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「アニメーターの仕事がわかる本」はリアルな現場の本音が綴られた良書!

『アニメーターの仕事がわかる本』/西位 輝実(著), 餅井 アンナ(著), 死後くん(イラスト)を読み終えましたが、めちゃ良書でした。
アニメーター以外でも気付きが多いはずなので、全てのクリエイターにとってもおすすめです。

また、僕の前職はアニメの製作(制作)会社だったので、今となっては懐かしいスタジオの雰囲気も感じました。
僕自身は、アニメーターの画を回収したりする制作の仕事ではなく、文芸職であったのですが、あ~! 現場の雰囲気って、こうだよねと色々思い出します。

午前中に「頑張ります!」と言っていた新人の制作進行が、半日でいなくなったり、理不尽なパワハラがあっても、スケジュール通りにアニメの制作が進行できればお咎めなしになったり、色々と強烈な光景を目にしてきました。

もう年齢的にも、そういった制作現場は戻れないな……と思いつつ、一方で惹かれてしまう不思議な磁力も感じます。

本著の中でも、

「文化祭前夜のワクワクした空気がずーっと続いている」みたいなイメージ

……とありますが、的確な例えですね。

徹夜も苦になりませんし、世間をびっくりさせようとか、ファンが喜ぶだろうなといった気持ちを携え、皆が一丸となって目標に向かっていきます。

『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』では、毎日が学園祭の前日の世界観ですが、TVシリーズのアニメ制作も同様ですね😁

アニメーターは誰でもなれる

アニメーターは、ある程度の画力さえあればとりあえず誰でもなれるし、仕事がもらえる。たぶん世の中にある絵の仕事では一番ハードルが低いんじゃないかなぁ。

本著の中で一番驚いた箇所です。
僕が制作スタジオにいた頃は、画が上手い中での「上手・下手」という感じでした。
たまに、とんでもない失敗した原画が上がってくることがあって、制作マンからは「ちょっとこれ見てみてよ~」と、ニヤニヤしながら見せられたこともありました。
当時は、これがネタになるぐらいでしたので、逆に言うと普通に画力がある方が描かれた原画が当たり前の環境でした。
個々の画のクセは置いておいても、誰でもなれる訳ではありません。

しかし、今はアニメーターの数に比べると、作品数が多過ぎるので、

本来は必要な技術を身につけないまま原画に行っちゃうアニメーターが増えている

……といったことがあります。

僕も画を描いてみたいなと思って練習したことがあります。
けれど、まん丸の「○」がちゃんと丸に描けないんですよね。
どこか歪んでいたりして、何度やってもちゃんと描けないので、心が折れてしまい現在に至る感じです😅

クリエイターの淘汰が進んでいかないと、全体的なクリエイティブも上がっていきません。
アニメの制作現場にとっても、ボディーブローのように効いてきている問題だなと思いました。

アニメーターのお金の話し

私の新人時代。なんと、初めてもらったお給料は2,800円でした。
えっ? 今なんて?
2,800円。もちろん日給じゃなくて月給ですよ。給料袋を開けたら、千円札が2枚と小銭が……。

ここも衝撃度が高かったですね。

実際、アニメ会社で働くときも、面接のときに実家暮らしだと加点されるという話しも聞いたことがありますし、事実、実家暮らしの方が圧倒的有利です。

何しろ、お金が得られないので、アニメの仕事をやっているだけでは生活できません……。

とはいえ、これはクリエイティブの業界であれば、割り切りは必要かと思います。

下積み時代は誰しも苦労するものです。

今や誰もが知るトップスターのレディー・ガガであっても、昔はストリッパークラブで働いていました。
修行時代に稼げないのは当然のことかもしれません。

しかし!

レディー・ガガらとの違いは、下積み時代ではないのですよね。
業界トップになったときに稼いでいる額が圧倒的に違います。

もちろん市場規模や、著作権のあり方などもありますので、難しいことも分かっています。

下積み時代は全く稼げない。
これは仕方がない。
古今東西、どこも一緒なので。

ただし、トップクリエイターになっても、そこそこしか稼げないのは、あまりにも夢がないんじゃないかなと思います。

本著の中でも年収の例示があります。

ちなみに、年収500万円以上稼げている人って業界でもかなりレアキャラクターなんだけどね。

サラリーマンであれば、年収500万円はレアキャラではなくて、モブキャラです……。

という訳で、「煉獄さん300億の男」とtwitterのトレンドに入るぐらい、劇場版『鬼滅の刃』は大ヒットしましたが、外崎春雄監督の年収が10億円ぐらいにならないと、業界全体の底上げには繋がらないのでは、と夢想したりもしています😅

アメリカのクリエイターであれば、当然要求する額だろうし……。

なお本著の中で、

とくに新人の子なんかは「そんなに稼げてないし、いいや」ってスルーしがちなんだけど、稼げていないときほど(確定)申告はした方がいい!
なぜかというと、日本の税金システムは収入が少ないほど優遇されるようにでてきているから。人によっては結構な金額が戻ってくることもあるんだ。

……とありますが、これは本当です!

お金の感度が低下→お金が逃げていく→手持ちのお金が無くなる→諦める→更にお金の感度が低下……という負のスパイラルに突入してしまう人も多いです。

なお僕が運営しているオンラインサロンで、以前、大ベストセラー『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』などでも著名な公認会計士・税理士の山田真哉さんをお招きし、クリエイター向けの確定申告の方法についてご伝授頂きました。

クリエイティブの世界は、自分のクリエイティブだけで生計を立てられるまでには、相当の期間と労力が必要です。そのため第一級のプロになり活躍する前に、「お金」の問題で、途中で夢破れ挫折してしまう人も少なくありません。そこで本書では、駆け出しクリエイターや兼業クリエイターが金銭面で少しでも楽になるように、確定申告について優しくレクチャーしています。

電子書籍にもなっていますので、もし宜しければご一読下さい!

生存戦略

「絵の上手さ」と「信用」。
この2つがアニメーターとして働くうえでの絶対条件だってこと。

アニメーターだけではありません。
クリエイターが生きていくためには、この2つは絶対必用ですね。

脚本家であれば、「脚本の上手さ」と「信用」。
演出家であれば、「演出の上手さ」と「信用」。
役者であれば、「演技の上手さ」と「信用」。

本業のスキル+信用の組み合わせは切っても切り離せません。

また僕も、まだ仕事の基盤が出来ていない新人クリエイターから、どうやったら一人前のプロになりますか?
と聞かれることもありますが、本業のスキルと信用を積み重ねていくしかありません。
目に見えない成長かもしれませんが、辛抱強くコツコツと続けていくのが王道です。

チャンスがない?
というのは、チャンスが見えていないだけかもしれませんし、本業のスキルと信用がある人にとっては、幾らでもチャンスとめぐり逢います。

焦りは禁物です。
着実に努力を積み重ねていく人が生き残るのです。

最後に……

「アニメーターの仕事がわかる本」は、アニメ制作のリアルな厳しさも語られていますが、楽しさも伝わってきます。
歯切れの良い語り口からは、アニメ業界を目指すかどうか悩んでいる人にとっても、一つの答えを出してくれることでしょう。
ちなみに、この本を読んで制作の現場に入ると、「本のあの部分に書いてあったことだな~」と分かります😁
それだけリアリティがあるということです!

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