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着の身着のままゲーム機 #毎週ショートショートnote

金曜の夜。
残業から解放されようやく帰宅した。
リビングは真っ暗だ。
いつものこと。
同棲中の彼氏は、部屋にこもりゲーム実況を配信している。

「え」

電気を点けた私は固まった。
キッチンのシンクに、包丁や鍋が散乱しているのだ。

「あ、おかえり」
「ヒロ君、これ」
「ああ。サッポロ一番食べた。野菜たっぷり乗せてさ。旨かったあ」
「……へえ」

片づけは?
なんで何もしないの?
ゲームはいつお金になるの?

「そんなことより早く化粧落とせば?友里、最近シワ目立つし、もういい歳なんだから」

ブツ。

二人に繋がる糸がちぎれた。




「ヒロ君!起きて!」
「……う?」
「火事!早く逃げて!」
「え、え!?」

彼は慌ててPS5を取りに行き、そのまま外へ飛びだして行った。

通行人が遠巻きに見ている。
着の身着のままゲーム機を持った中年男性を。
みっともなく出たお腹と、ピンクのボクサーパンツが痛い。

どこが良かったのだろう。
でも、もうどうでもいい。
私は玄関の鍵を閉めた。
さあ二度寝だ。

(410字)


たらはかにさんの企画に参加いたします。
お題「着の身着のままゲーム機」


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