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NFTはアニメクリエイターを幸せにするのか?

先日、『邪神ちゃんドロップキック』の「アニメ×NFT」プロジェクトのニュースがありました。
企画者のインタビューでは、なかなか興味深いことも書かれています。

アニメ「邪神ちゃんドロップキック」の第1期1話無修正版を1名のみが見ることができるNFTをオークションにて販売し、手数料引き後全ての利益をクリエイターさんに還元する。


全ての利益=100%の利益還元ってことですよね。手数料を引いた後とはいえ、プロジェクトの利益にならないどころか、人件費などを差し引くと赤字になっちゃいませんかね😅

とはいえ宣伝目的っぽい側面が強いので、その辺りには目を瞑っているのかと思います。
今回のNFTが大成功し、メディアにも大きく取り上げられたら、お金では計れないほどの宣伝効果がありますしね。

またインタビューの中では、「アニメ×NFT」プロジェクトを立ち上げた理由として、「日本のアニメクリエイターを救うため」とありました。
その心意気は良し!です。

しかし、

今回、邪神ちゃん無修正版のNFTが高額で取引されたとして、その売り上げは制作会社さんにとっては臨時収入となります。
そして、制作会社さんには必ずこのお金がクリエイターさんに回るようお願いしています。

……といった感じで、収入は制作会社に入るようです。
うがった見方をすれば、制作会社が「中抜き」をすれば、現場のアニメクリエーターに回るお金は少なくなってしまいます。

色々と考えてみたのですが、NFTは必ずしもアニメクリエイターを幸せにはしないかもしれません。
少なくとも個人や小規模チームではない、従来型の製作委員会方式やスタジオ制作などでは課題もあります。


①著作権の問題

アニメは誰のものでしょうか?

アニメは著作権的には「映画」の範疇です。

「映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする」
(著作権法:第16条)

原作(小説等)・脚本・音楽以外の「著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」が著作者になります。
すなわちアニメだと、監督やプロデューサーなどが該当します。作画監督も「全体的形成に創作的に寄与」していますので、当てはまるように思います。けれど、原画を一枚描いただけのアニメーターは、著作者にはカウントされません。「全体的形成」ではありませんので。

では、「著作物の全体的形成に創作的に寄与した者」である監督やプロデューサーなどですが、製作に参加することを約束すると、映画製作者(製作委員会等)に権利が帰属すると決められています。

映画の著作物の著作権は、その著作者が映画製作者に対し当該映画の著作物の製作に参加することを約束しているときは、当該映画製作者に帰属する。
(著作権法:第29条)

噛み砕いていうと、アニメの著作権は出資をした映画製作者、すなわち多くの場合は製作委員会に帰属しています。

ですので、NFTでビジネスを行う場合も、まずは権利者である製作委員会ありきになります。
逆にいうと、監督やプロデューサー、あるいは末端の現場のスタッフは、NFTビジネスの主体ではありません。

もちろん今回の『邪神ちゃんドロップキック』のように、収益を権利外である制作会社(監督、プロデューサーら?)に配分することはあるでしょう。
けれども、その決定は製作委員会が行います。
製作委員会こそが「生殺与奪」を握るので、アニメクリエイターは主体になることはありません。

②分配の問題

アニメクリエイターとはどの職種のことを指すのでしょうか?
監督でしょうか? プロデューサー? 作画監督? 原画・動画マン? 制作進行? CGクリエーター? 音響監督? 声優はアニメクリエイターと言えるのか?
……といった定義付の必要が出てきます。

「アニメクリエイターを救うため」という名目で製作委員会から、NFTの収益を制作会社に渡しても、そこから誰に分配すれば良いのか分かりません。
監督だけに分配するのであれば、不公平感が生じるでしょう。
金額が低ければ、周りは何も言わないかもしれません。監督へのご苦労賃のような程度であれば。
しかしながら極端な例になりますが、1億円の分配が監督にあったら、さすがに文句を言う人も出てくるはずです。
監督だけが1億円で、作画監督がゼロであれば、このアニメ制作体制で続編作ろうとなっても、スタートも切れずに崩壊する可能性は高いです。

誰が?
誰に?
何の根拠で?
……といったことが公明正大に説明つかないと権利ビジネスはうまく行きません。
その判断を制作会社に丸投げし、「お願い」ベースだとトラブルになりかねないです。

個人に紐づくNFTであれば可能性あり

製作委員会方式で制作されるアニメについては、著作権や分配の問題からは逃れられないと思います。
一方、個人や小規模チームではどうでしょうか。
こちらはもちろん、クリエイター主体で展開で出来ますね。

いわゆる今年流行りのパワーワードである「クリエイターエコノミー」です。

クリエイターエコノミーとは個人の情報発信やアクションによって形成される経済圏を指します。

投げ銭なども同様ですが、NFTも個人に紐付いているのであれば、非常にすっきりとした商取引になります。
著作権も分配も、「自分(+紐づくチーム)」となりますので。

ただ、クリエイティブのパワーと同じぐらいデジタルマーケティングのスキルも必要となります。

2019年に、ビルボード史上最長の連続1位記録を記録したリル・ナズ・Xの代表曲「Old Town Road」。

その前年、超弩級のヒットを出すリル・ナズは大学を中退し、姉の家に転がり込むものの追い出されてしまう……といった行き場のない無名の黒人青年でした。

しかし、彼には2つのスキルがありました。
クリエイティブ」と「デジタルマーケティング」です。

TiKTokを中心に「Old Town Road」は大ブレイクしましたが、本人も語っている通り成功は偶然ではありません。努力の賜物です。

何しろたった一人で、広大なネットやエンタメの荒野を制するために、「Old Town Road」関連のショートムービーを自分だけで100本以上を制作。あらゆるネット媒体に拡散していき、成功に繋げていきました。

クリエイターならば、クリエイティブのスキルはあって然るべきでしょう。加えて、デジタルマーケティングのスキルがあれば、チャンスを作り出し、成功に導く可能性がそれだけ高まります。
その点はアニメも一緒でしょうね。

閑話休題。

NFTの話題から少しずれてしまいましたので、NFTとアニメの話題に戻しましょう。

製作委員会が儲けるためであれば、NFTももちろん収益を上げる手段の一つとなります。
けれど、クリエイターに還元などすると、かなり話しがややっこしくなり、それならばクリエイター自身がNFTを展開した方がスッキリします。
現在はクリエイターエコノミーの時代になっているので、クリエイター本人のやる気とスキルがあれば、大資本にも頼らず成功できる可能性もあります。
「デジタルマーケティング」のスキルを身に付けましょう。

まとめると、こんな感じでしょうか。

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