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助手席の異世界転生 #毎週ショートショートnote

雨の音だ。
ザアザアと激しく降り、車内に流れるラジオが聞こえない。
男は急いでいた。寝坊をしたからだ。
舌打ちがでる。始業時間まであと10分。
交差点の右折レーンへ入った。
反対車線の車は近づいているが、スピードを出せば行けそうだ。
素早くハンドルを切る。
その先の横断歩道に、傘をさした中学生が現れた。

やべ!

男は咄嗟にブレーキを踏むが、衝撃が走り意識は途切れる。



「ヨハン起きろ」
「ん……」
「勇者様の召喚儀式、始まるぞ」

街の広場には魔法陣が描かれ、魔術師が召喚魔法を唱え始めた。
時々、前世の記憶を夢に見る。
僕がこの世界に転生し8年が過ぎた。
何の取柄もない、普通の子どもだ。
でも、家族に恵まれ平和な毎日を送っている。
家と職場を往復する日々より、この人生は悪くない。

「勇者様だ!」

魔法陣の中心には見覚えのある男。
え!? 前世の僕?
いや。
いつもこの人の運転を見ていたんだ。

助手席の異世界転生……?
ま、人が自動販売機に転生する時代だもんなあ。

(410字)


たらはかにさんの企画に参加いたします。
お題「助手席の異世界転生」
オチは特にひねりなく……タイトルのまま……


ちなみに、意味分からないと思いますが、本当に自動販売機に転生します。
(1話だけ観た)


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