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脳科学から見た思想(フリーマン理論)

脳科学は過去100年ほどの間に飛躍的に進歩し、心の働きと脳の働きの相関(neural correlates of consciousness)について多くの知見が蓄積されています。しかし、明らかに物質ではない心が、物質であ る脳の働きからどのようにして生み出されるのか、さらに、そうして生み出された心が脳の働きをどのよう にして支配し得るのかという最も根本的な問題が、未解明のまま残されています。 かつてデカルトは、心と物とは独立した二つの実体であるとする二元論を打ち立てましたが、その理論は、 物である脳と心とはいかなる関係を有するのかという大問題を当初から抱えていました。そこでデカルトは、 心と脳が松果腺という脳の器官の働きを介して結ばれていると考えました。デカルトの二元論は、近代の科 学者・哲学者・神学者にとって非常に便利な哲学的逃げ場所となったのですが、この学説は単なる想像に過 ぎず、現代脳科学の見地において、受け入れることのできない考えです。 一方、17 世紀のホッブスやデカルトの時代から 20 世紀前半に至るまでの脳科学は、古典物理学的原理の 支配下にありました。つまり、脳はあくまでも物であり、したがって古典物理学的原理に従属するものでな ければなりません。そこから、いわゆる人間機械論、すなわち心というものは本来存在しないとする消去的 唯物論が生じました。それが物質的・経済的利益を最優先する資本主義と相乗的に作用することによって、 物質主義が現代世界を席捲することとなったのです。しかし、物質主義はニヒリズムによって裏打ちされて いることから、多くの深刻な問題が生じています。消去的唯物論は、脳が心を生み出すメカニズムが未だ不 明であるということ以外には、何ら脳科学的根拠を有していません。したがって、新たな原理・理論が発見 されれば、心は物と同様な実在性を獲得することになるかもしれないのです。 心の存在を一応措定した上で、心と脳との関係について探究しようとする試みは、20 世紀後半から脈々 として続けられてきました。それは心脳問題(mind-brain problem)と呼ばれ、脳科学・哲学・物理学・ 心理学・コンピュータ工学等の諸領域にまたがる学際的研究領域を形成しています。その先駆けとなったの が、ポパーとエクルズの対談をまとめた「自我と脳」(大村裕・西脇与作・沢田允茂訳、新思索社、2005。 原著出版は 1977 年)という本です。 ポパー(Karl R. Popper 1902-94)は 20 世紀イギリスを代表する哲学者であり、エクルズ(John C. Eccles 1903-97)はシナプスの研究でノーベル生理学・医学賞を受賞し、現代脳科学の基礎を築いた脳科学者で す。ポパーは、物として規定される自然(脳を含む)を「世界 1」、自己意識である心を「世界 2」、そして 世界 2 がつくり出す精神の産物(物として保存された科学・哲学・芸術など)を「世界 3」としました。心 (世界2)は、世界1・3に対して能動的に作用し、しかもそれを変化させることができるが故に実在的で ある、とポパーは考えました。ポパーの3世界論は、デカルトの二元論を超出し、現代における進化論的認 識論の哲学的土台となったのですが、心と脳の相互作用の具体的機序に関しては、それが今後の解明を要す る緊急な問題であることを示すに止まりました。このような世界観に基づく脳科学的研究と終生取り組んだ のが、アメリカの神経生物学者であるウォルター・J・フリーマン三世(1927–2016)です。 エクルズ以来の神経科学の王道は、微小電極を脳ニューロンに刺し込んで、その電気的活動(発射)を観 察することであり、1 回に観察できるのは 1 個の神経細胞に限られていました。しかし大脳皮質には 400 億 個くらいのニューロンがあり、しかも 1 つの神経集団(核)には最低 100 万個くらいの種類を異にするニュ ーロンが存在しています。そのような観察を地道に積み重ねていくことによって、個々のニューロンの特性 22 「脳科学から見た仏教思想:現代意識理論とブッダの心理学」抄録 に関しては膨大な知見が蓄積されました。しかし、このような方法では、脳が全体としてどんな働きをして いるかについてはまったく知ることはできない。まさに木を見て森を見ないということになってしまったの です。 このような旧来の大脳生理学の限界を突き破るためにフリーマンが編み出した方法とは、1 個 1 個のニュ ーロン活動ではなく、何万~何百万個というニューロン集団の活動を反映する脳波を分析の対象とすること でした。脳にはニューロン集団が無数に存在し、それらは神経回路を通じて、階層的に構成されています。 それらの集団的活動における相互作用を記述し分析するための基礎理論としてフリーマンが採用したのが、 20 世紀半ばに勃興したカオス理論でした。カオス理論(散逸系理論・複雑系理論)は、自然界における複雑 な現象の解析を可能ならしめる数学理論です。ヒト脳は自然界において最もコンパクトで、しかも複雑な系 です。したがって、フリーマンが脳におけるニューロンの集団的活動の解析にカオス理論を用いたことは、 蓋し自然な成り行きであったと言えるでしょう。 脳ニューロン集団が形成する神経回路は、異なる周波数の脳波を発生させるニューロン集団が双方向的・ 循環的に作用し合うような多層的階層構造を形成しています。様々な感覚器官から発生する無数の情報の流 れは神経回路において潮の流れのようにぶつかり合い、そこでカオスが生じます。しかしそのカオスは、あ る時点(分岐点)における自己組織的な位相変換(状態空間の変化)を経て、メゾスコピックなニューロン 集団の局所的活動パターンであるアトラクターを形成します。それは、カオス的な潮の流れのぶつかり合い から、渦巻のような流れのパターンが生じるようなことであり、それは複雑系理論の旗印である、「混沌か らの秩序の生成」が、脳神経回路網で実際に生じていることを、初めて証明した画期的な業績であります。 シナプスの発射系列(物理記号列)そのものではなくて、それらが全体として形成する 4 次元的なパター ンである局所的アトラクターは、海馬を中心とする行動・知覚サイクルを循環しながら大脳皮質の全領域に 伝達され、そうしてトップダウンとボトムアップの双方向的情報伝達が生じます。このような局所的アトラ クターのぶつかり合いから一時的なカオスが再び生じ、そこから大脳皮質全域を含む大域的(マクロスコピ ック)アトラクターが形成されます。 大域的アトラクターは、一旦生成されたとしてもそれ自体が不安定であり、また常に新たな情報が流入す ることから短時間で崩壊し、新たなアトラクターへと次々に遷移していきます。フリーマンは、動物大脳皮 質における大域的アトラクターの生成と遷移が 1 秒間に 10 回ほど繰り返されることを見出しました。彼は このような実験を積み重ねることにより、一つの大域的アトラクターの形成が心における気づきであり、そ の連続が意識に対応するという結論に達しました。脳における大域的アトラクターの形成というプロセスは、 脳が有する「混沌から秩序へ」という複雑生命有機体としての働き・特性に起因するものです。我々はそれ を心的現象として経験し、それを言語あるいは行動を通じて表現しているのですが、フリーマン理論は、そ れを物理学的(脳科学的)言語でも表現することが可能であることを示しました。脳を含む複雑系一般が有 する自己組織性とは、万有引力の法則や、光速度一定の法則のような、それ以上還元不可能な宇宙的原理、 すなわち宇宙の自然則であるということが、すでに確立されています。 フリーマンは、行動・知覚サイクルと呼ばれる、大脳辺縁系を中心とする循環的神経回路が生み出す大域 的アトラクターとその遷移が、気づき・意識・心であると考えています。この考えによれば、心とは、

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