【企画参加】頭と頭をごっつんこ
夜の道を車で走ることは、今の私にはほとんどない。でも月に一度の「筆文字教室」の帰りは、30分間、暗い夜を車で走る。
いつものラジオの音を消して無音にすると、頭が空っぽになるようで気持ちが落ち着く。
信号で停まり、ふと斜め前を見ると、ひときわ明るい塾の入り口にたくさんの自転車が置かれていた。
「中学生かなぁ、みんな頑張ってるんだな。」と、我が家の子どもたちの塾通いを思い出していた。
そして、受験の直前に長男を迎えに行った夜を思い出して、ひとりニヤニヤしながら胸がぽかぽかした。
*****
長女も長男も、中学3年生の時に一年間学習塾に通っていた。
長女は近所の友達3人と一緒に通っていたので、3つの家族で順番に配車当番を決めて、協力し合って娘たちを塾まで送迎するようにしていた。
長男は「俺は友達と自転車で行くからいいわ。」と、塾へは自転車で通っていた。
しかし寒い時期になると、だんだん友達も親が送迎するようになった。受験間近はかなり遅い時間まで塾にいたので、さすがに我が家も親が送迎することにした。
息子の塾通いは今から4年前になる。
まだコロナが流行していなかったが、インフルエンザを心配して、みんながマスクをしていた。
いよいよ受験が来週に迫っていた日の夜、少し早めに塾に到着し、塾の前の道路に車を駐車して、息子が出てくるのを待っていた。迎えの車が、到着順に私の後ろに並んでいく。
田舎の塾なのでこぢんまりしているが、エントランスはガラス張りなので、中の様子が外からよく見えた。
何やらエントランスに集まり、中学生男子5人が顔と顔を近づけ、体をくっつけたり、頭までくっつけて「おしくらまんじゅう」のようなことをしている。
よく見ていると、全員がマスクを外し、「一人の子が、順番に残りの子とハグしていく」みたいなことをやり出した。
当然、息子もそこの中にいた。
受験でおかしくなったのか?
みんなが爆笑しているので、何かの遊びなのか?
すっかり体がデカくなった中3男子のじゃれあいタイムが、しばらく続いた。
当然、車で待つ親はみんなが見ていた。
やっとバイバイして、私の待つ車へ向かって息子が走ってきた。車に乗り込んだ瞬間に、私は息子に訊く。
「ねぇ、あんたたち、めっちゃくっついて頭をごっつんこして、何をやってたん?」
「あ、あれ?匂い嗅ぎをしとった。」
「は?『匂い嗅ぎ』ですと?」
どうやら彼らは、どの子にも「その子のいつもの匂い」があって、「目をつぶっても誰なのかが匂いでわかる」というのを検証すべく、目をつぶって匂いだけで誰かを当てる遊びをしていたらしい。
受験が迫り、ある意味、みんなおかしくなっている。
中途半端に声変わりしている中3男子の笑い声は、外まで聞こえていた。
でも頭と頭をくっつけて戯れる彼らはとても微笑ましく、なんだか可愛らしくて、私まで嬉しくなるような光景だった。
香り、匂い。
それぞれの家庭の匂い。
シャンプー、洗剤、お店屋さん、ペット、芳香剤…。
家屋の香り、料理のにおい…。
さまざまな要因で、それぞれの家庭だけの特別な香りがある。
彼ら5人は、学校でも一緒にいるほどの仲良しというわけではなく、塾だけの仲間のような関係だ。それでもわしゃわしゃ遊んでいた彼らの純粋さが、「あぁ、いいなぁ」って思った。
匂いを嗅ぎ合うなんて、それがなんの躊躇もなくできるなんて、そんなくっついて過ごす子どもの時間って大事だと思う。
コロナでなかなかくっついて遊べない子どもたち。
どうか、ごっつんこのあたたかさを忘れないで。
それぞれの匂いを感じて。
そんなことを思った、夜のドライブでした。
というわけで、「自分が今の時代の子どもだったなら」というリコさんの企画に参加させていただきます。
「マスクしないで、いろんな友達とくっついて遊ぶ。」
そんな数年前までの当たり前をちゃんと経験したい。
前を向いて黙って給食を食べる、マスクの下の顔を知らない、そんな寂しいことは、早く終わりになればいいなと思います。
少しずつ子どもたちも、あまり気にせずに遊べるようになってきたと思いますが、この数年間の暮らしで制限されたことは、やっぱり大きかったように思います。
これからの時代はオンラインも大事だけど、実際に人と人とが触れ合う経験って、子どもたちの心の成長にはとっても大切なことだと思うのです。
お互いの香り、匂いを感じてほしい。
今のコロナの時代を生きる子どもたちへ、願いを込めて。
リコさん、素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました。
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