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幕末薩摩の男子教育


想定外のアクシデントに見舞われ続けた「麒麟がくる」も最終回の放送が無事に終わり、にわかに次の「青天を衝け」の話題が上がるようになりました。

時は幕末。若き日の渋沢栄一の活躍を描くそうですが、先行発表されているように、篤姫に上白石萌音、五代友厚にディーン・フジオカなど 少なからず薩摩藩との関りが描かれるようです。

そこで 手始めに薩摩藩の藩士子弟教育として有名な郷中(ごじゅう)教育について述べてみたいと思います。

郷中(ごじゅう)教育とは

  

薩摩藩伝統の縦割り教育のこと。郷中とは、『方限(ほうぎり)』と呼ばれる区割りを単位とする自治組織のことで、今でいえば町内会単位の自治会組織のようなもの。当時、鹿児島の城下には数10戸を単位として、およそ30の郷中があったといわれています。

特徴的な方法論の一つに『詮議掛け』(せんぎがけ)がありました。

いわゆるケーススタディですね。

たとえば 以下に示すような問答を  年齢に応じて何度も繰り返したそうです。


一、親の仇に溺れているところを助けられた。汝は如何いたすや?
一、近所に儒学の先生が居る。しかし、不孝にして、母を煙管で打つこと折々 なり。汝は如何いたすや?
一、自分の父も大病にかかり、殿様も又大病に罹っている。効く薬が只一個し か無い。汝は如何いたすや?
一、『義』とは如何様のことにて御座候や?
一、甲乙の剣客あり。小路に馬をつないであった。乙は、馬の後ろを抜けよう とした。馬は後足で跳ねた。乙はヒラリと反して通り抜けた。後ろから来 た甲は、これを見て、クルリと引き返した。いずれが是なるか?
一、館馬場を通った。石壁の上より舌を出して嘲笑し、唾を吐きかける者あり。 汝は如何いたすや?
一、往来を通る時、狼藉者に出逢い、突然、頭部を殴られた。汝は如何いたす や?
一、他家の垣根の竹を切ろうとした。下人出てきて汝の頭に糞尿をかけた。汝 は如何いたすや?
一、狂人あり。汝の通行を妨げ、悪口、暴言、汝に無礼な行動をした。汝は如 何いたすや?
一、もし過って人を殺した時、汝は如何いたすや?


歴史学者の磯田道史氏は これを『反実仮想』による教育と呼び 「現実には起きていないけれど起きそうなことについて、想像する大切さ」を学ぶのに役立ったのではないかと説いています。

やや古い記事ですが。↓


磯田氏がMCを務める『英雄たちの選択』(好きな番組でよく観ています)という番組は、この、反実仮想と場合分けをモチーフにして誕生したものだとか。

〇〇の心の内に分け入ってみよう、が決めゼリフです(笑)

若き日の西郷や大久保も学んだ郷中教育


郷中教育におけるグループリーダーを「二才頭(にせがしら)」と呼び、城下町で「名二才頭」と噂になっていたのが、下級武士だった西郷吉之助でした。

西郷さんの地元では、子供たちも行儀よく、顔つきも違うと評判になったそうです。

いきなり斉彬に見出されたわけではなく それ相応の下地があったのですね。


まとめ

明治になって、学制が発布され、全国一律の教育が施されるようになると、次第に衰退していき、今郷中教育の話を聞くことはありません。

また 女子教育にはこういった仕組みがありませんでした。

異年齢による比較的小規模な集団での縦割り教育が同調圧力を生む原因になった、という意見もあり、現代にはマッチしない部分もあると思いますが、ディベート力や即決力を養うには優れた方法論だと思います。


最後までお読みいただきありがとうございました。




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