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音楽

不安で、胸がどきどきすることがあった。原因についてはもう何度も何度も考え尽くしていて、あとは天命を待つ他ないとわかっていた。これ以上解消しようもないものに対処するには、不安に与える時間を少なくするしかない。気持ちを落ち着けるために良い方法を探して、わたしはお茶を淹れた。久しぶりに、ていねいに。空っぽの部屋を慣れ親しんだ音楽で満たしその熱いお茶を飲むと、騒いでいたものが急速におとなしくなるのを感じた。「静か」にもいろいろあるが、緊張がはりつめてうるさいくらいの「静か」もあれば、風がそよぎ、鳥がさえずり、けれど確かに余白を感じるやわらかい「静か」もある。雑音で散らかっていた頭の中が突然吹いた強い風で急に澄み渡り、後者の「静か」が降り立ったような、そんな気分だった。

「好き」、という気持ちは、決してあいまいでファンシーなだけの言葉じゃないのだ。好きなものというのは、その人の気質はもちろん、体の反応にも密接に結びついていて、いざという時その人のことをちゃんと守ってくれる。人生の道標にも、避難場所にも、栄養剤にもなりうる。

音楽とお茶があれば何もいらない、と思った。小さな不安におどおどしていたのと、同じ体で。
これからも懲りずに、あらゆることに不安や不満を覚えては立ち止まるのは間違いない、そんな弱くて小さな器の人間だが、たぶん音楽があれば大丈夫なのだ。どんなことがあっても。途方に暮れるたび、いつもここへ戻って来たい。

音楽を聴くのが大好きで、それ以上に歌ったり弾いたりすることが好きで、同じか少し超えるくらい、曲を作ることが好きだ。今までいろいろとあったけれど、ここが揺らいだことは一度もない。
どんなに頑張っても100年、そしてその100年間すら一切保証されていないこの短い期限の中で、早いうちに音楽と出会えて、本当に良かった。

大きな病気もないくせに、「明日突然死にたくないなぁ」としょっちゅう考える。短い期限を自ら縮めるようなことはわたしは絶対にしないが、不慮の事故というのもあるよな、と夕方のニュースを見ながら、いつも思う。
いつか必ずどこかで途切れるのなら、せめてほんの少しでもこの世界に、音楽に、それを愛する人たちに報いることができるようなはたらきをしたい。


Comay.

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