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読書まとめ『心をあやつる男たち』

おすすめ書籍のポイントをギュッと詰め込み、わたしなりの言葉でまとめています。今回紹介するのは『心をあやつる男たち』(福本博文, 文藝春秋)です。

もう品切重版未定になってしまったのか、書店での流通がなく、近所の図書館にもなく、仕方なくAmazonで定価の8倍になっていた中古本を購入。文庫本にウン千円を出すのは、ひよっこ社員には痛かったです…(笑)
が、それでも読みたい、読まなければいけないとずっと思っていた本でした。感想をまとめます。

①ねじ曲げられた人材開発・組織開発

もともとTグループは集団内の人間関係を研究するために使われていましたが、本書によると、次第に、個人の内面を掘り下げることを重視するような流派が現れたそうです。日本の人材育成会社の中には、Tグループを独自の形に変え、内面をさらけ出させることで自己変容を強いるようなセミナーを提供するところさえありました。講師はその自己変容を「チェンジ体験」「精神修養」などと呼び、感情を強く揺さぶる手法によって精神に支障を来たす者があとを絶たなくなったようです。

今はそれほど怪しい会社は見られなくなっているかもしれませんが、人材開発・組織開発がねじ曲げられ、誤った知識が社会に広まってしまうことは非常に怖いことだと感じます。人材開発・組織開発は、精神療法や教育など人の心と密に関係しているからこそ、正しい目的や手法で使われなければならないはずです。人材開発・組織開発の質は、提供する側の学術的・専門的知識の豊富さと倫理観に大きく左右されると感じました。

②輸入する前に工夫を

アメリカと日本では文化や歴史、社会構造、国民性がまったく異なるため、その国が持つ特性によっても、合う手法・合わない手法があるのではないかと思いました。また、米企業と日本企業とで抱えている課題が同じであるとも限らないような気もします。

殊にアメリカでは、言語によるコミュニケーションが日本と比較にならないほど重視され、自分だけが感じている感受性をいかに言語で表現できるかが能力のひとつに数えられるからである。(中略)ところが、日本では言葉に出さずに相手の感情を理解することが『美徳』になっている。

本書 p.131

わたしは本書が書かれた時代を生きてこなかったので実際のことはわかりませんが、もしかしたら当時の日本企業の中には、Tグループが有効的な手法ではなかったところもあったかもしれません。

海外の手法を単に輸入するたけでなく、それは日本に合う手法か? 日本で実践するにはどんな工夫が必要か?という視点も大切だと感じました。

おわりに

本書を読む前から、わたしは、自分の仕事は一歩間違えれば、受け手の人生を大きく変えてしまうリスク、マインドコントロールと差異のないものになってしまうリスクが潜んでいることはわかっていました。
時折、「自分は正しい知識を提供できているのだろうか…?」と、怖くなることさえあります(もちろんわたしの会社は専門的知識を持つ監修者と開発者により、正しい知識に基づいた教材・研修を提供しています)。

そういったリスクがあるからこそ、専門的に学ぶ必要があると、本書を読んで改めて感じました。学びつづけることは、人材開発・組織開発に従事する人の責任であるように思えます。

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