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わたしにとっての本

本について思いを巡らせると、いくつもの風景が浮かんできます。

北海道の故郷は小さな町でしたが、大きな窓から空と山が見渡せる図書室がありました。

まだ行ったこともない国々の紀行書、感情の機微に触れられる小説、戸惑う心にヒントをくれる心理学の本。

「もっと知らない世界を知りたい」という気持ちと一緒に、何を読もうか棚をぐるぐると巡る時間がとても幸せでした。

本は、世界と自分を繋いでくれる窓のような存在でした。

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大学生の頃、当時憧れていた方から一冊の詩集を勧めていただきました。

詩集はそれまで私にとって身近なものではなかったのですが、読み始めてその表現の美しさに衝撃を受けました。

春の海のきらめき。
まるで心を映すような、湖の透明感。
初めて訪れる街をひとり歩く時の、静かに高揚する気持ち。

心の中にしまった大切な記憶のかけらを一つずつ取り出して、からだ全体に思い出させてくれるような感じがしました。

そして、本を読み終わった後、目に入る風景がガラッと変わって見えました。

本は、世界のあたらしい見方を教えてくれるレンズのような存在だと感じました。

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社会人になりたての頃、職場の人間関係に悩み、朝早くから時には終電近くまで働く生活に辛い思いをしていました。

その頃、移動時間にたった5分でも好きな本に触れる時間が私を支えてくれていました。

短歌の音の響き、暮らしを綴ったエッセイの温もり、優しく包み込んでくれるような言葉たち。

本は、「あなたは好きなものをいつでも選ぶことができるよ」と静かに伝えてくれるお守りのような存在でした。

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大人になってから15年間で、海外も含めて6回の引越しを経験してきました。

何度整理をしても手放せず、一緒に旅をしてきた本たちは親友のような存在です。

誰も知り合いのいない街で生活を始めるとき、いつもの顔が並ぶ本棚は「きっとここでの暮らしも素晴らしいものになるよ」と背中を押してくれます。

新しい一歩を踏み出したいとき、言葉は強い力をくれると信じています。

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