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【短歌】操車場にオレンジ色の孤独たち発車できるとまだ信じてる

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心のままに詠んでみました。ベクトルを定めないスタイルで綴ります。
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2020年5月の記事一覧

短歌 蝶 十首

短歌 蝶 十首

1
あなたから借りた詩集を開けずにうずくまってる金曜の午後

2
蝶々の不規則な軌道を追ううちやがてあなたにぶつかる視線

3
陽光のあたる窓辺でふたりして黙って揺れる雷を待つ

4
「深呼吸したほうがいい顔色があまりよくない」あなたのせいだ

5
にわか雨に打たれ落ちてくクロアゲハより美しいあなたの静脈

6
人びとはすでに桜を忘れたと憂うあなたの残り香をかぐ

7
あなたから苦悩が消えてしまっ

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短歌 家電 十首

1
扇風機に「あー」と向きあうきみをそろそろ火星人が迎えにくる

2
ペアリングできない機器ももしかして孤独なんかを知るのだろうか

3
前髪の分け目を変えた朝なのにきみは生きるのが下手なままか

4
花柄と水玉が好きだといえずヒョウ柄を着てるうちのオカン

5
洗濯機の底から五百円を見つけたけれど紙幣のほうだった

6
冷蔵庫は暗くて冷たい場所だから呼吸するのに適しているね

7
テレビにも優し

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短歌 喫茶店 十首

短歌 喫茶店 十首

1
汗をかくグラスに遺るきみのあと たった二文字が言えなかった

2
頬杖をついて見つめる先にいる大きな蝿にさえ嫉妬する

3
本当は左利きだと知ってたらきみのひだりを支配したのに

4
曇天が晴れ空に化け何事もなかったようにきみは去ってく

5
元どおりになるものなど何ひとつないならいっそ全部壊して

6
氷まで食べてしまえるきみだから冷えたこころで生きてるんだね

7
右を見て左を見てまた右を

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短歌 部屋 十首

短歌 部屋 十首

1
音もなく暮れる小部屋の片隅で誰かの悲鳴に耳を澄ます

2
わからないことはスマホで調べようたとえばきみの好きな人とか

3
指先で燕の飛影おいかけてふちに当たって寂しくなって

4
どこかしらから聞こえくるサイレンはどこかで誰かが壊れたサイン

5
ソーイングセットの折れたまち針で君のこころも留められたなら

6
血の匂いがする世界の端っこのおまけ未満の場所で生きてる

7
バスタオルに付いて

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短歌 街 十首

短歌 街 十首

1
「飛べるはず」から「はず」だけが剥がれ落ち中央線の線路見つめる

2
他人事として過ぎてゆくカタコトン線路の温度に気づかずコトン

3
ふたりして夜に食べられそれからは街灯の蛾にさえ怯えて踊る

4
もし5月に雪が降ったらきみだけが正しかったと思い知れ、街

5
コンビニで値引きされている命をタイムセールでなんとか留める

6
借りたまま返し損ねたパックマンいまだ全クリしてない青春

7
ホー

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短歌 彩り 十首

短歌 彩り 十首

1
太陽を赤色で描く子どもらの瞳に映るはじめての嘘

2
「本当に削除しますか?」の画面に選択肢が「はい」と「Yes」しかない

3
風を受けはためくTシャツの裾っこを触ってもいい季節ですよね

4
不安から恐怖に変わる瞬間の青い光に見とれてました

5
プログラムエラーだろうかきみがいま手にかけたのは私のこころ

6
肉じゃがが得意料理と笑うきみ どこかへ旅に行きたい私

7
ゆりかごを燃やしま

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短歌 きみ 十首

短歌 きみ 十首

1
頬杖をついて読書をしてるけどさっきのことは内緒なのかな

2
それ以上優しくしたら許さない本気で私を壊しにきてよ

3
わからないことほど面白いけれどきみを超える謎なんてない

4
よく熟れたいちごをひと口で食べ切る潔さならこちらに向けよ

5
悪あがきさせてくださいきみの手が私のここに依存するまで

6
ピロリンと着信音が鳴るたびに私の嫉妬は生まれています

7
マスカラで伸ばしたまつ毛が刺

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短歌 雨 十首

短歌 雨 十首

1
黒い猫として生まれて疎まれてそれでも雨に打たれる権利

2
街じゅうに傘の花咲く 正しさはどこにもないと数人気づく

3
銅像の濡れそぼっても堂々ともろてを伸ばす先の暁光

4
夜が明けてまだしとしとと降ってたら私たちきっと間違ってない

5
ワイパーの忙しさに反比例する二人の午後は誰も知らない

6
新しい傘を広げたきみを見てひとついいことを思いついた

7
人々を試すみたいに降る雨にひとり

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短歌 風 十首

1
ライオンもウサギもヒトもみんなして心臓ひとつ風にまかせて

2
ラジオから聞こえたきみのSOS ごめんradikoじゃ一分遅れ

3
扇風機ひとりぐるぐると回って虚しいところが私みたい

4
飛べるはず空ではなくて影のほうそれならきっといけるはずだぜ

5
風が吹くただそれだけで心まで渇いてしまう誰か助けて

6
テキストに壊れはじめた神経を擦り付けても風はやまない

7
Am7にのせ遺言が

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短歌 魚 十首

短歌 魚 十首

1
キラキラときれいごとほどよく光る死んだ魚のうろこみたいに

2
新鮮なうちに早めに召し上がれうらみつらみもねたみもすべて

3
痛覚がなくてよかったという人が舌鼓を打つあなたの残滓

4
泳がせていた筈のこいが消え去り幻を食む明日の朝食

5
ペディキュアを塗っているのに笑わせてくる魚など干からびてゆけ

6
食べかたがきれいねという/食べかたはきれいねという 差を精査せよ

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短歌 ふたり 十首

短歌 ふたり 十首

1
溶けてゆくバニラアイスを目で追ってなんだかんだで気持ちに気づく

2
包丁を握るその手がもし私のためにあるなら怪我はしないで

3
きみの目に映るわたしはかもめの目をしてきみのことだけ見ている

4
帰り際「楽しかったね」が言えずに「またね」もなくてもう泣きそうだ

5
通販の「ちょっと待った!」がないときの己の強欲さまで愛しい

6
真夜中に一人眺める砂嵐 きみがどこかに

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短歌 ピンク 十首

1
明け方にピンク・フロイド聴くきみを迷惑なんて思わない 好き

2
影踏みで勝ったことない紅組も白組もみな混ざりあってた

3
旅に出たモモイロペリカン捕まり居場所はここじゃないと泣いてる

4
好きな色はと聞かれてピンクだと言えずに買った青キャミソール

5
真っ白なおばけが鮮血を浴びればかわいいピンクごめんねピンク

6
気をつけろ 奴は奴らに成り下がり正義の下にやいばを立てる

7
ベリー

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短歌 塩 十首

短歌 塩 十首

1
他人事としてサイレンの声を聞くうちのスープはあったかいなあ

2
質問がないならこれで終わります(終わらせるのは何もかもです)

3
まぼろしの埋蔵金を見つけたらテレビクルーが来てくれるかな

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闇堕ちは正規ルートの花道でV字を描く準備段階

5
きれいごととはきれいなことではなくてほんとのばしょにふたをすること

6
眠り姫追加眠剤を使ってそれでも不眠気味で不機嫌

7
かたくななこころほ

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短歌 白 十首

短歌 白 十首

1
雷鳴を受けて微笑むきみがまた万華鏡と手すさびをする夜

2
眠りより優しいものがあるとして信じないのは私の自由

3
また消して書いては消してまた書いて結局捨てたきみへの懺悔

4
みじん切りするとき添える親指の無事を願えど刃が止まらない

5
パトラッシュもう疲れたよみんなしてバッドエンドを期待するから

6
羊たちが眠る時には忘れずに漂白剤に浸しておいて

7
「懐

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