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ポートレート撮影について私が語りたいこと

こんにちは。フォトグラファーの甲田智恵です。

何気なく撮影して、データをお渡ししているのですが、そこに至る心の内を書いてみます。撮影させていただける方と、今まで撮影させていただいた方々に読んでいただけるとうれしいです。

一番伝えたいことは、写真は「撮る事」と「撮られる事」と両方楽しんでもらえたらいいな!という想いです。

まず、私について書いてみます。長いな、と感じたらドンドン次の章に進んでください。

第一に、私は写真を「撮る」ことは得意ですが、「撮られる」ことが正直苦手でした。うまく表情が作れないし、ボディラインや頭身に自信がないからです。

その自信の無さを克服するきっかけが3つありました。ひとつは、はま式ダイエットで減量して締まった身体を作り、友人にその姿を写してもらったこと。もうひとつは、コロナ禍で増えたオンラインでの通話画面。残りのひとつは友人との何気ない会話で始めた自撮りです。

履歴書に貼る証明写真、私は、学生時代のアルバイト先で練習に撮らせてもらった白黒写真のネガを使い続けていました(撮影3ヶ月以内、と指定されていることもあるので、必要に応じて撮り直すこともしばしば)。

実際の写真がこれです。初々しい20代の私です。白黒で中判のネガフィルム、百貨店の写真室で、先輩方から学んだライティングをバイト仲間と再現して撮り合いっこし、柔らかい鉛筆でライトボックスにネガを置いてルーペでスポッティングした最高の1枚でした。

それ以降、パスポートや運転免許証の写真を撮るのですがいまいち納得がいきません。「私」が毎日鏡越しに見ている「私」と別物に感じて、眺めているとあまり心地良くないのです。ちなみにパスポートは、海外から密逃亡してきたアジアン女性、のような顔で10年間作ってしまいかなり後悔しました。

ゴールド免許は5年ごとの更新です。「工夫してみよう」と思いました。1.胸元はVネックで淡いピンクのカットソー、2.前髪は6:4くらいに分けてスプレーで固定、3.眼鏡は外してできればコンタクト、5.軽く頬紅、6.笑顔はNGですが、撮る直前に顔や口元をマッサージして肩をリラックス。

これが成功!しました。気に入った運転免許証は、持ち歩くのも楽しいし、人に見せるのも安心して提出できます。背景が青色なのでどうしても顔色が悪く写りがちです。頬紅とカットソーの色の効果で多少顔色が明るく写りました。

子供の頃の写真で、父や母、周りの大人に撮られた私の顔は可愛らしい笑顔で、大人になったら自分が見ても「可愛い!」と愛らしさを感じます。中学生になった時の、オンザ眉毛でおかっぱ眼鏡、ここから笑顔が消えていきました。周りの子たちが可愛い笑顔で前に前に写るのに、私は難しい顔をして、レンズの隅っこに行くようになりました。

大学を写真に選んだのは、小林紀晴さんの「Asian Japanese」という本に出会ったからです。アジアに暮らす日本人、白黒の荒い画像の中で、レンズに向けた視線は様々でした。写真で人を撮る事に興味が湧いて受験しましたが、人見知りが発動して、学生時代はずっと景色ばかり撮っていました。

4年生になり、就職活動をしていた時期に同級生から「兄から勧められたから観に行こう」と、舞台The Winds of Godを観に新宿へ行きました。原作の小説も読んで内容に興味を持った反面、私は大の戦争嫌いだったので興味半分、怖さ半分くらいでした。ミュージカルやストリートプレイは好きだったので友人は私を誘ってくれたのだと思います。その舞台の強いメッセージは「君は、自分の人生を全うして今を生きているかい?」という問いかけに感じました。私の中の答えは「No」でした。困った、どうしよう。

また見たらヒントが見つかるかもしれないと思って翌日の英語版を観ました。帰宅後、思いの丈を手紙に書いて舞台俳優の今井雅之さん宛に送りました。「卒業制作として舞台裏を撮影させてください」とお願いしました。有名人だし断られると思いました。ある日、PHSに見慣れない番号から着信があり「今井のマネージャーです、地方公演で都内を離れていて遅くなりましたが事務所に届いた手紙を今井に読んでもらいましたり一度舞台を見にきませんか?」というお誘いでした。頭が真っ白でしたが「行きます」と次の公演先の静岡に行きました。

開演前に今井さんやマネージャーの葛川さんとお話しして、残りの公演中撮影することを許可してもらいました。私が「人を撮りたい」と思っていた気持ちが叶ったのです。お仕事中の役者さん、スタッフさんに声をかけて「撮らせてください」と一枚ずつ撮り溜めました。真正面に笑顔で撮る事は少なく、舞台上で肉練(筋トレを含めて心身を鍛える)している表情、控え室やケータリングの付近でリラックスまたは緊張している横顔、自分だけが見られる豊かな「素の表情」に魅せられていきました。

撮影したフィルムを夜中に現像、プリントして、撮らせてもらった人に渡しました。喜んでもらえるとうれしくなってまた撮って焼いて渡す、を繰り返しました。人を撮る事が楽しくなりました。その後、宣材写真や映画のスチールを撮らせてもらうこともありましたが、財政的に厳しくなり写真の仕事から離れました。

2011年3月11日に東日本大震災がおきました。私は大きな被害を受けませんでしたが、大きな災害を目の当たりにしてショックを受けました。その頃少しずつSNSを見るようになり、津波に流されたネガフィルムや写真を復元するボランティアの記事を読みました。写真は撮って終わりではなく、残して継いでいく役目があると再認識して、写真を学び直そうと仕事と並行してワークショップに通い始めました。

2007年に父、2011年に祖父、2021年に義父を見送った時に、遺影を選びました。うれしいことに?私が撮影したものを選んでもらいました。私が「普段の」彼らの顔を撮ったことが役に立ったんだと思い、うれしい気持ちです。葬儀の時の祭壇と、その後家庭によってはお線香のそばに写真を飾ることもあります。

大学で学んでいた写真とは側面が変わり、1つ目のワークショップでは技術的な実践を、2つ目のワークショップでは表現や展示の実地を学びました。フィルムと並行して、デジタルカメラも周りの人にアドバイスをもらって取り入れ始めました。自然光の取り入れ方や、スタジオのライティングなど少しずつ実地を重ねて、今の自分の技術の土台ができました。

写真と並行して始めたSNSを眺めていると、プロフィール画像に今の自分の顔を載せている人が少ないなと感じました。ペットや自分の子供時代、持っているカメラ、キャラクター化されたイラストの人もいました。当時知り合う人がどんどん増えて、名前と顔が一致しない人が増えたときは少し「困った」と感じました。私は人の顔と名前を覚えるのがとても不得意なのです。みんな、気に入った写真がないのかな?恥ずかしいのかな?世界に顔を晒すのが怖くて嫌なのかな?と言いしれぬ違和感を感じたままでした。

沖縄に移住する前に「名護に天使がいるよ」とボディケアの先生から聞いていたので、会いたいなと思い「はじめましてですが、会いに行っていいですか?」とDMして豊見城のイベント会場に会いに行きました。tomoさんは、喜んで迎えてくれて、イベントの主催者や他のセラピストさんたちを紹介してくれました。イベントで撮影ブースを出してみない?と声をかけてもらって1回3,000円でメニューを作りました。

多くのセラピストさんや出展者さんたちは、公式サイトに載せる写真を撮った事がなく、自分で撮影したり、施術の道具を撮影してプロフィールの代わりにしているそうでした。私は、イベント会場でできるだけ光源を生かせる場所を使わせてもらい、一人当たり100枚近く撮影しました。表情が柔らかくなる瞬間を探してもがいていたからです。また、自信メイクを施してくださる方が出展している時は、メイクをして、さらにポージングまでつけていたたけたので、撮られる方もバリエーションが増えて表情が豊かになるのを実感しました。

後になって気づいたことですが、私を含めて出展者の方々の多くは「撮られ慣れていない」のです。「もういい」という言葉を聞いても、当時の私は「もう1枚」と欲張っていましたが、レンズの向こうの方の疲労に気づいたのは、自撮りをするようになってからです。何度も何度も撮られる事に慣れているモデルさんや俳優さんたちと違い、表情やポーズをバリエーション豊かに、しかも疲弊しない適度な時間におさめるには、お互いに工夫が必要だったのです。

衣装を軽く指定しています。レフ板の代わりになるよう、白いカットソーが良いです。また、撮影を始める前に軽いストレッチと、表情が見える大きめの鏡を近くに置いていつでも見てもらえるようにします。手のひらにスッポリ入るような小道具を持ってもらいます。ハンカチでもマスコットキャラクターでも、おにぎりでも生花でも良くて、手が空っぽのままだと腕や肩の緊張が強くなってしまうそうなのです。少しでもリラックスして私と対話するように撮影できたらいいなという工夫です。

一番大事なのは、呼吸と時間です。私はヨガインストラクターの資格を取ったのですが、その時にヨガスタジオの中の人が一体感を感じるような呼吸の合わせ方を身につけました。対面している私と被写体の方は、ヨガスタジオの講師と生徒のようなものです。私の呼吸や心身と向かい合う方のそれがピッタリするために一緒に肩を回したり、軽いジャンプをしたり、このカメラで撮りますよ、と見せたりして過ごします。

撮影時間中は集中します。できれば5分くらいで撮り終えたいです。お互いに「この時間には終わらせましょうね」と時計を見せます。それだけでも撮られている方は「あと何分がんばればいいんだ」とわかって気が楽になるかなと思っています。

撮影の時、声掛けをするのは、私がその方の中を少しでも覗きたいからです。いつもの鏡の前の自分と、私にだけ見せてくれる「素」の自分とを交互に行き来してもらいながら、私はシャッターを押し続けます。目瞑り上等、笑顔苦手なの上等、正面向いてレンズを見るのが怖ければ窓の外を見たり横顔で瞼を瞑るのも上等、とにかく時間いっぱい撮れるだけ撮ります。「写真を撮ると魂が吸われるからいやだ」と断られたことがありますが、確かに魂を交換しているのでしょう、お互いヘトヘトになります。

終わったら「お疲れ様でした」と感謝の気持ちを述べて完了、ではありません。写真のセレクトと修正作業があります。写真は撮ったままでは終わりません。ネガの時代には現像、セレクト、スポッティング、プリント、額装、という手順でしたが、デジタルもほぼ同じ作業があります。最終的に10-20枚を選定して提案して、確定。データを納品して完了です。ふう、ヘトヘトです。

私は写真を始めてから、その工程をずっと繰り返しています。それが楽しいからです。初期の頃に撮影したプロフィール写真を使い続けてくれるのをお見かけすると、気に入ってくれているのかな、とうれしくてピョンピョン跳ねたくなりますし、逆にタイミングを見ていろんな方に撮ってもらう写真に入れ替わっている方の写真を見ると寂しい気持ちと同時に、うふ♡撮られる楽しさに気づいたのかも!?と思って、ワクワクします。

私自身、自撮りをするようになって、立ち位置やポーズ、仕草や表情が気に入るまで撮り直すようになったり、自分の最高潮のボディラインでお気に入りのドレスで友人に撮ってもらった写真たちは今もお気に入りで「私はいつでもこの私に戻れるんだ、ふっふっふ」とニヤニヤ笑ってしまいます。今では、撮られる事が少し得意になりました。

と同時に、出来るだけ更新した「今の自分」をSNSのプロフィールに載せたい、載せなきゃ、という思いもあります。ヘアスタイルや服装、届けたい「私」のイメージは常に変化しています。自分は常に成長しているからです。SNSで知り合って、はじめましてで出会う時に「なんだ、プロフィールと違うじゃん」と思われるのは残念だからです。マメに更新するようにします。

インターネットを眺めていると、起業家や事業者の方はいくつかのパターンでプロフィール写真を使い分けているなと感じています。SNS用の笑顔のバストアップ、公式サイトのプロフィール欄用の全身または膝丈写真、実際の業務内容を行っている時の目線外し写真など、用途によって使い分けていて、きちんと「その方の人となり」がわかりやすいと、信頼できるなと感じます。

逆に、気になったのに、各SNSごとに写真と情報の更新速度が違っていたり、かなり古い写真だなと感じる肖像写真だったり、格式高いけれどカチンコチンな商業写真だけ(背景がマットな朱色壁紙とか)だったりすると、少し会うのに抵抗感が生まれてしまいます。あくまで私の感覚なので、全員がそうではないと思いますが、一般的に写真は「真実を写す」と私は信じています。

じゃあ誰に撮ってもらおうか。お手持ちのスマホで家族に撮ってもらうのをおすすめします。出来るだけ場所やカメラの高さを気をつけて、衣装やお化粧もキッチリして撮って見てください。スナップ撮影でもかなり使える写真になると思います。安心して表情を見せられる、家族だからです。

次に、町の証明写真機です。ポーズや顔の角度は自分自身で確認できます。左右の肩の高さや顔の斜度を見ながら、表情を作っていきます。これはオンライン通話のzoomなどでも代用できます。自分だけ通話に入ってパソコンやスマホのインカメを見ながら、自分が写る練習ができます。鏡でもできるんですが、パソコンやスマホならば撮る事ができます。

ショッピングモールには、チェーン店で写真屋さんが入っています。ここで撮ってもらうのも時間やコスパ的におすすめです。適度な緊張も、自宅や証明写真機で撮られ慣れてきていると、抵抗感が減ってきています。自信を持って写真屋さんに撮ってもらえます。証明写真がメインなので、プロフィール画像に使うには少し堅いかもしれませんが、「プロフィール画像で使うんです、笑顔でもいいですか?」と声をかけたらNoとは言われないです。しかも証明写真としても流用できる背景で撮ってもらえるのと、軽度な修正はしてもらえるので、手軽に撮るのにおすすめです。

私を含めて、フリーカメラマンにポートレート撮影を頼む方法はいくつかあります。SNSなどで作品を見て直接DMで依頼したり、ポータルサイトがあるのでそこで予算や地域を絞って依頼することもできます。今は誰でもカメラマンになれる時代なので、相性の良さや予算、スケジュールの合いやすさなどで気軽に頼むことができます。

いつも写真に対して感じていることを、言語化してみたいと書き出してみましたが、いかがでしたか?私の感じていることが伝わって少しでもみなさんの写真の使い方や選び方、撮り方のバリエーションが増えて、気に入った写真がライブラリに並ぶといいなと心から願っています。私のiPhoneのお気に入りのライブラリには、いろんな人に撮ってもらった、お気に入りの自分がたくさん入っていて、眺めてニヤニヤしています。幼い頃の自分を撮ってくれた両親や大人たちは、きっとこんな気持ちだったんだろうなと思います。

あ、それと同時に身近な人から「撮ってー」と頼まれたらぜひ相手と呼吸を合わせて素敵な一枚じゃなく、たくさんたくさんシャッターを押して、最後に最適な一枚を選んでください。撮り方にもコツがありますが、たくさん撮った中から選ぶのは鉄則です!

写真には、「今」を未来に遺す役目があると信じています。私はこれからもたくさんの「今」を遺して自分の人生を美しく遺していきたいです。みなさんの素敵な写真ライフを心から願っています!長い文章になりましたが、お読みいただきありがとうございました。


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