八月最後の日曜日

夕方、
「せっかく美容院で髪を切ったから、ちょっとでも出かけたい」
という夫の願いで、少しだけ店を冷やかしに外に出かけた。

夏のセールはすっかり終わって、ショーウィンドウに並ぶのは秋物ばかりになっている。
ドラッグストアに立ち寄って、必要な消耗品をついでに買い足す。
「ちょっと花屋を見せて」というと、夫は自分では興味もないのに必ず花屋に寄らせてくれる。

エアコンの効いたデパートの中から、日が沈んだばかりで少し明るさの残る繁華街に出る。まだ熱気の残る夏の夕方で、空気は湿気を含んで生ぬるい。
夫がビニール袋を持っていない方の手を私に伸ばす。
その手を繋ぎながら不思議な気持ちになる。

私は結婚しないと思っていた。
結婚生活は私には難しいし、多分向いていないし、結婚したら相手を不幸にするとも思っていた。
ほんの5年前まで、夫に出会うまで、ぼんやりとそう思っていたのに、今私は自分の夫と手を繋いで、二人して洗剤やトイレットペーパーを抱えて、「晩ごはんは何にしようね」などと言いながら、当たり前みたいに自分たちの家に帰っている。

結婚する直前、夫を騙して不幸に陥れてしまったような罪悪感を感じていたのが嘘のように、自分たちの家に帰るのだというのが、ひどく穏やかで安心なことのように感じた。

八月の夜、たくさん湿気を含んだ空気が、水の中にいるみたいに肌にあたる。繁華街のネオンや電飾が、おもちゃじみた光に見える。
隣には夫。私の手を握って、当たり前みたいに家に帰る。
私は馬鹿みたいに安心しきっている。

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