楽しさの追求が、1000人のバトラーを生んだ【ビブ人名鑑#4:五十嵐孝浩さん】
ビブリオバトル普及委員会で活躍中の方へのインタビュー企画、「ビブ人名鑑」。
今回のゲストは、東京八王子で次々と新しい企画を生み出し続けている、五十嵐孝浩さん。
五十嵐さんのモチベーションの源と、将来の夢とは?
五十嵐 孝浩(いがらし たかひろ)さん
ビブリオバトル普及委員会関東地区地区担当。八王子を中心として東京の西部などへのビブリオバトルの普及を行う独立グループ、BiblioEi8ht代表。建設コンサルタンツ会社勤務。Twitter: @BiblioEi8ht
BiblioEi8htのバトラーが多いワケ
ー 五十嵐さんといえばBiblioEi8htで活発に開催しているイメージですが、最近はどのようにビブリオバトルと関わっていますか?
今年に関して言えば、1月と2月はBiblioEi8htでリアルでの開催を行えたんですが、その後感染症拡大の影響で、開催を控えていました。
もともとリアルでの開催が好きだったこともあり、オンラインでの開催は乗り気でなかったんですが、我慢できなくなって(笑)、5月はZoomで開催しました。
6月と7月はZoomも併用しつつ、リアルの会場で行えたんですが、これからの開催も感染症の様子を見ながらになりますね。
ー BiblioEi8htでは、これまで何回開催されているんですか?
7月の開催で、67回目でした。
2014年の4月から、ほぼ月に一度のペースで開催しています。
一度の開催で何回もゲームを行うことが多いので、BiblioEi8htでビブリオバトルを行った回数だと235回になります。
ー 67回の開催で235ゲーム!?平均して毎回3回以上ビブリオバトルをしているってことですか?
そうなりますね(汗)
最大で1日6ゲームしたこともあります。
会場でゲームした後、飲み会の場でさらにビブリオバトルをする、というのが定番の流れです。
BiblioEi8htの参加者は、発表が好きな方が多いのが特徴なんです。
参加者の3分の2は発表を希望されるんですよね。
バトラーの人数は、のべ1,000名以上にもなります。
ー バトラーの人数すごい…!なぜBiblioEi8htの参加者はバトラー希望の方が多いんでしょう?
私が主催しているそもそもの理由が、「自分が発表したいから」なんです。
それと、企画を考えるときに「どうやったらバトラーである自分が発表したくなるかな?」という発想で考えるんですよね。
だからバトラー目線で楽しい企画が生まれて、発表希望者が多くなっているのかもしれません。
バトラーが盛り上がりすぎて、逆に観戦しているだけの人は楽しめてるのかな?と不安になることもあります(笑)
ー ブラインド・ビブリオバトルやダブルバウト・ビブリオバトルなど、斬新で面白そうな企画が多いのも特徴ですよね。
ありがとうございます(笑)
八王子という土地で行っているんですが、アクセスがやや不便なので、参加者に来てもらうためには企画で勝負するしかないのでは?と思う部分があるんですよ。
でも最近では、BiblioEi8ht発信の企画を実施してくれる方々も増えてきているので、変わった企画を継続させて、定着させ、広めていくことも意識し始めています。
「これをやるために生きてきたのかもしれない」
ー 五十嵐さんが、ビブリオバトルに出会ったきっかけはなんだったんでしょう?
2013年に谷口忠大さんの新書『ビブリオバトル 本を知り人を知る書評ゲーム』を店頭で手に取ったことですね。
その頃、人生で一番本を読んでいた時期で、「どうやって本を選ぶか」が、私にとって大きな課題でした。
Amazonのレビュー欄のサクラやステルスマーケティングが騒がれ出していたこともあったので。
ビブリオバトルの新書を手に取り、ルールを読んだ瞬間、「自分はこれをやるために生きてきたのかもしれない」と思いました。
ネット上の書評ではなく、生身の人間から本を紹介される、というアイデアは、「どうやって本を選ぶか」という課題への一つの答えだと感じたんです。
ー 本で出会われたんですね。実際にやってみたのはいつなんですか?
本を読んだ後、ビブリオバトルをやるために大学サークルのOB会を企画し、そこでビブリオバトルを紹介してやってみました。
主催も発表も、それが初めてです。
そしてこれはもっとやりたいし、広めたい、と確信を持ちました。
その後、勤務先のお昼休みの勉強会や、PTAでの開催を呼びかけたんですが、参加者集めに苦労したので、一般向けの開催をすることにしました。
そこで2014年2月に立ち上げたのがBiblioEi8htです。
ー BiblioEi8htが始まったんですね!開催してきて、どんなときが一番楽しいですか?
まずは自分がチャンプ本を取ったときです(笑)
それから、BiblioEi8htをきっかけにビブリオバトルにハマってくれた方を見るときですね。
最初「私は口下手なので観戦だけ…」とおっしゃっていた方が、いつの間にか発表するようになり、気づけば常連になっているのを見ると、「ああ、その方にとって楽しめる場を提供できているんだな」と感じ嬉しくなります。
ビブリオバトルに来てくれる方って、本が好きで個性的で、他人とのコミュニケーションが苦手で、人前でプレゼンするなんてもっての外、みたいな人が多いと感じてるんです。
でもそんな人たちだからこそ、ビブリオバトルの場なら楽しめる、という可能性を秘めていると思っています。
だから、誰かが私の提供した場を楽しんでくれているのを見ることが、大きなモチベーションになっていますね。
最近では勤務先も私の活動に着目してくれて、今年度の会社のリクルート用広報ムービーに起用されています。
コントロールしない。だからうまくいく
ー 五十嵐さんにとって、一番印象深いビブリオバトルはどれですか?
BiblioEi8htだと、「なんでもあり」をテーマにしたときですね。
これは本のテーマが「なんでもあり」なだけではなく、それまでのBiblioEi8htの企画バトル、つまり書名を明かさない「ブラインド・ビブリオバトル」や二人で一冊の本を紹介する「タッグマッチ・ビブリオバトル」、2冊の本を紹介する「ダブルバウト・ビブリオバトル」などを自由に使って構わない、というゲームでした。
ー 異種格闘技戦ですね!
上着の下にわざと派手な服を仕込んできて、おもむろに上着を脱ぎ「バブルの頃はこうでした」と言い出す方がいたり、タッグで挑んだペアが唐突に演劇を始めるなど、破天荒で盛り上がりました。
もう一つ、これは八王子のある小学校で先生を対象に講師をしたときのことです。
校長先生がとても熱心な学校で、児童が行うビブリオバトルに立ち会うことになったんです。
予選を勝ち抜いた5・6年生の代表が闘うビブリオバトルに、「せっかくなら大人も加えましょう」と提案したら、本当にそうしてもらえたんですよ。
ー 大人も?
はい。児童の代表者3名に大人を2名加えることになりました。
そこで、PTAと八王子市内の図書館からそれぞれ代表を選出することになり、それぞれでも予選を行ったんです。
ー 本格的ですね!
そうして決勝戦を体育館で行ったんですが、子どもたちの発表がとても上手でした。
でも先生に聞いたら、
「私たちも今日子どもたちが何の本を紹介するつもりなのか知らなかった」
と言うんですよ。
ー じゃあ事前の練習なども指導していないということですか?
そうです。
もともと講習で、「選書も発表もなるべくコントロールしないでほしい」と伝えていたんですが、本当にその通りにしてくれていたようなんです。
子どもたちの発表は、構成や体裁が整っているというようないわゆるプレゼンの上手さではなく、ビブリオバトル的な上手さと言うか、胸に迫ってくるものでした。
小学1年生から6年生までが、それをちゃんと静かに聞いて、良い質問をするんですよ。
私は決勝戦で司会をしていたんですが、その空間にいると、思わず目頭が熱くなってしまいました。
ー 学校だけどゲームとしての良さがよく出ていますね!
先生はどうしても「良い発表をさせたい」という願いや「失敗したらどうしよう」という不安から、何の本を選ぶのか尋ねてしまったり、原稿を作らせてしまいがちなんです。
でもそこをぐっと堪えて、コントロールしないようにすることが大事だと思います。
そうだ、雀荘を作ろう
ー 五十嵐さんの、これからの野望はなんでしょうか?
野望と言うよりはただの夢なんですが、ビブリオバトル・ルームを作りたいと思っています。
ー ビブリオバトル・ルーム?
はい。
言い方が正しいかわかりませんが、ビブリオバトル版の雀荘のような場所です。
ビブリオバトル好きな人が来て、ふだんは雑談か何かをしてるんですが、誰かが「やる?」と声をかけると、みんながわっと集まってビブリオバトルが始まる空間なんです。
ビブリオバトルを運営していて、大変なのが場所の確保と参加者集めなんですよね。
なのでその課題を解決できる空間が作りたいです。
ちなみに理想では、下の階には書店があって、ビブリオバトル・ルームで出てくる軽食は美味しくて有名になります。
そしてそこの会費で生活できたら最高ですね(笑)
ー 最高です!(笑)
ー 最後に、五十嵐さんにとってビブリオバトルとは?
会社と家族以外、人生の三分の一を費やす場所、「サードプレイスそのもの」です。
ー ありがとうございました!
ありがとうございました。
五十嵐孝浩さんが代表を務めるBiblioEi8htのHPはこちらから。
「ビブ人名鑑」シリーズでは、ビブリオバトル普及委員会で活躍されている方々のインタビュー記事を不定期に掲載していきます。
どうぞお楽しみに!
お読みいただきありがとうございました。
インタビュー・執筆:益井博史
取材日・場所:2020年8月12日(水)Zoomにて
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