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召されなかった天使【3】





 高木との付き合いが順調にいっていた頃、元カノの話になった。その女は今も私の店の近くで働いているといい、源氏名も教えてくれた。その日は高木の家には泊まらず、自宅に帰った。

 そしてすぐさま元カノを調べた。私の店の近くで働いている、源氏名も分かっている。その女を特定するのは容易だった。

 私は女の宣材写真を見てハッとした。

 高木がいつも身に着けているブレスレットと同じものを着けていたからだ。

 発狂し、スマホの画面を叩き割ってやろうと思った、だがその後すぐに鏡の中の自分見てスマホの中の女と見比べた。

 太っている。

 その女はふっくらしていた、勝った、私は思った。そして画面をスクリーンショットして静かに画面を暗くした。

 サクラと同じ店で競っていても売り上げ以外なにも感じないのは、きっと引き締まっている身体さえもミアには魅力的に感じないからだろう。

 高木との付き合いは楽しかった。それまで行ったことのないような場所、興味も無かったスポーツも高木の影響で好きになっていった。それは、自分の中に高木が入り混じっている感覚で新鮮だった。

 ただ元カノの顔だけは脳裏に焼き付いていた。

 
 順調だと思っていた。高木の仕事仲間にも彼女だと紹介してくれて、皆でバーに行ったり呑み明かしたり、色々な話もした。

 ただ、食事に行った際はやはり自宅へと帰った。高木には、食べれるようになったねと言われ、私も微笑み返したが実際は1ミリも治ってなんかいなかった。

 

 食事をしたときは以前と変わらず、まず1ℓの常温水を半分まで飲み、胃の内容物がシャッフルするようにジャンプする。これは私にとって準備体操のようなものだ。そして気が済むまでジャンプすると、便器の中にティッシュペーパーを引き詰める、吐瀉物が飛び散らないように。そうして便器に向かいお辞儀するような体制をとったら胃の上辺りを左手で押す。右手は勿論口の中に入れ咽頭を刺激し、嘔吐を促す。これを何回も繰り返す、繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し、最後に吐瀉物が濁った水に変わり果て口の中が胃液で苦くなってきたら辞める。


 以前、長く尖ったポイント風のネイルにしていたせいか、咽頭を傷付け出血してしまったことがあり、それからは軽く丸いオーバル風のネイルに変え、より吐きやすくした。

 嘔吐直後の歯ブラシは、歯のエナメル質を削ってしまうため、マウスケアウォッシュでうがいをする。

 そんな生活を続けていくうちに、右の手の甲には吐きダコができ、隠すようにコンシーラーでカバーした。

 

 体重は32・5キロだった。

 

 もっと痩せなきゃあいつに負けるあいつって誰のこと?元カノ?それともサクラ?それとも友達?おまえに友達なんてもんいたっけ?いねぇだろそんなもん今まで一人で生きてきて今だって一人じゃねぇかよいや私には高木がいるじゃあおまえは高木ってやつにゲロまみれの姿見せれんのかよいやそれだけは見せたくないそんな姿は私じゃないじゃあ店でのあの顔がおまえなのか?そんなの営業に決まってるじゃないじゃあおまえは一体誰なんだ誰なんだよ誰だ誰だ誰だ誰だ何者なんだよおまえは誰だ・・・

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