珈琲店 長月 取材文
(簡単な挨拶を済ませてレコーダーの録音をオンにする。)
珈琲屋うず店主、古屋(以下、古)「普通の、素のままの状態を録らせてください。」
珈琲長月店主、飯田(以下、飯)「はい。」
(BGMが薄く流れている。ジャズ。よく聞こえない。)
古「じゃあ、珈琲でもまず淹れつつ、やりますか。」
飯「分かりました。」
古「私も珈琲を持ってきました。この間なんかブラジルがどうとか言ってたからブラジルを持ってきました。」
飯「はい。」
古「40g100ccでいいかと思って」
(Brazil 40gと書かれた袋を出す)
古「そちらは別に、なんの豆でも。」
(豆をボウルに開ける音。じゃらあ。ミルのホッパーに移す音。じゃらあ。)
古「今日の営業はいかがでしたか?」
飯「今日は、暇でしたね。3月暇ですね。2月、2月は(珈琲豆を挽く音で聞こえず。ガガガガガガガガガガ。)
古「大体こう聞くと『暇』って返す珈琲屋さんが多いけど、みんなの暇ラインってどこなんだろうね。」
(飯田さんの豆を計量する音。じゃ、じゃ、じゃあ。)
飯「ざっと、一日の予算が達成できたかどうかじゃないですかね。」
古「ちゃんと予算を立てているんですか?」
飯「ちゃんと立ててはいないですよ笑。まぁ一日このくらい売り上げれば嬉しいかなくらい。」
古「これは後でちゃんとピーを入れるんで、ちなみに一日どのくらいを考えているんですか?」
飯「笑。私は、平日◯◯行けば嬉しいかな、土日で△△くらい行けば嬉しいかなって。あのー、喫茶だけで、豆売り抜きで。豆売り入れてもうちょっといくと、それで、万々歳って感じですけど。」
古「万々歳。」
飯「喫茶だけで△△が精一杯って感じですね。それ以上は手が回らないって感じです。まぁ正直、△△近くでもう手が回ってないなっていう感じですね。結構待たせちゃいます。ちゃんと店を回せていないなって感じがかなり出てくるのが△△くらいですね。」
飯「初めて来た人がその時の慌ただしい感じを見てまた来てくれるのか不安になる感じですね。」
古「これ、抽出中、喋っていていいですか?」
飯「はい。大丈夫です。」
古「どうですか、抽出の方は。」
飯「笑。抽出、大変ですね、難しいです。」
古「どこに難しさを感じますか?」
飯「ええと、もうちょっとこう、味が出るといいな、と。」
古「味が?」
飯「まぁ焙煎でもなんですけど。」
古「珈琲の味が出るといいなということ?」
飯「そうですね。このブラジルはこういう味だな、ここだなって思ったところがもっと出てくれるといいなっていう。」
古「昔の淹れ方とは大分変わりましたよね、点滴で蒸らし始めるところはそのままですけど。」
飯「あまり粉を動かさない方がうまく味が出ているかなという気がします。」
古「ああ、お湯であんまり粉が動かない方が良いんじゃないかっていうことですか?」
飯「なんか矛盾しますけど、左手をあんまり動かさないで、粉をガチっと固めて、真ん中にお湯を通していくみたいなイメージで淹れられると良いなと。」
古「まぁ飯田さんは昔一緒に働いていたので、その時の淹れ方だと、割とフィルターを傾けたりとかしていたと思うんですけど、ああいう感じではなく、湯が染み込んで粉が動く分には良いけど、なるべくそのままの粉の層を維持したまま湯を通していきたいみたいな?」
飯「そうですね。」
古「そっちの方が珈琲の味がよく出る?」
飯「と、思います。味、重さ。」
古「湯が通り抜ける層がしっかりしていて厚いほど、隙間が少ないほど、たぶん、湯のまま通り抜ける量が少ないから、ということでしょうかね。」
飯「たぶん。上から均等に下にいってくれれば良いんじゃないか、と。」
古「それでネルフィルターの作りを深めにしたんですか?やり方に合わせて変えていった感じですか?」
飯「はい。ネルの中の粉をある程度固定できると良いなと思って深くして、ここから4枚はぎにしたらどうなるんだろっていう気持ちがありますけど、そこまで手が回っていない状態ですね。」(4枚はぎというのは一つのネルフィルターを作るときに縫い合わせるネル生地の枚数が4枚ということ。4分割された生地から一つのネルフィルターに縫い合わせたもの。)
古「もっと球体に近づけた型にしたいということ?半球みたいな。」
飯「そうというより円錐形が理想ですかね。あんまり尖っていてもあれですけど。」
(珈琲がフィルターから垂れてきた音。珈琲の成分の重みを含んだ独特な音と思う。)
古「で、そう下から垂れてきたら湯を線に近づけて注ぎ出す、と。」
飯「そうですね。この辺は昔やっていた通りかと、入れるお湯と出てくる珈琲液の量を一緒に近づける。同じ負荷をかけ続ける感じですね。ネルの中で。」
古「ふーむ。」
飯「同じ負荷をかけつつ、均等に、どの珈琲粉の部分にも湯から均等の力が加わりつつ、フィルターを長細くしているんで、出ていく珈琲液からの力は真ん中のところが一番力がかかりやすいと思うんで、中心が。」(真下に太く流れが作られた場合、真上から引っ張って行く力が強いので、その部分の層が厚くしっかりしていると珈琲の味がしっかり出てくれる。)
(淹れ終わって珈琲が配られる。)
古「これ、今淹れたの私の珈琲かな?」
飯「そうです。」
古「淹れさせちゃってすみません。お互い淹れてチクチク言い合おうかと思ってたんですが笑。まぁいいや。淹れてくれた方が楽でいいや笑。」
飯「笑。」
古「これ、ちなみに今の抽出は普通の抽出というか、濃さによって淹れ方が変わったりするんですか?例えば、デミタスを淹れる時とか。」(デミタス、半分のカップという意味。抽出量が少なく珈琲の味が凝縮されたもの。)
飯「デミタスよりは少し早めの抽出だったと思いますけど、ほぼデミタスを入れる時と一緒です。」
古「時間は別に計っている訳ではないですよね?感覚的な?」
飯「そうです。」
(珈琲を飲んでいる間。表の通りを車が行く音が聞こえる。1台。)
古「40g100cc。ブラジルのトミオフクダ、樹上完熟豆、ですね。トミオフクダはもう本当に、私大体生豆を20kgずつ取るんですけど、その20kgごとに全然豆違うんじゃないかって思うことありますね笑。まぁそう言ったらどれもそうなんですけど笑。」
飯「笑。」
古「今回はですね、あんまり見た目の変化はなかったんですが、この前まで使っていた豆がかなり個人的に好みのブラジルだったので、それと比べるとちょっと味が抜けてる感じがしますね。焼け方はそんなに変わらないんですけど。」
飯「同じか分からないですけど、自分の取っている分もそうでした。去年、一昨年、かな?くらいは虫喰い豆がすごく多かったですね。」
古「いやぁ、虫喰いは多いよお、いつも多いよぉ笑。」
飯「笑。前よりは最近少なくなったと思いますよ。前はボロボロだなぁって思ってたもんですけど。」
古「一回問い合わせたことあるんですよ。生豆を買ったところに。あまりにも豆が変わりすぎた時があって。」
飯「はい。」
古「まぁ、自然のものなので、差があるのはこっちも百も承知なので、文句をつけるんじゃなくてこの差はどこから生まれるものなのかなぁという好奇心で。そうしたら、同じタイミングで取った同じ豆だって言うんですよね。なんで、その中での差なんですね。聞いた話だと、トミオさんのところは農園内を飛行機で移動するほど広いらしいので、だから、まぁそんだけ広ければね笑、差も出るよね。」
飯「なんか珈琲牛乳にも使われてるって聞いたことありますね。市販の珈琲牛乳の製品。そういうのにもフクダさんの豆が使われているって。」
古「ふむ。手広くやっていますね笑。トミオさんのとこの豆を使っている珈琲屋さんって多いですよね。人気がある。」
飯「そうですね。生豆卸のWさんのところのトミオフクダちょっと安いんですけど、それもまた味がちょっと違って。」
古「Wさんはー、樹上完熟もある?」
飯「あります。時々出して、すぐ完売しちゃいます。」
古「基本的にはブルボンの方かな。」(大体見かけるトミオフクダの豆はブルボン種で揃えられた商品か樹上完熟のものかの2種。)
飯「そうですね。」
古「ブルボンは私焼いたことないんですよね。基本的に豆を買う時は一種類で揃えられているものに惹かれる傾向があるんですけど、何故かトミオフクダはブルボン買ったことないですね。たぶん最初に取った時の樹上完熟がどストライクだったんでしょうね、きっと。」
古「まぁこの場で言っていることだと思って偉そうに言いたい放題言っていますけど笑、差はあってもその味の質は平均して良いですよね、トミオフクダは。」
飯「笑。そうですね。」
古「うん。で、どうですか?ウチのトミオフクダは。」
飯「美味しいです。」
古「ウチのトミオフクダは、今主力商品というか、メニューが濃さで選んでもらうことが多い形式になっているので、重めのもの、濃いめのものを頼まれたら大体出しますね。深煎りらしい味と思う人が多いんじゃないかな。でも豆面を見るとウチの中じゃ一番浅煎りの豆面、色合いをしているんですよね。まぁ実際酸味もたくさん入っているんでしょうけど。」
(しばらく珈琲を飲んでいる間。いつの間にかBGMは消えた?)
古「どうですか、他に、ウチのトミオさんは。」
飯「美味しいですね。去年の秋か冬くらいに店に行って飲んだやつの方がこれよりも深く焼いていた記憶があります。」
古「だんだん苦味は少なくしていっていると思いますね。なるべく苦くないように、っていう方向性にあるかなと。うん。・・・やっぱ人に淹れてもらった方が美味しいね笑。」
飯「ホントですか笑。」
古「来る前に店で飲んできたけど、それよりも美味しい。」
飯「自分の珈琲もそう感じるんですけど、一口目、やっぱ味がけっこう、感じ方が違う。一口目と二口目とで多少差が出る。一口目が一番苦く感じる。」
古「うん、それは、そういうもんだよね。口の中の状態の差で。」
飯「そういうことですよね。」
古「時々一生懸命水と交互に飲む人がいるじゃないですか。」
飯「いますね。あれ少し違和感を感じるんですよね。」
古「あれも、まぁ一つの作法として存在するんでしょうけど、あれー・・・どうなんでしょうね?笑。なんか水との飲み比べみたいな。」
飯「笑。」
古「ま、別に水飲むなってことではなく、自然と飲んでいって、それで味の変化があるわけじゃないですか、口の状態との差も縮まってくるわけだし、珈琲自体も冷めていって味も感じやすくなってくるわけじゃないですか。その一杯飲む間の変化っていうのを自然に楽しむみたいな方がいいんじゃないかなって思うんだけど。まぁその人ごとの好みもあるわけだけど。」
飯「そうですね。それと、水飲みながらよりは白湯飲みながらの方が味が分かりやすいのかなって思いますね。似た温度で飲んでいるからかなって。冷えた水と珈琲とだと温度差があり過ぎて、交互に飲むとあんまり味分かんないよなって思うんですけど。まぁ・・・好きに飲んでもらえればいいよなって笑。でもそれを白湯にして飲み比べると分かりやすいなって思いますね。おそらく温度差の問題だと思うんですけど。」
古「まぁでもね、その人にとっての分かりやすい飲み方っていうのがあるんでしょうね。私は味見する時全然水飲みませんしね。うん、まぁ私のは分かりました。飯田さんの珈琲にいきましょう。」
飯「はい。」
(ミルの廻る音。ガーーーー。豆が挽かれる音。ガガガガガガガガガガガ。)
古「飯田さんの豆は何にしたんですか?」
飯「同じです。トミオフクダ。」
古「どうですか?淹れている感じは。私のと大分変わりますか?」
飯「あれいつの焙煎ですか?」
古「あれは2,3日前かな。」
飯「ああ、反応がいいなって思いました。」
古「膨らみとか湯の染み込みの感じが。それはけっこう時間経っているやつですか?」
飯「これは、2月末か3月頭、くらいのやつですね。」
古「1週間ちょいくらいのやつ。」
飯「そうですね。」
古「別にそんなに変わらないように見えるけどな。こっから見ている分には。」
飯「そうですか?でも2,3日であんなに味出るんですね。」
古「焼け方によるんじゃないかと。でも基本的に私は味と香りは日が経つと抜けていくものだって考えがありますけどね。抽出の関係で出やすい状態のタイミングというのがあるだけで。持っているもの自体としては日が浅い方が多く持っているんじゃないかな、と。味香りは一週間くらい経った方が出ますか?」
飯「出ますね。格段に。焼いて日が浅い豆を淹れる時は特に抽出時間を長めにかけますね。極端な話、焙煎さえ良ければ、っていう考えはありますけど、抽出でもやっぱり変わりますね。焙煎初日にそう淹れて味見して、まぁこの味なら一週間後でも問題ないだろうみたいな感じで味見していますね。」
古「で、それはどうですか?裏切られることもある?」
飯「いいや、ほぼないですね。」
古「1週間後に飲んで『なんだこりゃ』ってのはない?笑。」
飯「ないですね。最後にそうなったのがいつか分からないくらい。」
古「私はありますよ笑。」
飯「笑。でもそうなった時って大体苦味がちょっと目立つように感じる時かなぁと。あれ、こんな苦かったかなって。」
古「ふむ。ちなみにその1週間くらい経って味が強く出始めたと思うわけじゃないですか、そこからはどうですか?それが抜けていく?」
飯「そこからはー、もう3週間くらいは大きく変わらずって感じですね。」
古「ふーむ。それは焼け方ですね。私は今あんまり店で焙煎してから日が経ったやつって淹れないんですよね。大体2週間未満が多いかな。」
飯「じゃあけっこう早いサイクルで豆が消費されていく。」
古「うん。回って行っちゃうな。いや、もうちょっと置きたいなって気持ちもあるんだけどね、豆によっては。ああ、ありがとうございます。」
(飯田さんの珈琲が出される。しばらくの間。表通りの車の音。また1台。)
古「うん。どうですか?」
飯「うーん、さっきと比べると味は弱いかなって感じが。」
古「珈琲の味が?飯田さんの珈琲の方が深煎りですよね。」
飯「そうですか?」
古「うん。深煎りです。苦い。苦めの珈琲だと思いますね。これ、同じ手廻しの同じ豆の深煎りだけど、全く別の珈琲を飲んでいるみたいだね笑。やっぱり焙煎でけっこう変わりますね。まぁだからこれだけ色々な珈琲屋がやっていけるってところがありますけど笑。」
飯「笑。」
古「その店その店の味があるから。」
飯「まぁ重さはこのくらいがいいかなって思います。デミタスで出してこのくらい。ブラジルのデミタスを頼んで飲む、想像する重さはこのくらいがいいかなと。・・・。苦味、酸味、は、まぁ、大丈夫かなっていう。味がもうちょっと出るといいかなとは思いますけど。」
古「そのさっきから珈琲の味珈琲の味って言いますけど、」
飯「笑。」
古「いや、これは私常々思っていて、なんか色々な本とかが出ているじゃないですか、で、珈琲の説明とかがありますよね。どうしてみんな味の話から入らないんだろうって思うんですよ。今飯田さんが珈琲の味って言ってたけど、その珈琲の味は何を指しているのか分かんない訳じゃないですか。」
飯「そうですね笑。」
古「まぁ、これのことを言っているのかなっていうのは分かるんですけど、だから、その辺の定義というか、珈琲の味のことをどういう風に考えているんだろうっていう話をするっていうのは非常に大切なことなんじゃないのかっていうのを、あの薄暗い店の片隅でセコセコ考えているんです。私は。」
飯「笑。」
古「その辺はどうですか?」
飯「言葉に置き換えるのは難しいですよね。出来ればいいんですけど、言葉に。それと、あまり他の食べ物に例えたくないっていう意地があって笑。」
古「ああ、フルーツとかに?」
飯「そうです。それ、分かるんですけど、珈琲なんだし、珈琲に使う味の表現だけ、で、捉え切れる言葉があると良いんですけど、どうしてもなんか、抽象的になっちゃいますね。」
古「抽象的というのは、夕暮れの海岸線を歩いている感じの味みたいな?」
飯「そうです笑。」
古「私もそうですね。そっちの方が分かりやすいんじゃないかなぁと思って。」
飯「どんどん詩的になっちゃうと言うか」
飯「(この辺聞き取れず)・・・とか結局その辺の言葉に落ち着いちゃうと言うか、そうしないと分かってもらえないという感じがしますけど。なんか、トミオフクダは真夏の日差しみたいな、感じに思うんですけど。」
古「ふーむ・・・。ウチなんかはメニューはそんな感じなんですよ。イメージストーリーを載せて。トミオフクダは大体、夜の話が多いですね。気怠げな午後とか、一日の時間帯で言ったらその辺が多いですね。珈琲を作っている側からすると、これどういう味ですかって聞かれた時に一番分かりやすい説明って「ブラジルの深煎りの味です」が一番分かりやすいですよね笑。」
飯「笑。そうですね。」
古「だけど、お客さんはそういうことを知りたい訳じゃないじゃないですか。ブラジルの深煎りの味がどういうものか知りたいから聞く訳ですよね。そうすると何て言えばいいのか迷っちゃうところがありますよね。」(これは作っているとブラジルの深煎りと言うのが味の説明の最小単位になってしまって困るよねということ。他には変えられないじゃないかという。)
飯「まぁどれも他の食べ物ですよね。お酒も珈琲も、チョコレートとか、味の説明で他のものを例えに出して説明する。」
古「ちなみに今のこの飯田さんのブラジルをどういう味ですかってお客さんに聞かれたら何て返しますか?」
飯「こってりどっしりしたテリのある味わい。って言いますね。テリは照り焼きっぽい感じがあるかと。」
古「ふむ・・・、それで、この、珈琲の味っていうのがあるじゃないですか、それはどういう風に考えていますか?あのー、笑、つまり、苦味がある、酸味がある、何々があるとして珈琲の味全体が出来上がる訳じゃないですか、その珈琲の味の区分というか、どういう味が含まれているみたいな、そういうイメージみたいなものはありますか?」
飯「苦味、酸味、珈琲の味・・・ですかね。あとはー・・・渋味やなんや・・・はまぁあんまり考えてないですね。」
古「その三つの割合で言うと、今のトミオフクダはどういう割合になりますか?」
飯「苦味、5、味、4、酸1、ぐらい。」
古「苦味が半分。」
飯「そうですね、もうちょっと味を出せると良いですね。」
古「味。」
飯「笑。味・・・まぁ産地個性っていうのが一番分かりやすいですかね。」
古「珈琲の味って、まぁ、飲む人側からしたら全部じゃないですか、きっと。」
飯「そうですね。」
古「で、それとは別に、苦味、酸味と分けて飯田さんが味って言った部分、産地個性の部分があるって言うことですよね?」
飯「今自分が言っている味というのはほぼイコールだと思います。産地個性と。」
古「産地、まぁ細かく言うと豆ごとの個性。」
飯「そうですね。その豆の個性っていうのが、今言ってきた珈琲の味っていうのとイコールですね。苦味酸味はある程度・・・、出したり無くしたりはできる。苦いだけの珈琲はどの産地の豆でも作れる訳じゃないですか、極端な話、焦がしちゃえば。そうできる以上、その豆自体の個性が出ている方がいいなっていう。」
古「んー・・・ということは、その豆の個性は焙煎で生み出すことができない部分、ということ?苦味酸味はそれを目指して極端に焼けば焼ける。けど、その豆が持っている産地個性というのは、例えば、その豆が50持っていたとすると、その50を出すことはできるけど、それを100にすることはできない。という部分?」
飯「はい。」
古「ということは飯田さんにとって、焙煎は苦味と酸味をコントロールすること、ということ?」
飯「そうですね、そう言われると・・・、その、個性を引き出すという言い方をすると少し違うかもしれない。まぁ引き出すといえば引き出しているんですけど。やりたい焙煎度合いにおいて、その50をどれだけ50に近づけられるかってことですね。浅煎りやりたければ、浅煎りの中でその豆の個性だと思うところをどれだけ50にできるか。50を100にしたい、ってことではないですね。さっきのブラジルを苦味4、味5、酸味1にできたらいい。それは、まだ豆のポテンシャルがあると思うんですね。深煎りの中で最低限に苦めで味が十分に出ている味がいいんじゃないかなと。」
古「その最低限っていう・・・」
飯「笑。」
古「笑。その、最低限って言うということは飯田さんの中で深煎りの定義があるということですよね?」
飯「はい。」
古「それはどういう定義ですか?」
飯「苦味と酸味のバランス、バランスが苦味がちに取れていて、酸味に一本ピンと張った筋がないもの、その筋が柔らかくほつれたもの、ですね。」
古「なるほど。その定義と、お客さんの、お客さんごとにもあると思うんですが、お客さんの深煎りの定義、そこに差異を感じたりすることはありますか?」
飯「うーん・・・、この手のお店の中では割と浅め寄りの方の店だと思っていたんですが、最近、そうでもないのかな?っていう気持ちがちょっと芽生えてきていますね。でもまぁ、そこまでの差異ではないかな、大丈夫だろうくらいの。これ以上深くしようっていうわけではないですけど。」
古「今日飲んだブラジルに関しては私は私の方が浅めだと思いました。飯田さんの方が苦めで深煎りだなと。」
飯「確かに。でもちょっと前はもっと深くなかったですか?半年前くらいの古屋さんの。」
古「うーん・・・、その時と比べても微妙なとこじゃないかと思いますね。私としてはこのブラジルは結構深い方の味だと思います。」
飯「まぁ、あと、なんだろうな・・・ある程度重さも必要じゃないかと。その、苦味、酸味、個性に重さも入るのかは微妙ですけど。飲みごたえというか。」
古「重さは何から生まれると?」
飯「濃度が一番関係していると思いますけど。」
古「一杯に使う豆の量を増やすこと。」
飯「あとは淹れ方で濃度も変わるでしょうから、抽出の仕方である程度重く入るように気をつけますね。なので目指す味としたら、苦いけど苦くなくて、重いけど飲みやすくて、個性が十分に出ていて酸味が柔らかくてっていう。」
古「良いとこ取りの笑。」
飯「笑。そうですね。良いとこ取りの、悪くいえばどっちつかずみたいな笑。そうすると残ってくるのは豆の個性が残ってくるんじゃないかと。なので、豆の個性が深煎りの範疇で一番出ていると良いなというのが目指すところですね。」
古「飯田さんの深煎りの定義の中で豆の個性が際立ったもの。」
飯「酸の筋、は、そのスパゲティとかでアルデンテみたいなイメージですけど、それがほつれてくるのが今の焙煎工程だと2ハゼから1分か1分半くらいまで残っていますね。まぁそれぞれの工程で大分変わると思いますけど。」
古「2ハゼが始まってから1分手前で下ろしたとしたら硬い酸が残っている状態にある。」
飯「はい。」
古「なるほど。深煎りの定義って、まぁ全体ですよね笑。もちろん全体は要素から作られるわけだけど、例えば酸味が柔らかくなった状態だけど苦味が0になった時の全体の味ってそれは深煎りなのかっていう笑。飯田さんも私も一般的には深煎り、まぁ極深煎りと言われる範囲で焙煎しているので、そのある程度苦味がちになっている中で特に注目して判定するのはきっと酸味の柔らかさの具合ということですね。」
飯「そうですね。」
古「今の焙煎工程をやっていると苦味自体は3とかを超えてくる状態にあると思うんですよ。」
飯「はい。」
古「その中での判定は酸味の在り方で判定する。」
飯「そうですね。もちろん苦すぎるっていうこともありますけど、酸味に気をつけていた方がいいかなっていう・・・、周期があるのか今酸味の方が疎い気がするんですよね、味覚的に。」
古「自分が味見をした時に、」
飯「はい、苦味よりは酸味の方に鈍感になっている気がする。」
古「一人で深煎りをやり続けていると自分の中の基準がどんどんずれてきてしまいますもんね。」(今日のコーヒーは苦味が4.5だ、許せる範囲だな。を繰り返しているうちに4.5が4になってしまうという風に。)
飯「たまに「酸味がある」と言われることもあるんですが、おそらく深煎りを飲むぞというつもりで来ているお客さんなので、まぁ心理状態ははっきり分からないんですけど、その酸味があるというのがどの酸味を言っているんだろう、自分の許せる範囲にあるのかなっていうのは気になりますね。なので言われると自分が酸味に疎くなっているのかもしれないと気をつけますね。酸味に疎くなっているかもしれないということを念頭に置いて注意する。油断しないように。」
(しばらくの間。また車の通る音。また、1台。)
古「うん。次はブレンド珈琲について聞かせてください。」
飯「はい。」
古「ブレンド作っていますね。・・・ブレンドの方が値段安いですね?笑」
飯「はい笑。」
古「なんでブレンドの方が安いんですか?笑」
飯「笑。まぁこの辺は世間的にというか・・・笑。」
古「どうしたんですか笑。それに異を唱えていきたくならないんですか、作っている身として笑。」
飯「それはー・・・まぁ思いますね笑。もう一つ違うブレンドを作ってそっち高く設定しようかな、とか。でもそうするとどの道やすい方ばかり頼まれるかなと。」
古「私は常々思うんですが、『ブレンドを作る方が大変』なんですよ。」
古「それは目指す味を作るという大変さもありますけど、単純に作業量も増えますよね。我々はアフターミックスなので、一種類一種類焙煎して味見して割合決めてそのブレンドをまた味見して・・・ってやるわけじゃないですか。だからストレートよりも単純に大変だと思うんですよ。」(アフターミックスの他にプレミックスと言われる方法もあり、こちらは生豆の状態でブレンドして焼く手法。他に、名前が付いているか分からないけれど、焙煎途中に時間差で別の豆をミックスするという方法も聞いたことがある。ということは珈琲液同士を混ぜるということもあるだろうなぁ。)
古「だから値段を付けるとしたらストレート珈琲よりも高く付けるのが当然なんじゃないかと思うんです。」
飯「笑。」
古「ここは私は解せないところです。」
飯「笑。ウチに来るお客さんはストレート珈琲を飲みたがる人が多いですね。」
古「そう?」
飯「お客さんから「それぞれどう味が違いますか?」と聞かれた時、もうその時点でストレート珈琲の中で聞いてくるんですよ。」
古「へえ。じゃあ私が思っているより、飲む人の感覚が大分変わったんですね。」
飯「けっこう皆さんストレート飲みますね。最近のお店だと浅煎り深煎り関係なく、産地や農園ごとの違いとか、それぞれの豆の個性をしっかり説明しているからなのか分からないですけど。所謂シングルオリジンという言葉の風潮で指向がそっちに向いている気がしますね。その中でブレンドの値段が若干安い方が目を向けられやすいんじゃないのかっていう気持ちも少しありますね。」
古「一番飲んで欲しいと思うのはブレンドコーヒー?」
飯「ざっくばらんに「おすすめ何ですか?」って聞かれるとブレンドかブレンドの濃いめって答えてますね。ブレンドも美味しいんだよっていうことを分かってもらう入り口として値段下げている面もあります。」
古「一番おすすめできるものを安価にして味わってもらおうという。」
飯「はい。まぁ値段設定としてはよくある形ですけど。」
古「なるほど。」
(この後ブレンドの値段がストレートより安いことについての私の愚痴が延々続くのだがカット。要するにブレンドが安いものとして取られちゃうような状態はどうなのか、ということ。こうして後になって聞いていると私はブレンドをかなり愛しているんだなと思う。今メニューにないけれど。)
飯「あまり詳しいわけではないですけど、ウイスキーとかもそうなったらしいですね。元々はブレンダーの方の方が地位が高かった。蒸留所内では。でも今はシングルウイスキーの方が求める人が多い。少し似ているところなのかなと思いますね。」
古「ふむ・・・。あの、すみません、少し脱線した気がします笑。今ブレンド珈琲は何を混ぜているんですか?」
飯「笑。ブラジル、エチオピア、ガテマラ、タンザニア。だいたい全部同量で混ぜています。ブラジルはストレートとは違うブラジルですね。それとエチオピアはウォッシュドです。」
古「ブレンド用に違うものを使っているんですね。それはどうしてですか?」
飯「ブレンドを作るにはまとまりがよくなるかな、と。」
古「あまり個性が出すぎるとブレンドにまとまりが出にくい?」
飯「そうですね。トミオフクダの味はけっこう強いので。まあ混ぜる量を調整すれば調和が取れるのかもしれませんけど、そうするとまた味も変わってくるでしょうし。」(4種同量で混ぜたものとブラジルを個性が強い豆に変えて割合を減らして混ぜたものでは後者はブラジル以外の量が増えるということなので味として調和が出ても別の味になる。)
古「なるほど。他のエチオピア、ガテマラ、タンザニアもストレートでは出していない?」
飯「出していないですね。」
古「ブレンド用の4種類ということですね。自身としてブレンドの評価をつけるならどうなりますか?」
飯「んー・・・、あるようなないような、他にありそうだけど他にない、みたいな味になっていると思います。」
古「笑。珈琲らしい珈琲だけどここでしか飲めない味みたいな?」
飯「笑。表現が難しいんですけど、そういうことに近いと思います。」
古「毎回作っていて味のブレは感じますか?」
飯「ブレは、全くないとは言えませんね。どうしても、珈琲は自然のものですし、計器の何もない手廻しを使っているので。でも自分のブレンドの範疇に収めていると思います。」
古「その4種類だと味のボディ的な部分はタンザニアになるのかな?」
飯「そうですね、ボディというか味の底、土台はタンザニアですね。4種類とも焙煎度合いは殆ど一緒です。4種類混ぜて多層的な味わいが出るといいなと思うんですけど、あんまり幅が広すぎるのも、まとまりがなくなっていっちゃうので、結果シンプルに収めていると思います。」
古「その4種類で一つの味としての調和を目指している。」
飯「そうですね。」
古「ブレンドはおそらくそういう考え方の人が多いですよね。どこかを目立たせるのならブレンドする必要があるのか、いやあるだろう、どうなんだ、という話にもなってきちゃいますし。・・・ブレンドの話をすると時間がかかり過ぎちゃいますね笑。」(この時点で取材開始から1時間以上経過。)
古「私は今ブレンドをメニューから外してしまっているんですが、『美味しい珈琲を作る』となった時に、たぶん、ストレートよりもブレンドの方が美味しいものができると思っています。だからブレンドは挑戦し続けるべきだなと思っているんですが、難しい。よく分からない部分がまだまだあると感じる。でも最終的に行き着くところとしてブレンドがあるんじゃないかと思っているんです。最後の最後に出来上がるものなんじゃないかと。」
飯「はい。」
古「こう言うと問題になるかもしれないけど、みんな、ブレンドについて100%は分かってないなと思うんです笑。ブレンド理論みたいな明確なものがイマイチ曖昧かな、と。」
飯「笑。」
古「まぁ、すみません笑。もう時間なくなってきちゃいましたね。ストレートは触れるだけにしてまた機会があれば詳しく話しましょうか。今ストレートでは何を出しているんですか?」
飯「トミオフクダ、ヨシマツ、」
古「ブラジル2種類?」
飯「はい笑。日本の方の名前で並んでいると面白いかと思って。」
古「じゃあブラジル3種類焼いているんだ?」
飯「そうですね。後エチオピア、ナチュラルとマンデリン。」
古「全部で今8種類焼いているんですね。ブレンドもストレートも豆売りしているんですか?」
飯「はい。」
古「うん!いやあ、どうですか、珈琲の話を中心に聞いてきましたけど。お店の方はどうですか?営業開始から内装の方は変えたりしましたか?」
飯「殆ど変えてないですね。」
古「ですね。馴染んでいい味が出てきたんじゃないですか?」
飯「笑。」
古「天井が高くて良いですよね。」
飯「天井高いって大事なんだなと思いました。天井が高いから狭くても割と広く感じる。」
古「そうですね。圧迫感がなくて良いですね。・・・、花も綺麗に活けてあって。」
飯「椿ですね。庭に生えているのを持ってきてくださる方がいらっしゃって。助かっています。」
古「いらっしゃるお客さんはご近所さんが多いですか?」
飯「常連さんはご近所の方が多いかもしれないですね。・・・、常連さんってどのくらいから常連さんですか?笑。週一くらいからですか?」
古「まぁ週一は間違いなく常連さんだよね。」
飯「月一は?」
古「月一も常連さんだと思うなぁ。私なんかはなるべく距離とって顔も名前も覚えまいとしてやっているんだけど笑、それでも覚えた人は、かなぁ。」(匿名性というのは瀕死の淵から身を助けることがあると思っている。)
古「私は阿呆なので、人によって覚えやすかったり覚えにくかったりっていうのがあるんだよね。」
飯「ああ、一回来ただけで覚えちゃったりする人いますよね。」
古「それは人ごとに妙に覚えやすい顔みたいなのがあるんじゃないかと思うんですよ。逆も然りで。目立っているからとか関係なく。だからそれだけで判別っていうわけではないけど。」
飯「まぁ、常連さんは、高円寺、阿佐ヶ谷に住んでいる人が多いと思いますね。あんまり中野の方から来てくれる人がいないかもしれない。」
古「少しだけ離れていますもんね。お客さんとの距離感はどのくらいで営業しているんですか?『ちわー、今日はどこからいらっしゃったんですかー?』的な感じですか?」
飯「いや笑。あまり聞かないようにしていますね、住んでいる場所とか職業とか。こっちからは。」
古「会話の流れではある?」
飯「そうですね。初めて来た人にはほぼ話しかけない、ですね。会計時に少し話したりするくらいですね。『珈琲、深煎りよく飲むんですか?』とか。したりしなかったり。あとは注文の時に流れで話したりはありますけど。」
古「ふむ。そこまで距離を詰めすぎず離れすぎず。」
飯「それこそ、まぁ、今は繰り返しいらっしゃる方とは話すようになっていますけど、あんまり、その、なんて言うんですかね、常連さんだけの店、って言う感じにはしたくないですかね。と言って意固地ではないくらい。自然と常連さんになってやりとりが増えていく、くらい。もちろん殆ど話をしない常連さんもいて、そういう方がもっと増えると良いですかね。」
古「そうですか?この店の規模感だったら、常連さんと仲良く和気藹々と、ってタイプのお店が多い気がしますが。」
飯「そうですね・・・、ある程度、循環というんですか、常に新規の方もいらっしゃって、いらっしゃった方の何割かはまたいらっしゃってくれたら良いな、と。月に何人かは新しい常連さんができて、月に何人かは今までの常連さんが何らかの理由で笑、離れていってしまう、というか、離れていってしまってもちゃんと新しい方がいらっしゃるということですね、そういう流れを作っておかないとお店っていうのは難しい気がしますね。常連さんや知り合いだけきて成り立つっていうのは・・・、なんか・・・、面白くない、というか。新しく来た人にも自分の珈琲を飲んでもらえる方が楽しいかなっていう。」
古「そのための宣伝も兼ねて、何かやろうみたいなことはありますか?」
飯「宣伝は来てくれた人の口コミのみですね。たくさんの人に触れてもらう、っていうのはもちろん大事なんですけど、お店に合わない人に来てもらうっていうのは、ちょっと、・・・あれかなって笑。」
古「なんか微妙な話題に入りましたね笑。」
飯「笑。まぁ、そのバランスが難しいですね。例えば、美味しい珈琲屋があるらしいっていう話が出回って、浅煎りの珈琲が好きな方がいらっしゃってしまうとか。そうするともう手立てがないので。たまにあるんですけど、酸味のある奴はどれですか?って聞かれても、ごめんなさい、ないですって笑。他には4、5人連れ立ってきてしまうとか。」
古「長月さんは人数制限はあるんですか?」
飯「していませんけど、3人以上で来られちゃうとちょっと・・・狭い店ですし。」
古「制限をかけるっていうつもりはないんですか?私は3名様以上はお断りにしていますけど。」
飯「いらっしゃっる時って大体店が空いている時なんですよね笑。禁止にしてしまうのではなくある程度静かに過ごしていただけるならなるべく臨機応変にやろうかなと。」
古「なるほど。派手に宣伝するというより日々の営業を続けていくということが大事ということですね。」
飯「そうですね。お店の在り方っていうのは常々考えていますね。まとまってはいないんですけど。」
古「どう在りたい、どう在っていきたいというのはあるんですか?」
飯「背筋を伸ばし過ぎて飲むような珈琲屋にはなりたくないですかね。」
古「どちらかというとそっちの方の珈琲屋な気がしますが笑。」
飯「笑。まぁバランスですよね。最低限の大衆性は欲しいかな、と。ある程度間口は広いけど、お洒落過ぎずというとか。」
古「オーセンティック過ぎずカジュアル過ぎずという感じ。」
飯「そうですね。」
古「まぁとりあえずこのまま、現状維持でって感じですか?」
飯「そうですね。・・・、経営的に言えばもうちょっと単価が上がって欲しいかなと。豆だけ買いにいらっしゃる方とかがもっと増えたらいいかなとか。」
古「手廻しの焙煎器でやっていて豆を購入するお客さんが増えたらかなり厳しくなってしまうと思いますけど。」
飯「まぁ・・・はい・・・、大変なんですけど、頑張るしかない笑。あとは、もうちょっと回転が早い方がいいのかなって。」
古「一人でネルドリップをゆっくりやっていると厳しいところですよね。」
飯「改めて話をしていると、かなり珈琲面と経営面のバランスが取れていないですよね笑。」
古「笑。生活苦とか、そういう状況だったりしますか?今日の夕飯ももやし炒めだとか?」
飯「いや笑、そういう状況ではないですけど、急な出費があるときついですよね。」
古「ああ、この間もエアコンが壊れたとか言ってましたよね。そういう時。」
飯「はい、何かしら絶対出てくるじゃないですか。そういう時に充てられるだけの余裕があるといいなと思いますね。今月売上良かったなって思った月に結局急な出費でいつもと変わらないみたいなことがよくありますね。」
古「その分の余裕があると精神的にも楽になりますしね。」
飯「はい。あと、開いているお店で在りたいというのは思いますね。営業日を絞って希少性を出すみたいなのではなく。休みの日じゃなければふらっときて入れる。」
(短い相槌の後、しばしの間。)
飯「まぁ、言ってそう気負ったところがあるわけではないですね。」
古「一番良いのは長く続けられるってことですね。やり方は難しいけれど。」
飯「はい。」
古「お店やっていて、この仕事向いてないな、とか思ったりしたことありますか?」
飯「接客業は難しいなとは思いますけど、向いてないなっていうのは無いですかね・・・お客さんが少ないと不安にはなりますけど笑。」
古「一人で黙々と作業することが多いと思いますけど、そういったことはどうですか?」
飯「その辺も大丈夫ですね。楽しくやれていると思います。そんなになんか、今日も一日行くぜ!みたいな感じではないですけど。」
古「なるほど。うーむ、どうですか?笑、今ここまで聞いてきましたけど、これ聞かないなんて正気ですか?みたいなところはありますか?どうしても言いたいことというか。」
飯「笑。いや、特に。」
古「じゃあ、これは私が個人的に聞いておきたかったことですが、珈琲を作るということ、っていうのは表現になると思いますか?これはつまり・・・、まぁ我々は珈琲を作ることを商売としているわけじゃないですか。ただ、ただの商売ってわけじゃ無いと思うんですよね。金銭にだけ変わること、なだけじゃ無いと思うんですよ。そこに別の付加価値みたいなものが存在して、それが表現であることはできるか、という質問ですね。」
飯「こちらが、表現したぞ!みたいな押し付ける形は違うと思うんですよね。珈琲は表現、のようなものになり得るとは思うんですけど、自分からそれを求めて行うものじゃ無いんじゃないかなと。」
古「そもそも「表現」と言う言葉を聞いてどう言う意味の言葉と捉えますか?」
飯「んー・・・、何か自分の意思や価値観、を出そうとすること、ですかね。」
古「さっきポロと、表現のようなものになり得ると思うと言いましたけど、その飯田さんの思う表現の定義において珈琲は表現になり得ると思うということ。」
飯「充分なれるものと思いますね。珈琲は。ただ付加価値を求めて能動的に行うのは自分はちょっと違うかなと思います。あくまで受け手側主体で、そこに表現を見出すって言う形は全然あるんじゃないかなと。」
古「なるほど。」
飯「言ったもん勝ちみたいになってしまうのも違うと思って。「これこれこうを込めました。」とか言われてもお客さんも「はい・・・」としか言えないよな、と。まぁ、それはそれでいいけれど、そこはあくまで受け手側が抱くものなんじゃないのかなっていう。」
古「・・・うん!あのー笑、タイムオーバーになってしまいました。もっと深掘りしていきたいところなんですが、まぁまたの機会もあるでしょうし、私も飯田さんもこう言うのに慣れていないということで大目に見てもらいましょう笑。」
飯「笑。」
(終了後片付け中、内緒でテープレコーダーを回していました。)
古「全然個人に関すること聞かなかったですね笑。なんか得意料理とかありますか?」
飯「笑。んー、なんでしょうね、鶏肉焼くの得意ですかね。」
古「皮パリの中じゅわみたいなので焼ける?」
飯「そうですね。」
古「良いですね!」
古「なんか最近凝ってることとかありますか?」
飯「お蕎麦屋さん行くの好きですね。」
古「蕎麦良いですね。最近のおすすめの店は?」
飯「西荻窪の〇〇さん。」
古「今度行ってみます。ウチの店の近くにも美味しいお蕎麦屋さんあるんですよ。週末しかやっていないけど〇〇〇〇さんっていう。」
飯「古屋さんとこ出て最初の信号を左に曲がった先にある?」
古「そうそう。」
飯「あそこ気になってたんですよね。」
古「あそこ美味しいよ。でも営業時間少ないしどん被りで全く行けてない。」
古「お酒好きですか?」
飯「お酒、まぁ、そんなに色々飲むわけじゃないですけど。」
古「何飲むんですか?」
飯「ビール、ハイボール、レモンサワー。」
古「笑。立派におっさんですね笑。」
飯「笑。あと最近ラムにはまってますね。」
古「ラム。私も好きですね。」
飯「西荻窪にラム酒のバーがあるんですけど。〇〇〇〇◯っていう。」
古「お、今度行ってみます笑。下北にもラムいっぱい置いている店あるんですよ、〇〇◯ 〇〇◯ 〇〇◯っていう。」
古「飯田さんって結構お酒強かったでしたっけ?」
飯「いや、そんなには。」
古「ラムのストレートだったら何杯くらい?」
飯「3杯くらいで充分じゃないですか。それで最近次の日にお酒残るようになってきましたね。若い頃と違って。」
古「飯田さんって今何歳なんでしたっけ?」
飯「33歳ですね。」
古「33!」
飯「はい。お酒、残って二日酔いしやすくなりましたね。あ、もうこんくらいで頭痛いんだみたいな。」
古「若い頃はこんなんじゃなかったのに。」
飯「そうですね。でも、自制できないですね笑。」
古「笑。」
古「いや、取材難しかった。うまく聞けないもんだね。」
飯「そうですか?特に違和感なかったですけど。」
古「いや。あと、時間配分間違えたよ。」
飯「笑。」
古「もっと奥の方に踏み込みたかったけど難しかった。特に珈琲のことは難しかった。」
飯「なんか、だんだん抽象的になってっちゃうんですよね。」
古「それでも良かったけどな。何言ってるか全然分かんねえみたいな。」
飯「笑。」
古「どこまでこっちのやり方話すかみたいな兼ね合いも取れなかった。私も話してバチバチのぶつかり合いみたいな感じでも良かったかもね。」
飯「どうですかね笑。」
古「質問の順番も間違えたね笑。尻すぼみになっちゃった笑。」
飯「笑。」
古「一方的に質問というより対談的にやった方がいいのかもしれない。」
古「珈琲について分かんないみたいなことを出して話し合うみたいな、テーマを絞ってやるとかもありかもね。」
飯「最終的な着地点みたいなものを決めてかかるとか?これを聞くのをゴールとしてこれ聞こうあれ聞こう、みたいな。」
古「確かにそういうのなかったね笑。専門的な部分に触れていこうっていう意気込みはあったけど、いざやってみるとそれさえ難しかった。」
珈琲店 長月
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