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子ども達を性被害から守る仕組みを作るには、もっと犠牲が必要ですか? #保育教育現場の性犯罪をゼロに

呼吸が苦しくなるような事件が起きました。しかも、立て続けに。

ベビーシッターマッチングサービス大手企業の登録シッターが、派遣先の子どもに対する強制わいせつ罪で逮捕されたのです。


保育サービスを運営する組織の一員として、そしてひとりの親として、今回の事件はまさに背筋が凍るものであり、全く他人事とは思えません。

二度とこんな悲しい事件を起こさせないためにはどうすればいいのか、自分なりに考えてみました。すると、同社だけでなく保育業界全体の構造的な問題があることがわかったんです。

そのひとつが、過去に性犯罪の前科がある者でも普通に保育現場で働けてしまうことです。


小児わいせつは再犯率が極めて高い犯罪です。性犯罪者の前科を調べたところ、過去に子どもに対する性犯罪の前科がある者が84.6%もいたという調査結果があります。

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参照元:平成27年版犯罪白書, 法務総合研究所


アメリカの研究等では、1人の性犯罪者から生み出される被害者数は平均380人と推定されています。

小児わいせつという犯罪の性質を考えれば、保育業界、というより、子どもと関わる業界から前科者はキックアウトする必要があると思います。

しかし、現状ではその仕組みが日本に存在しません。

これではいち民間企業がいくら努力しても限界があります。行政が主導して仕組みをつくらねばなりません。


前回、この問題に取り組む諸外国の事例として英国のDBS(Disclosure and Barring Service)を取り上げました。

DBSの詳細はぜひ上記の記事をご確認いただきたいのですが、ざっくりいうと、性犯罪の前科がある者は子どもと関わる業界で働くことができないようにする仕組みです。

子どもと関わる仕事に応募する際は、DBSから発行される無犯罪証明書を提出する必要があります。この書類の提出なしに働くことは法律違反です。働く人も、雇った会社も。


この仕組みを知ったとき「これ、絶対に日本でも導入した方がいいじゃん」と思いました。更に詳しく調べてみるとDBSの運営コストは安いどころかむしろ黒字!2018年度の純剰余金は約5千万ポンド/年(≒67億円)

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参照元:Disclosure and Barring Service Annual Report and Accounts


もはや、導入しない理由が見当たりません。でも日本には存在しない現実。いったいなぜ…?

居ても立ってもいられず、まさにこの問題に取組まれてきた木村弥生議員にその理由を伺ってみました。すると、衝撃の事実が判明。しかも2つも。


ひとつめは、与党を中心とした議員有志が日本版DBSといえる法案を本年度(!)の臨時国会に提出しようとしていること。

ふたつめは、この法案は今のままでは強制力を持ったものにならず、現状を変えるには不十分であるということです。


次の臨時国会(秋頃)が開かれるまでの今この瞬間が、知らず知らずのうちに正念場になっていました。

子どもたちを性犯罪から守る最大のチャンスであり、しかし、私たちがアクションを起こさなければそれが大きく後退してしまうんです。



現段階では強制力のある法案になっていない

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木村弥生議員にお話を伺いました。突然のインタビューのご相談を快諾いただき、感謝してもしきれません。


野田聖子議員を中心とした議員有志が次の臨時国会に提出しようとしている法案は「児童売春・児童ポルノ対策強化のための関係法律の整備に関する政策骨子(案)」として調整がすすめられています。

ここでは略して「児童売春・児童ポルノ禁止法改正案」とします。

最初は日本版DBSとして起案されたが、既存の法律を改正する方が実現のハードルが低いため、児童売春・児童ポルノ禁止法を改正する形にした


法律のプロである官僚たちが徹底的に調査&調整した上で内閣が国会に提出する閣法(政府提出法案)とは異なり、これは議員立法です。議員たちが主導して作ります。

実はこれ4年以上前から検討されており、現在まで既に11回に及ぶ関係者の会議が重ねられていました。小さな勉強会も含めると数えられません。

議員立法は極めて難しい作業です。新しい法律はそれ単体では存在できません。既にある無数の法律との整合性を取らねばならないからです(官僚はこの整合性をとるプロ)

「こんな法律、作りたい!」と議員が思っても「あ、この部分があの法律と矛盾するんでダメですね。こちらの部分はこの法律と矛盾します」みたいになって、気付くとなんの実効性もない法案になってたりします。

そのハードルをいくつも乗り越えてようやく次の臨時国会に出せるか、というところまでこぎつけたのですが、それでもまだ現段階では強制力を持った法案にはなっていません。

「子どもと関わる仕事をする人に児童売春・児童ポルノ禁止法の前科があってはいけない」という趣旨になっており、英国のDBSのように無犯罪証明書を出すことを義務にはしていませんし、罰則もありません。

いわゆる「努力義務」というやつです。



行政の前例踏襲の壁

もちろん、お話を伺った木村弥生議員は「これでよし!」なんてこれっぽっちも思っていませんでした。他の議員有志も同様だそうです。

実際これまでにこの法案に強制力を持たせる為あらゆる努力をしてこられましたが、各省庁の前例踏襲の壁が立ちはだかりました。

法案に対する反対理由として主にあげられたのが加害者の更生の妨げと、個人情報の保護です。


「は?」って感じですが、もちろんそれを聞いて黙っている議員たちではありません。しかし、暖簾に腕押しのような問答が続きました。


「加害者の更生は確かにとても大切だけれども、それは子どもと関わる仕事じゃなくてもできるはずだ!」

子どもと関わる仕事って、たくさんありますよね。同じ仕事でも状況によって違いますし、どのように定義するのですか


「本人が無犯罪証明書を提出するだけで、本人以外の主体が勝手に個人情報にアクセスできるわけではない!」

提出しないってことは自分が有罪であると示唆するようなものではないですか

などなど…


そして、このような対応を担当者がした時に議員各位が深掘りできない理由、それが縦割り行政の弊害です。

例えば、先のキッズラインの事件を受けてベビーシッターにもこの規制を適用させようとすると

ベビーシッターは保育に関わる仕事なんで、厚生労働省ですね
いやいや、ベビーシッターを提供している主体は「企業」でしょう。それなら経済産業省の管轄です
でも、内閣府から助成金が出てますよね。それならそっちを整理するのが先では


言うまでもありませんが、官僚の皆さまは社会のために身を粉にして働いてくれています。敵でもなければ抵抗勢力でもありません。ただ、その業務には優先順位があり、世論の後押しのない議員立法には労力をかけづらい現実があるようです。


このままだと時間が過ぎていくばかり。何も進展しない。それならまずは努力義務でもいいから法律をつくって、そこから時間をかけて強化していくしかないのではないか。

議員有志はそう考えたそうです。確かに法律を変えるのは大変なことだし、時間をかけて少しづつやるべきなのかもしれない。

でも、本当にこのままでいいんでしょうか。私たちは何もしなくていいのでしょうか。



いま、私たちの力が必要です。  #保育教育現場の性犯罪をゼロに

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性犯罪は「魂の殺人」と言われます。子どもの一生に関わる非常に重大な事案です。それがこれだけ立て続けに起きて、しかも、考えたくありませんが、今も起きているかもしれない。

そしてその原因はいち企業の怠慢だけではなく、社会の仕組みの問題でもあります。

法律をつくるには立法事実が必要といいますが、今回のキッズラインの事件は立法事実としては不十分でしょうか。DBSのような仕組みをつくるには、子どもの犠牲がまだ足りないのでしょうか。


今、本年度の臨時国会に法案を提出できるかもしれないところまできています。法案の中身は調整の途中です。

次こんなチャンスが来るのはいつでしょうか。また子どもが酷い性暴力にあった時でしょうか。そんなのは辛すぎます。


この機会をどうしても活かさなければと思うんです。

議員立法には与党だけでなく野党の賛成も必須です。是が非でも、これは政局抜きで、子どもたちのために超党派で進めていただきたいです。法案の内容を実効性のあるものに強化し、国会で成立させたい。子どもの大切な人生を守りたいです。


それができるのは、もう私たちだけです。今ならできるかもしれない。

社会の関心が集まれば、与野党関係なく政治が本気で動きます。政治が本気になれば、行政だって動きます。

私はNPO職員として、そういう瞬間をこの目でみてきました。


そこで皆さまに心からお願いです。SNSを通じた作戦にご協力いただけないでしょうか。

子どもに寄り添う社会にしたい、という想いを込めて【 # 保育教育現場の性犯罪をゼロに 】とハッシュタグとコメントをつけて、SNSで発信していただきたいのです。

6月25日加筆】当初 # StandByKids で拡散しておりましたが、作戦の目的をシャープにする為に # 保育教育現場の性犯罪をゼロに を追加しました


現状では「児童売春・児童ポルノ禁止法改正案」は、性犯罪の前科がある人は子どもに関わる仕事で働かないようにしてね、という「努力義務」です。

私は、今回の「# 保育教育現場の性犯罪をゼロに」作戦を通じて、子どもに関わる仕事をする人が無犯罪証明書を提出することを法的義務にしたいです。

その為には、議員立法を頑張ってくれている議員有志の活動を世論が支援している、とういことを可視化する必要があります。

地味かもしれません。地道すぎるかもしれません。でも今必要なのは皆さまひとりひとりの声しかないんです。


私にはもうすぐ8ヶ月になる娘がいます。子育ては大変ですけど、本当にかわいくて、元気をくれて、愛おしくてしかたありません。

娘のために、子ども達のために、できることはやってあげたい。子どもたちが安心して笑って過ごせるようにしてあげたい。

この国を、子どもに寄り添う社会にしたいです。

どうか、皆さまの力を貸してください。


【後日追記】 その後の展開

記者会見を実施しました。当事者として被害児童の保護者、そして現役ベビーシッターにご登壇いただきました。20社近いメディアにご参加いただき、その後、TVや全国紙、そして各種WEBメディアで取りあげていただきました。社会の認知が飛躍的に高まりました!




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前田晃平
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