【KICK BACK考察】ハチに乗っ取られた米津玄師【チェンソーマン】
はじめに、この記事を書いた時点ではまだ2話放映後なのだが、あまりにも「チェンソーマン」のアニメ化が楽しみすぎて原作を読んでおらず、現状キャラクターやストーリーなど触りの部分の知識の状態である。
参加アーティストが半分以上好きなアーティストで「チェンソーマン」を見る前から狂わされているが、「KICKBACK」を聴いた瞬間から「ヨネヅケンシテンサイスギマヂパネエ」しか言えなくってしまい、「地獄を知らない状態で主題歌考察を書くのもいいのでは?」と思い、勢いのまま書くことにした。
COME BACK ハチ
摩訶不思議でダークポップな世界観に、絶妙な不協和音。
「KICK BACK」を聴いた時、ニコニコ動画のハチ時代がフラッシュバックした人も少なからずいるのでは無いだろうか。
世間一般としては「アイネクライネ」「Lemon」から知った人が大多数だと思うので、例として曲の雰囲気が近い「パンダヒーロー」と「ゴーゴー幽霊船」を紹介しよう。
そもそも「ハチと米津玄師は別物なのか?」という疑点が生まれると思うが、個人的には同じ人が作っていても全くの別物だと考えている。
そう思う理由は、歌ってる人が違うことと、曲の制作過程が違う。
ハチ名義はボカロPのため歌うのは初音ミクやGUMIなど機械に歌わせている。
また曲を作るにあたって一人で曲が完結でき、加えて米津さんはMVのイラストも自分で手がけている超人であるため純度100%だ。
米津玄師名義は紛れもなく本人歌唱。
基本的にバンドサウンドなので、曲の制作も楽器のレコーディングやミックスエンジニアなどの専門家が必要になり1曲に対して大多数の協力が必要不可欠である。ちなみに今回はKing Gnu常田さんがアレンジャーとして参加している。
「KICK BACK」と「ルックバック」
歌詞の考察に入る前に、タイトルから読み解きたいことがある。
藤本タツキ作品全体で見ると、語呂の良さは「ルックバック」を連想させる。
「ルックバック」は同級生の少女2人がタッグを組み、漫画家を目指す読み切り漫画。
度々インタビューで米津玄師が「漫画家になりたかった」と話しているので、数ある藤本作品でも漫画を題材にした「ルックバック」にインスパイアを受けたのでは?と推測出来る。
「ルックバック」でもたくさんの観点から山ほど考察がされているのだが、「曲を引用している」という点が共通点ではないか?と思っている。
鬼才の奇才の奪い合い
主題歌解禁と同時に米津玄師のTwitterでモーニング娘。の「そうだ! We're ALIVE」がサンプリングされていると発表されている。
この考察についてはとっくに議論されているので、下記記事を読んでいただいた方が早い。
これに加えて私は単純に作者の藤本タツキ先生と米津さんが同年代(歳が1つ違い?)であることも理由の一つあるのでは無いか?と思っている。
また主題歌参加アーティストでアイドルグループの参加は無く、どの順番で各アーティストにオファーがあったのかは経緯は不明だが、結果的に音楽ジャンルのバランスがちょうどよくなったのではないかと思う。
(anoちゃんは元アイドルではあるが、現在はソロアーティストとして活動しているので除外)
「作中にモー娘。の曲が出てきたから主題歌にアウトプットする」という奇想天外な発想だけでなく、「自力でクリエイティブ出来てしまいそうな米津さんが国民的アイドルグループの曲を引用するという意外さ」がこの曲の面白さを増大させている。
歌詞考察
タイトルの「KICK BACK」には本来の英訳では「跳ね返す」、スラングでは「リラックスする」と2つの意味を持つ。
デビルハンターとしてのデンジから見れば、「死を跳ね返す」「ヤクザに反発する」と言った意味を見受ける。
一方、デンジをマキマに好意を寄せる単純な思春期男子と見れば、膝枕されている姿はリラックスしているように思う。
歌詞は全体的にデンジ目線。
米津節全回の韻。日常の楽な任務の日のことか、ヤクザの親分を殺めた直後のことか…
デンジの身体を乗っ取ったポチタの声。
ポチタと共同生活していた頃の極貧デンジ。「欲しい」と思うだけで手に入れられない虚しさ。
銀魂の高杉といい、自分が不幸だと思い込むと世界を破滅させたがるのは何故だろうか。
デンジのマキマへの愛情。
この歌詞は”最高の称賛”であり、”最高の皮肉”だと思っている。
単純に意訳すれば「普通に生きて普通に死にたい」という意味だろう。
半分悪魔となったデンジだが半分は人間、上記のフレーズのように溢れ出る底なし沼の欲望が人間味を加速させる。
デンジがド底辺生活を送っていたからなのか、デンジの夢が「食パンにジャムを塗って食べたい」「異性に触れたい」と簡単に叶ったり下心丸出しの平凡な夢だからこそなのか、どこかで応援したい気持ちが芽生えデンジへ「頑張れよ」の意味で”最高の称賛”に聞こえるのだと思う。
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一方、”最高の皮肉”だと思うのは対象者がデンジでは無いからだ。
その”皮肉”は、このフレーズがデンジへの言葉だとした場合のみ発動すると考えている。
仕事をしない会社の役員、文句だけ立派な恋人、足を引っ張り続ける友人、この世の中に実在する”悪魔”のような人間にこの言葉を向けた途端、頭にカチンと来る人はいるのではないか?
特にドラマ「MIU404」の主題歌「感電」で痛感するのだが、私は米津さんの曲はキャラクターや作品へリスペクトを込めていると同時に「君はどうなんだ?」とリスナーにも問いかけているようにも思う。
そう言った意味で、悪魔を清掃する悪魔(デンジ)に対しては”称賛”、悪魔のような実在する人間に対しては”皮肉”だと思っている。
作品もリンネする
岡崎京子が「リバーズ・エッジ」でウィリアム・ギブスンの詩を引用しているように、サリンジャーの小説が元となった「BANANAFISH」のように、江口寿史さんがキャラクター原案で参加したアニメ「sonny boy」で「ストップ!! ひばりくん!」が一瞬出てくるように、自分の作品、他者の作品、小説、漫画、音楽、映画問わず作品が引用され続けている。
映画好きの藤本先生がたくさんの映画のオマージュを盛り込んでいるのと同じく、米津さんは米津さんで自身の曲とリンクしているのでは?と思う。
そこでいくつか「チェンソーマン」との比較出来る曲を3曲ほどピックアップしたい。
「マトリョシカ」
どうしたら数字で韻を踏もうと思いつくのか天才のやることは意味不明だが、「KICK BACK」の歌詞を見て真っ先に「マトリョシカ」を思い出した。
「4443」の部分は変拍子と言うわけでもないので、3つほど考察でも置いておこうと思う。
通常なら「4444」と来るところ1つ数字が足りないので、「4444」で「死」を表した場合、「4443」は「不死身」。その他「不完全」「不幸せ」を意味
例えば人間を「完全」だとしたら悪魔や魔人は「不完全」、「4444」で幸せの語呂合わせだった場合「不幸」を、また輪廻転生の阻止を意味デンジ、マキマ、アキ、パワーの4人部隊なので物語が進むに連れて「4」が「死」を意味した場合、この4人のうち3人が死に(またはデビルハンターを引退)、1人だけ生き残る
「3」は図形では安定を表し、デンジがようやく手に入れた安定した生活とも捉えることが出来る(建築を例に挙げると、骨組み部分である柱と柱の間に筋交(すじかい)と呼ばれる木材を斜めに入れて三角形を作り、建物を安定させている)
また仏教において「3」は区別をしない考え方を意味するため、人間でもあり悪魔でもあるデンジを受け入れるマキマを連想することが出来る
本人の口からこの数字の意味を聞きたいところであるが、数字も占いや世界各所によって持つ意味が違い、これ以上掘ると沼にハマるのでここまでにする。
そういえば次から次へと出てくるマトリョシカも、ある意味輪廻の一つの表現なのかもしれないとも思う。
「Lemon」
ポチタの「デンジの夢の話を聞くのが好きだった」、デンジの「夢ぐらい見させてくれよ」という台詞から「Lemon」を真っ先に思い出した。
歌詞は対極しているが、「KICK BACK」において「Lemon」の存在意義はかなり重要なのでは?と思う。
「Lemon」は法医学をテーマにしたドラマ「アンナチュラル」の主題歌。
恋人を亡くした中堂先生(井浦新)目線の歌詞で、残酷でネガティブな夢のような現実を歌っている。
「チェンソーマン」では、デンジの「まだ死にたくない」という夢を叶えたポチタがデンジを生き返らせ、「死んだのは夢じゃなかった!」とデンジの声が聞こえてきそうなほど、デンジにとって願いが叶ったポジティブな夢のような現実だ。
「夢ならばどれほどよかったでしょう」と言えるほど夢を見ていない(見られない)デンジと重ねることが出来る。
共通項としては”雨”に関連するフレーズがある。
「Lemon」を「雨が降り止むまでは帰れない=時が過ぎるのを待つ」と意訳すると、「KICK BACK」は「Lemon」の受け身の行動に対して「強行突破」のようなエネルギッシュなイメージだ。
「Lemon」を比較対象とすることで、「Lemon」で親の借金を肩代わりする不運でド底辺時代の少年・デンジを、「KICK BACK」で最強の肉体を手に入れ夢を叶えた”チェンソーマン”と化したデンジを完璧なまでに表現出来る。
深読みしすぎと言われればそれまでだが、「Lemon」は数々の記録を塗り替え様々な賞も受賞した大ヒット曲。
制作段階から溢れ出すスタッフの熱量が詰まった「チェンソーマン」の猛威は、「Lemon」という曲が持つ莫大なパワーと同等以上であることを示唆しているのではないか?と思う。
「ナンバーナイン」
ぶっちゃけ「KICK BACK」には無関係だと思うが、個人的には「チェンソーマン」に限らす「orion」「ピースサイン」など漫画原作のタイアップ曲を語る上で欠かせない曲だと思っている。
「ナンバーナイン」は「ルーヴルNo.9」と言う漫画の展示会の公式テーマソング。
フランスでは芸術に順番があり、「建築」「彫刻」「絵画」「音楽」「文学(詩)」「演劇」「映画」「メディア芸術」に続き、「9番目の芸術」として「漫画」が正式に加わったのがこの21世紀である。
漫画がテーマの展示会に合わせて書き下ろした曲なので、合わせて聴くのもいいかもしれない。
米津玄師に乗っ取られる
これら全て個人の考察なので、インタビューで本人の口から発せられればそちらが正しい解釈となり、「こういう考え方もあれば面白い」と思ってもらえれば有り難い。
タイトルを「ハチに乗っ取られた米津玄師」としたが、私たちの生活に於いてもカラオケに行けば誰かが歌うし、店に入れば店内BGMでよく流れるし、知名度・人気・実力共に私たちの生活においても米津玄師に乗っ取られていると言っても過言ではないとも思う。
最後まで読んでいただいた皆さんは既に地獄に堕ちている方でしょうか?
まだ地獄を眺めている方でしょうか?
悪魔になってしまった方でしょうか?
何がともあれ、この記事を開いた時点で行く末は一緒でしょう。
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