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ほぼ漫画業界コラム1

 今日のお題は【編集長】 最近の現役編集者が皆口を揃えて言うのは 「編集長にはなりたくない」です。 編集長となって、編集者のマネジメントに追われるよりは作家さんの才能を使って、面白い漫画を作りたい。 あわよくば自分も有名編集者となって世に出たい。 そんな人ばかりになってきました。

 そんな人に対して、ちょっと前まで僕は内心こう思っていたんです。 有名編集者? 作品描いているのは作者でしょ?  なんで作者押しのけて偉そうに君が前に出るの!?  編集者として世に出たいなら編集長目指せよ!  編集者のゴールは編集長なんだよ!  海外では編集長だけがEditorと呼ばれ、それ以外は Assistant Editorと呼ばれるんだよ! いつまでもアシスタント でいいのか君は⁉︎ と心の中で吠えていました。

 子供の頃、僕が最初に知った編集者はジャンプ編集長の鳥嶋和彦さん。次に知ったのがスピリッツの白井勝也さん。洗練されたメディアに、自分が選んだ作者の作品を載せて世の中を変えていく・・・とても素敵な存在に思えたのです。 多分、ほんの10年ちょっと前までは実際に編集者のゴールは編集長だったはずなんですよ。 だから当時の僕はさっさと編集長になりたくて「裏サンデー」というサイトを作りました。結果として当時の小学館、最年少編集長になれて得意になっていました。 事実、当時の裏サンデーは厳選された作品だけを載せた素敵なメディアでした。『モブサイコ100』『ケンガンアシュラ』『マギ シンドバッドの冒険』『ヒトクイ』『世界鬼』etc…すべて自分のセンスで選んだ作品を、自分のセンスで作ったサイトに載せ世の中に反響を呼ぶのです。 こんな楽しい職種が他にあるでしょうか? 本当に楽しかったです。 で す が、それは裏サンデー時代まででした。 裏サンデーからマンガワンに移行してからは 編集長の仕事は地獄のようなマネジメント業務に 変わりました。

 まさに地獄。 少数の編集者でおかしくなるような作品本数を回すのです。 常に編集者や作家さんからトラブルが頻発します。 仕事は毎日毎日トラブルを解決するのみ。 思い出したくもない悪夢のような仕事に変わりました。 なぜ変わったのか。それは話売りの課金機能がビジネスモデルに加わったからです。 紙の雑誌や、当時の裏サンデーは単行本収益モデル。 メディア運営は赤字が当然。収益は単行本で。 それが当然でした。 それがマンガワンになり、1話に対しての課金機能が搭載されました。そして連載作が単行本でなくとも、お金を生むようになったのです。

 毎月、毎月、売り上げが伸びて行きます。初月は100万円ほどの売上が数ヶ月で1億を超えました。作品数を増やせば増やすほど売上が伸びます。 だから当時のマンガワンはとにかく連載本数を増やしました。大手出版社は人材流動性が低く、売上が増えたからといって編集は増えません。なので編集一人当たりの担当作家の数は増えていきます。

 当然、作家さんのケアはおざなりになりトラブルは増えます。編集長の仕事の主はそのトラブルを解決することです。 月の売上が3億を超えた頃、僕は壊れました。 裏サンデー開始時は3人で5作品の週刊連載。 マンガワンピーク時は、5人で週間連載40作品弱を回していたはずです。それが2016年くらいの話。 そして2023年。マンガメディアの主流は紙の漫画雑誌ではとっくに無くなり裏サンデーのようなWEBサイトでさえ無くなりました。ではジャンプ+やマガジンポケット、マンガワン、はたまた自分がその後お手伝いしていたサイコミのようなマンガアプリが、それなのでしょうか?
 僕はその時代も、終わりが近づきつつあると思います。(唯一ジャンプ+のみ違う形で残るかもしれませんが) 現在の漫画メディアの主流は 【ピッコマ】【LINEマンガ】【コミックシーモア】【Kindle】などの電子書店に移りつつあると考えています。親会社のほとんどは世界を代表するような巨大資本企業です。それらは何千億もの広告費や開発をかけて運営されています。そんな各電子書店は次々にオリジナル作品を発表したり、独自の特集を組んだりして徐々にメディア色を強めています。 それに対して出版社などが持つ雑誌やサイトなどの旧メディアは、それらの電子書店が作った新メディアに作品を提供する、いわば編集プロダクションになったのです。 その場合試されるのは出す作品が個別にヒットするかが重要なのであって、雑誌やサイトの中でどのような色を出すのかはあまり関係ないですよね? そうすると各編集者の目標が【いかに沢山のヒット作に携われるか】になってくるのは必然なんでしょう。 というわけで、若手編集者は誰も編集長を目指さなくなったのだと考えられるのです。 まあ、僕なんかも出版社を飛び出して、編集プロダクションを経営したのですから 結局は、同じ思考をしているわけです。

僕の場合所属メディアどころか、所属会社も関係ないと思ったわけですね… ただこれは、単なる懐古主義かもしれませんが、それでも僕は【編集長】という肩書きには輝きを感じています。 コミックルームの幹部には編集長の肩書きを与えています。 そしてその編集長たちを頭にした新しいメディアをいつか生み出したいと思っています。 まだそれがどのようなものか漠然としか浮かんでいませんが、いつか実現させたい夢です。 また、この時代に、働いているすべての漫画雑誌、漫画サイト、漫画アプリの編集長たちにエールを送りたいと思います。コミックルームは、すべての編集長を応援する会社でです。

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