組織にマネージャーは必要なのか?実際に検証してみた
どんなことを伝える記事か?
こんにちは、株式会社エイチームコマーステック代表の望月と申します。
現在、本社メンバーで約30人の小さな組織において、マネージャーを置かない「マネージャーレス組織」を実現するために様々な挑戦を続けており、その背景や具体的な取組を公開することにしました。
同じような規模の会社で、マネージャーの確保・育成や組織づくりに課題を感じている方のヒントになると嬉しいです。
自己紹介
私は名古屋のIT企業、エイチームグループの子会社であるエイチームコマーステックの代表をしています。
私達は「ココロが動く買い物を」をミッションに、より良い顧客体験をどう提供するのか仲間と日々奮闘しています。
現在は、自転車通販サイト「cyma」と国産ヒューマングレードドッグフードの通販サイト「Obremo」を運営しています。
※cymaは2023年3月に会社分割し、株式を譲渡しました。
私達が目指す組織
エイチームコマーステックの設立時から、私達の組織づくりのテーマは少数精鋭です。
ECを含む小売業は事業の運営効率が悪くなりがちで、エイチームの経営理念を実現するためには、少ない人数で大きな仕事ができる組織であることが理想です。
一人ひとりが高い専門性を持ち、得意分野を中心に高いパフォーマンスを出し続けるエキスパート集団、そんな組織を私達は目指しています。
マネージャーという仕事への疑問
経営陣で目指す組織像をイメージしながら、改めて組織を観察していると、マネージャーという存在に疑問を感じるようになりました。
というのも、マネージャーを任される人材は、メンバーとしてそれぞれの専門領域において高い技術を持ち、実際に成果を残してきた人たちです。
そのメンバーたちが、マネージャーになってどんな専門性を発揮しているのか、わからなくなってしまったのです。
ただ、当社のマネージャーは、誰よりも忙しく動き回っていて、少なくともたくさんの仕事をしていることは間違いありませんでした。
「マネージャーはどんな仕事にその高い能力を使っているのか?」
「マネージャーの仕事はどの程度成果になっているのか?」
この2つの問いに組織を進化させるチャンスがあると考えた私達は、エンジニアチームをサンプルとした検証プロジェクトを立ち上げることにしました。
マネージャー業務の棚卸
経営陣とメンバーで構成されたプロジェクトがまず始めに着手したのは、マネージャーが実際にやっている仕事の棚卸でした。
棚卸にはマインドマップを使用し、大まかに以下の手順で行いました。
ヒト/モノ/カネに分類し、漏れがないように業務内容を抽出
それぞれの扱いを見直し、マネージャーがやるべき業務を確定
それ以外の業務を新たな担当者や会社の仕組みに吸収
このように棚卸を行った結果、当社においてマネージャーにしかできない業務はごく僅かであることがわかりました。
また、メンバー時代に身に着け、成果を出してきた専門性と直接関係のないものが多いことも確認できました。
マネージャーレスへの挑戦
マネージャーの業務には見える化されていないものや、後方支援となるものが多く、その成果がどの程度出ているのかをシンプルに測ることは困難です。
一方で、組織の規模や、メンバーの顔ぶれを考えると、マネージャーを置かないほうが成果につながりやすいのではないかという仮説を感覚的に持っていました。
そこで、実際にマネージャーを廃し、「マネージャー不在であることのマイナス」と「エース級の戦力が1名増えることのプラス」を比べてみることにしました。
(社内では、このマネージャーがいない状態を「マネージャーレス」という造語で表現しています)
先に結論をお伝えすると、開始から半年が経過した状態ですが、マネージャーを置かずとも、チームは問題なく機能しています。
定性的な判断ではありますが、特に目立ったマイナスを生まずにエース級の戦力を1名分増やせたことになります。
マネージャーレスの振り返り
今回の挑戦によって、当社のエンジニアチームはマネージャーレスの状態でも目立った問題は発生せず、さらに高いパフォーマンスを発揮できるようになりました。
ただ、どのチームに対してもマネージャーレスを横展開できるのかというとそうでもなく、実現するためにはいくつかの必要条件がありそうです。
当社での検証は一例しかないため、再現性の観点で言えばまだまだ不確実ですが、必要と感じた点をご紹介します。
当社のエンジニアチームでマネージャーレスを実現した背景には、会社やチームに以下の3つの要素があったからだと考えています。
様々なルールや仕組がある程度整備できている
メンバーがマネージャー業務を吸収できる
意思決定の場がメンバーに公開され全員が参加できる
それぞれについて解説します。
1.ルールや仕組の整備
マネージャーの業務を棚卸した結果、タスク管理やリソース管理、コミュニケーションのフォローを行っていることがわかりました。
タスクやリソースの管理とは、現在進行中のタスクの進捗管理に加えて、日々新たに生まれるタスクを会社や事業にとっての重要度や緊急度を考慮しつつ優先順位を判断し組み替えるという業務です。
また、コミュニケーションのフォローとは、チーム内外で発生するコミュニケーションの窓口や仲介役となり、円滑化する業務です。
これらは、組織内においての仕組やルール、ツールや運用によって、人が介在しなくてもある程度の品質を担保することが可能です。
一見すると、これを推進することがマニュアルやルールに縛られた組織を生み、当社が掲げているエキスパート集団に矛盾するという解釈もありますが、私達は「創造性を発揮すべき領域に頭を使う」ことを大切にしており、
そうではない業務は血液が体をめぐるように、無意識に循環する状態を目指しています。
ルールや仕組については、中核となるメンバーがnoteで発信していますので、興味があればそちらもご覧ください。
2.メンバーがマネージャー業務を吸収できる
マネージャー業務の中には、ルールや仕組によって削減できるものもありますが、誰かがやらなければいけないものも複数あります。
そういった業務は、基本的にチーム内で分散してメンバーに担当してもらうことで解消しました。
言葉にすると簡単そうなのですが、エンジニアが開発業務と並行して開発以外の業務を担うことになるので、メンバーそれぞれの業務遂行能力と業務管理能力が求められます。
実際にやってみると、多くのケースでは各メンバーが奮闘してくれたことでマネージャー業務をまわすことはできました。
また、個々のメンバーでは解決できない、判断に迷う問題が発生したこともありますが、メンバー同士が定期的に共有・議論する場を自ら設け、大半が解消してくれました。
この点は、メンバー個々の能力やチームの成熟度によって大きく結果が変わりそうな気がします。
3.意思決定の場がメンバーに公開され全員が参加できる
マネージャーにはその責任と権限において決定するという役割があります。
各業務を仕組やメンバーに吸収してもらっても、この役割だけは宙に浮いてしまいます。
また、取り扱う内容も専門的で、頻度も高いため、代わりに誰かがまとめてやるというのは困難です。
そこで当社では、毎週開催している経営会議の場を公開し、マネージャーが行ってきた決定を決裁という形に置き換え、メンバーが持ち込めるようにしました。
これによって、事業系のタスクと保守系のタスクのどちらを優先するかなど、従来のエンジニアマネージャーでも難易度が高かった決定をマネージャーレスの状態でも行えるようになりました。
この取組は副次的に、経営メンバーが決裁するための判断材料として、事業やシステムの現状や未来をより高い解像度で理解するようになり、社内の説明コストを減らす効果もありました。
もちろん、良いことばかりではありません。
決裁が必要なタイミングと経営会議の開催頻度が合わず、スピードを落とす可能性があったり、決裁が必要な粒度の認識を合わせるのが難しかったりと、今後に向けた課題も複数見つかっています。
こういった課題は、ルールや仕組の整備によって日々解消しているため、未来に向けて精度が高まっていくと思います。
最後に
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本記事は「マネージャーは不要である」という誤解を招く懸念があるため、念の為申し上げておきますが、全ての組織にマネージャーが不要なわけではありません。(当然ですが、、、)
あくまでもエイチームコマーステックは少数精鋭を目指した小さい組織であり、マネージャーという管理職がいなくても支障がないサイズということが前提にあります。
その上で、理想の組織を目指して今後もたくさんの挑戦を重ねていきます。
ご期待ください!