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自分は給料泥棒だと思っていた

今の会社に新卒で入社して10年目、キャリアの7~8割方を人材育成の畑で過ごしてきた。もちろん勤務地や職責は変わったし、担当業務も微妙に広がったり縮まったりすることはあったが、業務上の担当領域としてはあまり大きな変化がないキャリアだと思う。


仕事柄、就職活動中の学生や若手社員と話す機会が多いのだが、よく聞かれるのが、「採用や育成の仕事をやりたかったんですか?」ということ。
「そう、キャリア面談でやりたいことを会社に伝えたら叶ったんだよ」と言えたら配属ガチャに怯える彼ら彼女らをきっと安心させてあげられるのだろうが、残念ながら事実は全く違う。

総合職で入社した私は、OJTの名のもとに、”現場”に配属された。2階建ての事務所で、毎日お客さまからの電話を取り、インターホンが鳴ったら階段を駆け下りて、受付のお客さま対応をする。現業職の男性の多い職場だったが、父親や兄のような感覚で可愛がってもらった。朝早いときは7時半から、ときには終電近くまで、だいたい時間ごとに決まった業務があった。ルーティーンをこなしながら、イレギュラー対応を一人で回せるようになってきたのは素直に嬉しかったし、毎日タイムカードの退勤打刻をするときは、戦を終えた戦士のような達成感があった。

OJT後の配属、聞いていた話と違う

OJTは1年で、2年目からはジョブローテーションで色々な部署を経験すると言われていた。法人向けサービスの会社なので、色々な業界のお客さまと接点を持てるのが面白くて、営業がいいなあと考えていた。実際、現場にいたときも商談に同席させてもらったり、案件を担当させてもらって社内会議で進捗を発表したこともあった。人事と面談をした際も営業に興味があると伝えていたし、先輩からは「うちは新卒の数が少ないから、結構希望が通るよ」と言われていた。ここまで書いてみて、我ながらキャリアパスについて十分に伏線を張っていたと思う。

ところが、だ。
ちょうど9年前の今くらいの時期ではなかろうか。社内が定期異動に向けて浮足立っていた頃、険しい顔で誰かと電話していた上司が、電話を切るなりツカツカと私に歩み寄りながら、「本社!人事!」と言ってきたのだ。初めての異動内示にしてはハードすぎる。

ちょっと待ってくれ。話が違いやしませんか。
あの人事との面談は何だったんだ。あの先輩、適当なことを吹き込んだのか。もちろん会社なのだから全て希望通りにいくはずはないのだが、社会を知らない弱冠23歳の甘ちゃんは、裏切られた感をずっしりと抱えたまま異動の日を迎えることとなった。

ゴールの見えない仕事、今日の成果って何?

異動先は人材育成チームだった。私のメインミッションは、新卒採用の社員(つまり私にとって1つ下の後輩)向け研修だった。「社会人2年目の私に何を教えろと?」「人選ミスですよ!」と、何度も喉元まで出かかった。当時は外部の研修会社を使っておらず、企画やコンテンツ作成から、研修当日の登壇も内製でしなければならなかった。

これが苦しいのなんの。
現場では、「これが終わったら今日は終わり」というゴールが自分の中にあったし、今日の自分がやり遂げた業務を明確に挙げることができた。

ところが新しい部署は違う。いつ、誰に、どんな目的で研修を行うのか。その目的を達成するためにはどんなコンテンツを入れるべきか。研修の効果はどうやって測定するのか・・・パワーポイントの作成に取り掛かる前に考えなければならないことが無限にある。ネットで「新人 研修」と検索して、頭のよさそうに見えるそれっぽい理論や手法を並べて企画書まがいのものを作っては消し、作っては消し。8時間の研修の裏側に費やす裏側の労力の多いこと。「今日の成果はパワーポイントのスライド2枚」と気づいたときには「ああ、私は給料泥棒だ」と絶望した。

全知全能の社員なんていない

それでも今、辞めずにこの会社にいる。人材育成の分野においては、それなりに社内で知識と経験を積んできたと思っているし、奥深い仕事だと思う。
そう思えるようになったのは、「いつまでも教わる立場でいてはならない」ということに、社会人人生の割と早い段階で気づくことができたから。教えてもらうのを待っているのではなく、苦しくても自分から学びに行く、学びをつかみに行く方が面白いし、最終的に自分のためになる。

いい研修とはどんな研修か、と聞かれたら明確に答えるのは難しいが、今のところ持っている一つの答えは「考えさせる研修」である。考えさせるために必要なのが、「良い問いかけ」だ。人間は問いかけられると無意識のうちに答えを出そうとする生き物らしい。(昨年下記の書籍と出会ってから、ますます興味深いものになった)

「5年後、10年後のあなたはどうなっていたいですか」「職場で期待される役割を発揮するためにどう行動していきますか」などなど、研修のために考えたはずの問いは、いつしかそのまま私に跳ね返ってきて、自分自身を深く内省する原点となり、様々なことに興味をもつきっかけを与えてくれた。

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面白くするのも面白くなくするのも自分次第

結局、面白い仕事というのは滅多になくて、仕事を面白がれるかどうかなんだというのが、社会人を10年やってみて感じるところである。自分の仕事にどんな意味や価値があるのか。自分はどんな人間になりたいのか。そんなことを考えさせられる機会が、幸か不幸か私のキャリアでは度々あったというだけだ。

今、自分が給料泥棒かと聞かれたら、「違う」と言える勇気と根拠は持っているつもりだ。(分野的にコストセンターであることに変わりはないのだが)疑問とも不安ともつかない思いに絡まれて、20時過ぎにパソコンの前でため息をついていた9年前の自分にもしも出会えたら、そっと背中を押してあげたい。

#会社員でよかったこと

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