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「やまなし」川底から川面を見上げる

宮沢賢治の幻想的な短編。「クラムボン」「かぷかぷ」という響きが印象的で、詩のような冒頭の会話が大好きです。

谷川に住む蟹の兄弟と父親が主人公です。
川底から川面を見上げる蟹の視線がとても新鮮です。
蟹の子供が吐く泡の粒が水銀のように光ながらゆらゆらと登っていく様子。
雲間から射す日差しは「黄金(きん)は夢のように水の中に降って」と描かれます。

月の光が川面に反射する様を川底から見ると、「ラムネ瓶の月光がいっぱいに透きとおり天井では波が青白い火を、燃したり消したりしているよう」

宮沢賢治は何度も川底から水面を見上げたことがあるのでしょうか。それとも想像でしょうか。

突然「かわせみ」が飛び込んできて、さっきまで水面近くを行き来していた魚を咥え去るのを川底の蟹の視線から描かれるところなど、もし自分がその川底にいたら、かなり恐ろしい思いをするにちがいないと思えるほど臨場感があり、蟹の子供が怖くなって震えるのが自然に共感できるのです。

自分が川底に住む蟹だったら、などという想像は、僕にはとても思いつけません。自然に囲まれ、自然とともに生きるような生活を送れば、いつかそんな想像もできるようになるでしょうか?
虫や動物や木や草の視線で周りを見てみるような。

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