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仮想空間で体を動かすことのリアリティ

今年のゴールデンウィークは新型コロナウイルス感染症対策で人の多いところや景色の良い所に遠出ができず、家の周辺をランニングしたりソロサイクリングしたりする程度でした。外で自転車に乗れないときに室内で自転車に(楽しく)乗れるZwiftの環境を少し良くしてみようと考え、自宅のスピンバイク改善以外にちょっと違うチャレンジもしてみました。

Zwift スピンバイク改善 <note
https://note.com/com_design/n/na42d2f0ff55a

Zwiftユーザーの誰もが一度はあこがれる環境は、Zwiftのホームページで扉になっている部屋でしょうか。3方向の壁面全体と床に映像が流れ、まるでWatopia(Zwif内にある仮想の島)を本当に走っているように感じる空間です。

Zwift扉

Zwiftホームページより

しかし、モノであふれた小さな借家の我が家では、このような白い壁が広くとれる部屋はありません。。。ありました、会社の会議室です。タイミングもゴールデンウィークなので、期間限定で会議室の隅っこを利用してみましょう。

日頃ビデオ撮影や編集で協力いただいている日本PRさんに使っていないプロジェクターがあると聞いてので借りてきました。しかし、いざ設置しようとすると問題が生じます。前面の壁に映像を映すためには壁の反対側の離れた位置から投影する必要があります。となると、自転車に乗っている私自身の後ろにプロジェクターがあることになり、私の影がばっちり前面に投影されます。台形補正機能で多少良くなりますが、それでも壁前面に投影できる角度にはなりませんでした。また、遠くから映すことになって明るさが少し足りず、夜に照明を消しておけばできなくもないですが、やはりそれなりに明るい環境で乗りたいので、プロジェクター映像を大きく投影することはあきらめました。(※ 短焦点タイプのものなら壁のすぐ近くに設置でき影ができません。)

そこでプランBです。会社には皆のスケジュールなどを常時映している50型のモニターがあります。これを自転車の目の前にもってくることで、視界をこのモニターで埋めれば仮想空間に入り込んだような知覚が得られるのではないかと考えました。やってみましょう。

はい出来ました。カラーボックスをモニターの足部分に合わせて左右に配置することで、画面を顔に近づけることができ、視界いっぱいになるまで調整できます。

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実際に使ってみましょう。想像していたよりもリアルな感じです。特に一人称視点にしているときにはZwiftの世界に入っている感じがあります。(以後の動画は帽子のツバにつけたGoPro Hero8の広角で撮影しています。実際の視点はもう少し下で視界は少し狭くなります。)

建物や樹木などの描画クオリティは今どきのゲームに比べてずいぶん低いのですが、自分が働きかけることで景色が変わるためか、想像していたよりもリアリティがあります。これは明治大学の渡邊先生が言うところの自己帰属感の空間版でしょうか。
(参考>「融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論」 渡邊恵太著)

特に動画後半の自転車をこいでいる自分の影は妙にリアルです。にせものの影がボトルを飲んでいると、一瞬自分の腕が動いて水を飲んでいるように認識して混乱するほどです。

ところがこのリアリティがかえって問題を起こすことになります。

景色が流れ順調に走っていることから、だんだんいつも自転車に乗っているイメージに慣れてきたころに、道なりに左側に90度曲がる箇所に差し掛かりました。いつも通りに走ろうとしたら一気にバランスを崩して転びそうになったのです。

この場所の前にT字路ありますが、そこは何とか曲がれていました。そこは交差点なのでどちらに曲がるか、車や他の自転車・歩行者が来ていないか左右を確認するなど(バーチャルだから必要ないけど)、自転車こぐこと以外に気にすることもあり、この時は現実の自分は三本ローラーに乗っているので自転車を傾けてはいけないとも意識していました。
しかし、一本道のカーブでは頭の中では傾けてはいけないと意識しながらも、見ている景色に大きく影響されて自転車を傾けてしまいました。車輪が滑ったときにとっさに足が出ましたが、クリートをはめていたら完全に転んでいました。この後も少し乗ってみましたが、カーブのたびに意識と身体、自転車の不自然な関係がどうしても気持ち悪くて続けられませんでした。

この不自然さに慣れることでバーチャル空間内の活動が充実するとも言えますが、それはどうなのでしょうか。現実の空間にバーチャル空間を似せるのであれば、知覚できる内容や認知を現実に近づける必要がありますが、今回の体験からも課題が多いことがわかります。今後の技術の発展で可能性はあると思いますが、すぐには変わらないと思われます。別の考え方としてバーチャル空間を現実と切り離す方向もありますが、その場合はあえて「現実の三次元空間」をバーチャル上に再現する必要はないでしょう。もっと違ったバーチャルに適した「空間」があるはずです。ヘッドマウントディスプレーの可能性と幻滅もこれに近いものがあるのではないでしょうか。これらは研究していきたい分野です。

ここまできたので他にも少し試行錯誤してみました。プロジェクターを使おうとした目的の一つは、床にも道路を映して没入感を高めることでした。いざ映してみようとすると、Zwiftの画面内にある道路は前方エリアのみで、床部分の映像はありません。自転車前方に垂直の画面があることが前提の視界になっています。無理やり道路の手前部分を手前に伸ばせないか試してみました。液晶モニターとプロジェクターをマルチディスプレー設定にして上下に2画面としたり、複製画面としてプロジェクター画面は周辺の雰囲気演出用としたりしてみましたが、うまくいきませんでした。特にZwiftの画面は縦横比が4:3あたりから横方向の比率が短くなると、画面構成が対応していないようで文字などが縦長になってしまいます。また、壁面の下まで画面が映っていても、自転車に乗っているときは見ていませんでした。

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Zwift正方形

縦につぶれたような画面になってしまう。手前の道路は表示されない。

最初に示したZwiftホームページの扉に戻りますが、これは見せるための空間でした。この動画を視聴者が見て、自分自身が行う場面をイメージさせることに大成功しています。Zwiftの画面だけを見せるよりも、自分がバーチャル空間に入り込んで体を動かすことを想像しやすくしています。他の用途としてスポーツジムなどで複数人数で一緒にトレーニングするときも使えそうです。隣の仲間と流れる景色を一緒に見られるのでモチベーション維持の効果が期待できます。
これらのことは半分は分かっていましたが、やっぱり自分自身で体験したいことと、現実空間とバーチャル空間の違いを理解した上でうまく構築したいこと、現代のVRへのモヤモヤを今後もう少しきちんと言語化したいことなどからチャレンジしてみました。

Zwift扉

Zwiftホームページより

結局どうしたかというと、下写真のようになりました。Zwift画面は横方向に伸ばす分にはちゃんと表示されます。50型モニターの左右にさらに27型画面を縦方向で配置します。これで横寸法約1760mm(3,840 + 1,440 × 2 = 6,720 ピクセル)、縦寸法約660mm(2,160 (2,560)ピクセル)の画面になりました。会社の大きいモニター総動員です。モニターのピクセル数が微妙に合っていませんがそれぼど気になりません。左右の情報パネル部をあまり気にしないなら見える景色も広がり快適です。とある界隈で流行っている曲面横長モニターの用途にぴったりですね。

全体のレイアウトとしては画面内に入り込まないように画面とローラーも少し離しました。

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これだけ気合いれたローラー空間も、会社の会議室なのでゴールデンウィーク限定でした。あれこれ試していたら、ローラー乗っている時間よりも、セットアップのために費やした時間の方が長くなってしまいました。

でも、大きなモニターやパソコンを持って1階と2階を何度も上り下りしたので、大変良いトレーニングになりましたよ。



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