おしゃべりの中身が知りたい
近所にある実家で鍋パーティをした。ちょっとふんぱつして、年末に豪勢な蟹すきセットを購入してあった。両親と私たち夫婦、娘たちの三世代での鍋パーティは、年末年始の恒例行事になりつつある。
ふるふると揺れる蟹の身はサッと火を通す程度にとどめ、わずかなポン酢で味わうのが好きだ。いつのまにか娘たちもじょうずに食べられるようになった。白菜もお豆腐も、みんなで食べると美味しいんだなぁ、これが。
楽しいひととき、気になるのは男性陣の様子。私の両親と三世代で集まると総勢6名になる。そのうち男性は、父と夫のみ。
このふたり、やたらと仲がいいのだ。
父は、腎臓に不調を抱えるまでは「お、○○くん(夫の名前)、飲みに行こか」と、夫を連れてよく出かけていた。私には妹しかいないので、はじめてできた義理の息子がかわいくて仕方ないようだった。夫もまた、よく父を誘った。
「お父さん、ゴルフの帰りにいい酒を買ってきたんです。いっしょに飲みません?」
夫が、父にそんなふうに声をかけるのを頻繁に見かけた。「いいねー」と頬をゆるめる父。そして、男ふたりだけでお酒を楽しむのだ。夫は、旅行のときも父のためにお土産を買う。お年賀も、父の好みにフォーカスして選んでいた。
父が腹膜透析をするようになって2年。最近では、お酒を楽しむ姿は見かけなくなったけれど、相変わらずふたりは楽しそうに話しこんでいる。
「あれさぁ、ぜーったい私たちの悪口で盛り上がってるよねぇ」
私と母は、そう言っていつも笑い合う。聞き耳を立てたことはないのでよくわからないけれど、70代男性とアラフォー男、そんなに話すことがあるものだろうかと不思議に思う。
昨日もふたりは、蟹を食べ終えたあと、笑顔で話しこんでいた。私と母は、食洗機にお皿をほうりこみながら「あ、私たちの悪口言ってる!」とからかった。
「しょーもない話しかしてへんがな」
笑みをにじませた声で父が答えるのも、いつもどおりだ。
去年のある時期、父は体調を崩した。その前の年も、何度か入院した。体重はこの2年で15キロ減り、風貌も少し変わってしまった。そんな父の数年を知っているだけに、このお正月の光景が大切に思えて仕方がない。
「しょーもない」話で家族が盛り上がるのは、この上なく幸せなことなのだ。父が元気を取り戻してくれてほんとうによかった。
だから私は、いつもどおり言う。この光景がずっと続くよう、願いをこめて。「おしゃべりの内容、気になるよねぇー」
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