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「詩」白い雨

開演時からもう 雨は降り始めていた
私は客席にいた 招待券を握っていた
“雨が白く見えます 危険です”
誰かが言った 観客たちは去っていった
私は動けなかった 招待券を握り続けた

気が付けば 私はロビーにいた
古い劇場は 丘の上に建っていた
私は椅子に腰かけた 丘の麓の街を眺めた
雨は滝のように 下へと流れ落ちた
私は声の主を探した 街は沈みかけていた

舞台の幕は 上がる気配がなかった
私はまた 客席に座っていた
招待券は すっかり湿っていた
誰もいなかった 突如スクリーンが降りた
沈んだ街が 映し出されていた

私は目を覚ます そして窓を開ける
夢の中と同じ色の 白い雨が降っている
それは誰も 脅かすことのない
慈しみの雨 古い祈りの言葉のように
雫がポタポタと 心地よく大地を鳴らしている

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