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親切な暗殺 #毎週ショートショートnote

ぼくは
ぼくは今日も死んだ。

・・・

愛する妻と過ごす日曜日の昼下がり。
西洋建築風のテラスに並ぶ椅子に掛けて
ぼくたちは紅茶と珈琲片手に読書をしていた。

お気に入りの作家の最新刊は期待以上に面白く
ページをめくるたびにまだ終わらないでくれと
物悲しい気持ちが去来する。

ふと、顔を上げると庭先に女が立っていた。

「あっ」

思わず声が漏れた。この女はきっと・・・

「誰?知り合い?」

妻の声には警戒の色が濃く混じる。

「そっか、そっか。随分と長かったな」

「何、何言ってるの?あなた…」

「ごめん。愛してたよ」

妻は何か言いかけたが
ぼくの意識は白色に塗りつぶされた。

・・・

ぱちりと目を覚ますと自室のベッド。
体中に繋がるチューブを乱雑に外す。

「親切な暗殺」という名の薬物を用いた
完全非合法のゲームから目が覚めたのだ。

このゲームは理想的な人生を体験できるが
“戻ってくる”ためには暗殺者と呼ばれる者に
命を差し出さなくてはならないのが特徴だ。

次はいつやろうかな。
(410文字)


大変ありがたいことに
二週間前に書いたSS『数学ダージリン』
主催者であるたらはかにさんの
セレクションに入りました。本当にうれしい。

今回のお題は『親切な暗殺』。たらはかにさんの
【毎週ショートショートnote】企画に参加させていただきました。
いつもスリリングなお題をどうもありがとうございます。

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