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普通のママが半年で社会を変えるまで

ここのところ、多胎育児(双子ちゃんや三つ子ちゃんの育児のこと)の支援が拡充されているニュースが次々と飛び込んできます。


本当に多くの人の努力、そして積もりに積もった当事者の皆さまの想いがこの施策に結びついたのだと思います。

でも、なんで突然、多胎育児が注目されているのだろう?と思いませんか。


実は、きっかけがあったのです。

それはたったひとりの女性の想いでした。

僕の勤めている認定NPO法人フローレンスの仲間、いっちーです。

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2020年1月31日、都庁で小池都知事と面会した時の写真。小池都知事に赤い資料を手渡している女性がいっちー。



とはいっても、いっちーは政治家じゃありません。

専門家でもないし、多胎育児の当事者ですらありません。

二人の娘の育児に奮闘しながら働く普通のママです。


実はいっちー自身、ほんの少し前まで多胎育児が抱える問題を認識すらしていませんでした。


それが、行政に働きかけを始めてからわずか半年でこんなことになったんです。


どうしてそんなことができたのか…?


今回はそんな自慢の仲間のここまでの活動の軌跡を書きました。

多胎育児がどれだけ大変で、なぜそれを今支援する必要があるのか、という点については下記のnoteにまとめていますので是非ご覧ください



LINEのメッセージからはじまった

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はじまりは、ママ友でつくっていたLINEグループでのメッセージ。

いっちーの20年来のご友人Aさんは数年前に双子ちゃんを出産して以来、時折、育児の大変さをこぼすメッセージを送ってくるようになりました。

「クローゼットの中に籠もって、時間が過ぎるのをただ待っていることがある」

「育児が楽しいなんて今は思えない」


これはイカンと思い、気晴らしに外出に誘っても子どもを連れての遠出は難しいといって、叶いません。


そこでいっちーは、自身も二人の娘の子育てと仕事で大忙しでしたが、空いた時間を見つけてAさんの保育園のお迎えを手伝うことにしました。


ここで多胎育児の大変さだけでなく、それを取り巻く社会の無理解を痛感することになります。


バスに乗車拒否される

ベビーカーが入らないからとタクシーにも乗車を断られたり

ファミサポ(自治体が運営している、地域での子育てを助け合う活動)を使えと言われても、決まった時間に決まった場所に出向かねばなりません。そもそもそれが難しい…

等々…


社会は多胎育児を支援するどころか、自己責任だと突き放してる有様。


これでは自分が個人的にサポートするだけではAさんを救えない…

いっちーはそんなふうに思うようになりました。

2019年7月頃のことです。



勇気をだして地元の政治家に連絡してみた

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ここでいっちーはAさんと相談して、地元の政治家に連絡をとってみることにしました。

こういう社会問題をどうにかするのが政治家の仕事だからです。


でも議員に知り合いなんているはずもないので、ネットで頼りになりそうな人を探すところから始めました。


そして本目さよさんのHPを発見。勇気をふり絞ってメールをしました。


すると…

すぐ返信がきました。「会いましょう」と。


本目さんに二人で会いに行き、自分たちが感じている課題感をありのままにぶつけました。

本目さんは、それをきちんと受け止めてくれました。


「すぐに出来ることを調べて連絡します」と約束してくれて、実際にそれからも様々な相談に乗ってくれました。

しかも、それから3ヶ月後には「コミュニティバスには乗車できる」という行政の言質を取ってきてくれたのです。


いっちーは「政治家ってひとりの為に動いてくれることもあるんだ…」と思いました。


しかし、もちろん問題はまだまだ山積み。

そしてそれは「区」のレベルでは解決できないことがたくさんありました。


例えば、都バスです。

実際にAさんは都バスに乗車拒否された経験を持っています。


そこで本目さんは、都議に相談することをいっちーにアドバイスしました。

そしてこれが、議員有志によるヒアリングという機会につながることになります。すぐに実施するとのこと。



都議会議員に対して多胎育児の問題を知ってもらう大チャンス。

しかしこのままでは「Aさん個人の困りごと」で終わってしまう可能性もありました。


そこでいっちーは急遽ネットで多胎児家庭にアンケートを取ることを思いつきます。

Aさんだけじゃなくみんなが困っている、ということがわかれば東京都が動いてくれる可能性が少しはあがるのではないか、と。

Twitterでアンケートを呼びかけました。

「10人くらい集まれば嬉しいな…」と当初は思ってたとか。



当事者たちの想いが政治を動かし始めた

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ところが

フタを開けるとなんと1週間で662件のアンケートが集まってしまいました。

そしてそこには壮絶な多胎育児の体験がつづられていたのです。


「双子の泣きにそれぞれ対応していたら、15時間たっていました」

「目の前のことをこなすのに精一杯で、一分先のことを考えられない」

等々…


この状況をヒアリングの準備をしてくれていた都議会議員に相談すると「これはメディアにも声をかけるべきだね!」ということに。


そんな状況で迎えたヒアリング。

都議会議員有志にAさんの状況、そして、アンケートの当事者の声を伝えることができました。


これは全国紙でも取り上げられることになり、多胎育児に対する社会の関心が高まることになります。



しかし、この頃になると議員とのやりとりや資料作成などいっちーのタスクが激増していました。

今まで通り育児も仕事もこなしていたいっちーの体力は流石に限界です。


ここで我らがフローレンスの代表 駒崎が動きます。


いっちーの活動をフローレンスが組織をあげてバックアップすることにしました。

外部への広報活動を巻き取り、多胎育児支援の活動をいっちーの業務としてくれたのです。


それだけでなく、この活動を国会に届ける仕掛けにも着手。

国にしかできない支援策もあるからです(認可保育園の入園基準に多胎児であることも追加するなど)。


今度は厚生労働省で記者会見をすることにしました。

次年度の通常国会が始まる前になんとかしたかったので、なるべく早くやろうと11月7日に実施することが決まります。


それに向けて、今度はフローレンスの広報の力も借りて再度アンケートを実施。


結果、1591件の当事者の声があつまりました…!!



記者会見で話題沸騰!しかし…

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多くのメディアが詰めかける中、記者会見を行ないました。

この時、1591名の当事者の声をまさに全国に届けることができたのです。


発表したアンケートの内容は下記の記事でご確認いただけます。


ここでの反響は大変なものでした。

全国紙はもちろん、TVもキー局がほとんど全て取り上げてくれたのです。

これまで多胎育児の当事者間だけで共有されていた深刻な問題が、多くの人たちの間で認識されることになりました。


しかし…

それは同時に、異なる意見を持つ人々にも情報が届くことを意味します。


SNSなどを通じて、いっちーのアカウントには心ないコメントが多数寄せられるようになってしまいました。

テキストとして書くのがはばかられる内容も数多く含まれています。


そしてそれはいっちーだけでなく、今回勇気を出して声をあげてくれた当事者の人たちに向けられたものでもあったのです。

今回 #助けて多胎児 というキャンペーンをSNSではって拡散させたのですが、 助けません多胎児 というアンチキャンペーンまで発生しました。


「私自身だけならともかく、一緒に声をあげてくれた人たちにまでこんな不快な思いをさせるくらいなら、こんなことしなければよかった…」

この時期のいっちーは、本当に悩んでいました。


そんな時、駒さん(代表)からこんなメッセージが届きます。

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Twitterのクソリプは、「広がってることの証」です。

自分たちのクラスタにしか伝わっていないうちは、クソリプは来ないんです。
マイクラスタを超えて、価値観も何もかも違う、全くの他者のクラスタに届くと、そこから思いもしない反響が来る。

それは自分の価値観と違うし、非常に不快なんだけれど、ただ、それは「届いた」ことの証なんです。

だから、むしろ「やったぜ、このムーブメントは大きくなってる」とほくそ笑んで良いです。

そして、僕たちは確実に前進しています。
頑張ろう。次の世代に、同じ思いをさせないために。


このメッセージで、もう少し頑張ってみようといっちーは思ったそうです。

さすが我らがボス。



そして、政治が動いた

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こうして世論が多胎育児についてかつてない関心を持つにいたり、ついに政治が動き出しました。


東京都議会では与党2党が代表質問で多胎育児について言及。

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それに対し、小池都知事は「多胎児家庭への支援を強化していく」として、さらに具体的に踏み込んで「訪問型のサービスを充実させていく」とも答弁されました。

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そして国会でも、参議院厚生労働委員会にてこれまた与党議員が多胎育児支援について取り上げてくださいました。

しかも、当事者の皆さまから集めたアンケートを手に持ちながら、その具体的な内容も紹介してくれたのです。

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それに対し厚生労働大臣は「多胎児家庭への支援を拡充するという観点で、来年度の概算要求にいくつかの施策を入れている」と答弁されました。

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いっちーが当事者の皆さまから預かった切実な声は、確かに政治に届いたのです。


これらの結果、年末になる頃には当記事の冒頭でご紹介したような多胎育児支援施策が具体的に予算に盛り込まれることが次々と決まっていきました。


そして…


いっちーの友人Aさんが困っていた、多胎児のベビーカーと一緒では都バスに乗れない、という問題も動きました。

東京都交通局が「一定の安全性を確保した上で都内どこでも乗れるようにしようと協議中です」と回答したのです…!

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目の前の友人を助けたいといういっちーの想いが、たった半年で具体的な政策や制度を変えることになったのでした。

本当にすごい。



ここからが正念場

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でもいっちーは言います。むしろここからが正念場なんだと。

なぜなら、東京都が打ち出した支援策が実際に当事者に届くようにするには、各市区町村が「この制度を使います!」という意思決定する必要があるからです。

そこで先日、基礎自治体の議員の皆さまにお集まりいただいて勉強会を実施しました。

また、SNSを活用して各自治体の市民/区民に行政に対してこの支援策を使うように声をあげてほしいと呼びかけています。


いっちーの活動は、今年も大きく飛躍する予感しかしません。



政治に声を届けてみよう

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でも、どうしてこんなことが実現したのでしょうか。

冒頭でご紹介した通り、いっちーは政治家ではないですし、有名人でもありません。

それに、社会を見渡せばこの多胎育児問題については深い研究が長い歴史の中で行われており、ネットで検索すれば論文がたくさん出てきます。

専門家の方も多くいらっしゃるのです。


なのになぜ、素人のいっちーがここまで社会を動かすことができたのか。


もちろん様々な幸運があったことは間違いないでしょうが、

個人的には、いっちーが政治家に対して当事者の声をどストレートに届けられたからなんじゃないかと思うのです。


社会にはルールがあります。

そのルールをつくっているのは政治家です。

そしてその政治家は、少しでも社会を良くしたいと思っています。

(ロクでもないのもいますが)


ただ


政治家だって普通の人間なので、知らないことがたくさんあります。

私たちがついこの間まで多胎育児が大変だったことを知らなかったように、政治家だって知らないものは知らないのです。


だから、私たち市民が彼/彼女らに伝えなければいけないんです。

社会にはこんな問題があるのだと。それで困っているんだと。


心ある政治家はそんな声に真摯に耳を傾け、実際に動いてくれるかもしれません。

今回いっちーと一緒に動いてくれた政治家の方々のように。


政治はTVや新聞の向こう側にあるワイドショーではありません。

僕たちの生活を具体的に改善するための手段です。


みんながこの手段をガンガン使えば、その分だけ社会はよくなるんじゃないでしょうか。


いっちーにはやれました。僕たちにだってできるはずです。

誰にだって、やれるはずなんです。


だって、それが民主主義ってもんですから。


今回の記事ではいっちーが社会を変えるまでのプロセスにスポットライトをあてましたが、多胎育児支援の問題やそれに対する具体的な解決策、そして現状についてはぜひいっちーのnoteやtwitterでチェックしてください!


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