも13世紀の終わりまでにはソーセージが食べられていたことになる。
いや、これはあくまでも創作であり、そもそも13世紀末のスコットランド人が「自由(freedom)」という言葉を一般的に使っていたかどうかさえ怪しいのだから、どうかなぁという御仁もいるだろう。しかしともかく重要なのは、ソーセージが自由に対比されて、とても大切なものの反対の、取るに足らない、奪われてもまあ仕方ないな、ぐらいのものだという見解がこのセリフに現れているということだ。だがこれは少し失礼ではないか、ソーセージに。
湯気の立つ熱々のソーセージ(ソセジ、と詰めて発音するほうがイギリスっぽい)。ジョージ・オーウェルが「イギリスのと完全に同類のソーセージにもお目にかかれない」(「イギリス料理の弁護」『一杯のおいしい紅茶』中公文庫、20頁)と鼻高々に褒め上げたソーセージ。イングリッシュ・ブレックファーストや、ヨークシャー・プディングのような生地にソーセージを並べてベイクするトード・イン・ザ・ホールや、ホットドックも含めて、本当に、イギリスでは人によっては毎日のように食べるソーセージ。
そのソーセージがマッシュド・ポテトの上に乗っていて、牛の肉汁かビーフ・ストックにポテト・スターチか小麦粉でとろみを付けたもので玉ねぎを煮込んだグレイヴィー・ソースがかかっている。寒くどんよりジメジメしたイギリスの冬。蒸し暑く鬱陶しい日本の梅雨。どちらにしても、ガツンとヴォリュームのあるこのヒトサラは、いわゆる「ホッと」すると同時に元気の出る食べ物である。保存料たっぷりの加工肉だからどうたらこうたらとか、いろいろあるにしても、空腹を満たし、心を穏やかにし、パワーを与えてくれることは間違いない。
なんだ、ただソーセージを焼いたやつをマッシュド・ポテトに乗っけただけじゃないかと言われれば、そうである。しかし、おそらくそれはイギリスのソーセージを、その独特の触感と食感と風味を知らないものの、視覚だけに頼った短絡的な見解だ。
(続く)
イングリッシュ・ソーセージのレシピ
7本分
材料
道具
作り方
肉だねをつくる
①生パン粉を作る。パンはなるべくシンプルな材料を使ったハードトーストなどを選び、クラムの部分のみをミキサーにかけてパン粉にする。豚ひき肉は肩肉の粗挽がよい。
②すべての材料をボールに入れ、手で素早くしっかりこねる。肉だねがあたたまると脂が溶け出てしまうため夏場などはボールに冷水をあてる、冷水に氷を入れるなどして肉のこね上げ温度が10℃以下になるようにする。混ぜている手がキンキンして痛くなるくらいが10℃以下。
豚腸に詰める
①ひき肉を詰めるための豚腸は塩漬けされて販売しているので、塩抜きのため30分ほど水につけておく。
②絞り袋に口金をセットして、口金の先に豚腸の先端をかぶせてから腕まくりするように豚腸を口金側にたくし込んでいく。水に浸しながら行うと破れにくくスムーズにできる。
③腸の先端を結び、絞り袋に肉だねをいれる。
④絞り袋の広い口側に麺棒を巻き付け、絞り袋を巻き取るようにして肉だねを押し出し豚腸に詰めていく。詰めながらソーセージの太さを手で調整する、豚腸の八分目が目安。
⑤豚腸の最後まで詰め終わったら端をむすび、ソーセージの空気の入っているところをチェックして針を刺し空気を抜いてやる。
ソーセージを結ぶ
①1本の紐状になっているソーセージの真中でくびれを作り右に5回ひねる。これでつながった2本のソーセージができる。
②先のひねった所から13cmほどの所で2本一緒に左に5回ひねる。これで2本のソーセージの先端に輪っかができる。
③この輪っかの中に、どちらかの1本を通す。
④この②、③の作業をソーセージの最後までくりかえす。
⑤最後までできたら、乾燥したところに吊るして表面をかるく乾燥させる。
⑥くびれ部分を挟みでカットして出来上がり、ジップロックなどにいれ冷蔵庫で保存。
次回の配信は6月16日を予定しています。
The Commoners's Kitchen(コモナーズ・キッチン)
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