7人の女侍 12話 ”7人の女侍 1話挫折まみれの元ダンサーを恋人に 完結編”
前回の記事の続きです。
仕事でミスを頻発する困ったちゃん・シヨウコ。
顔が中川翔子に少し似ているからそう呼びました。
それだけでなく、「絵が得意」「30代半ばで独身」「猫を飼っている」といった点も一致しています。
ただ残念なのは、本物と比べたら時給は1/100程度と思われます。
どうしてこれほど差が生まれてしまうのか。世の中はギザ不平等です。
シヨウコはダンサーを親に持ち、姉と妹もダンサーなのに、自分だけ普通の会社員を選択しました。
しかし仕事で信頼が得られていないから、なかなか会社から評価されません。
正論な意見を出してもまともに受け止めてもらえずに、不満がつのる日々。
そんな彼女に何か救いの手を差し伸べたい。
彼女の優れた部分も理解していた私は、そう思うようになります。
ここで急な告白ですが、私は、自分自身が少しでも会社で楽しく働けるように、職場の誰かに対して「あたかも好きである、恋をしているかのように自分に暗示をかける」という癖(へき)があります。
「あたかも」というのが大事です。
本当に好きなのかどうかは、この際どうでも良いのです。
なぜなら、それが本当だろうがまったくの自己欺瞞(嘘)だろうが、行動は変わらない、変えられないからです。
もちろんその相手に妙なちょっかいを出したりもしません。
同じ空間に女性社員が7人いるなかで、一人だけにあからさまな肩入れなどしようものなら、間違いなく村八分です。
そうでなくても、職場で堂々と不倫なんてしたら迷惑なだけです。
ただ、自分の心の中が盛り上がっているだけ。それで仕事のやる気がアップすれば満足。
ただしもちろん誰でも良いのではなく、それがフェイクであっても、心が入り込めるような魅力を感じたり、同調できる人に限ります。
あらためて冷静に説明すると、我ながら気持ち悪いことを考えているやつです。
でもそれで誰も損していないわけだから、憲法でも保証された精神的自由権を行使しているだけだと開き直ってみます。
私のこの特殊技能?を、「あたかも恋愛」と呼びましょう。
さて、お察しの通り、私が今の職場であたかも恋愛をしていたのは、シヨウコでした。
結果としては一番若く見た目も可憐な人を対象にしてしまいましたが、彼女の持つスペックがそうさせたのではありません。
私は以前の職場が美女だらけだったせいか感覚が麻痺しており、外見や若さだけでは心が動きません。
むしろ外見にあぐらをかく美人のことが嫌になったくらいです。
シヨウコの場合は、会社の問題に対する考えが一致しており、他の誰より意識共有ができていました。
それに加えて、決定的となった印象深い思い出があります。
それをお話します。
うちの会社は古い体質なので、いまどき泊りがけて社員旅行があります。
東京で働いていた私がUターン転職したその年に、東京への社員旅行になりました。
見慣れた風景、仕事で訪れた場所、3回目のスカイツリー。
なぜ給料を積み立ててまで、見限って背を向けた東京をプレイバックしなきゃいけないのか。
そんなテンションの全く上がらないイベントで、数少ない初体験が劇団四季のミュージカルでした。
つくづく謎な会社ですが、団体でもないと劇団四季公演のS席など取れませんから、それだけはありがたく思っていました。
これまた謎の儀式ですが、座席はくじ引きで決められます。
気色悪いことに、女性が固まらないように操作される「やらせくじ」です。
そして私はシヨウコの隣になりました。
シヨウコの実家はダンス教室経営ですから、イベントの舞台演出もします。
彼女も裏方の仕事を手伝うようで、「参考になる」と、劇団四季の演出や空間の使い方などをつぶさに観察しています。
仕事場での表情は冴えませんが、そのときばかりは歓声をあげ、感情を顕にする、普段と違うシヨウコの姿が真横にあります。
私もこう見えて(?)実は元美術部所属のアート好き。
加えて大学で音響工学を専攻するほどの音楽好きですから、映像と音楽にはうるさいほうです。
つまらなそうに居眠りするおっちゃん社員を横目に、私とシヨウコは休憩時間の会話も盛り上がり、近接距離で同じ価値観を共有できたわけです。
舞台鑑賞という非日常的な空間で、アートに耽るという非言語体験を共有し、すぐ側で適度な緊張を共にして吊り橋効果が得られたならば、どうしてその相手に好感を抱かずにいられるでしょうか。
例え職場で席が近く、単純接触効果がいくらかあったとしても、実際それだけで特別な感情は生まれません。
あくまで「非日常」の共有・共感が必要なのです。
だから恋人たちは映画に行き、旅行し、夜をともにします。
社員旅行でのこの出来事は、私の「あたかも恋愛」ランクにおいてシヨウコを確固たる地位に導くのです。
本当なら職場での地位を築きたかった彼女でしょうけど、こんな心底どうでもよいことで申し訳ありません。
シヨウコは、普段は強がっていても、心の中では自分がミスで足を引っ張っていること、会社の役に立てていないことを嘆いていました。
しかし、こうして私の「あたかも恋愛」対象として、少なくとも私の仕事の力を10%くらいはアップさせてくれていたのです。
それだけに、退職は残念ですが、去る者追わず、というのも私のポリシーです。
むしろ、職場の同僚でなくなれば、「躊躇せず口説ける」と思ったほど頭がミュージカルな男です。
彼女は退職前に言いました。
「○○さん(私のこと)がいなかったら、もっと早く辞めていたと思います」
これがどういう意味かわかりませんけど、多分シヨウコも「あたかも」の暗示にかかったのでしょう。
そのくらいに思っておきます。
調子に乗りすぎて薄〜いロマンス話にとどまってしまいました。
シヨウコのその後についてと、本来の主題である「男社会、中小企業の問題」については、はまた別に書きたいと思います。
シヨウコ編~完
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