見出し画像

2022年5月3日②

今日のココ日(ココルーム日記)

今朝、お店を開けてすぐにひとりの訪問客があった。

「すみません、財布をどこかで無くしちゃって、手持ちが40円しかないんです。食べるものがないんですが、どこへ行ったらいいでしょうか?」

他のスタッフによると、その人は時々釜ヶ崎芸術大学のバザーに来てくれているらしいが、ボクはあまり見覚えがなかった。

連休中だが行ってみるといいと、すぐ近くにある困窮者支援のシェルターを紹介した。

「あぁ、ここなら近いですね。40円じゃ電車も乗れないから。どうもありがとう、行ってみます」

そう感謝してその人は去っていった。

今日は午前中から3つのグループが連続して釜芸の庭でのバーベキューを予約していた繁忙日。

対応にバタバタして朝来た人のことをすっかり忘れていたボクのところへ、その人がニコニコしながら戻ってきたのは夕方前だった。

「今朝はありがとう、助かりました。シェルターに行こうと思ったらたまたま道で友人に出会って千円貸してもらえたんです。さっきご飯食べられました。とりあえずこれで明日までは大丈夫なんで、また明日以降シェルターの方に行くかもしれません」

「そっかぁ、良かったねぇ!」

そう言ったボクにその人はバザーで売っていた百円のコップを見せて言った。

「それでこれ、助けてもらったお礼に買います」

「いやいやいや、お礼なんていいよ、いいよ。困ってるんだから百円なんて使っちゃダメだよ」

驚いてボクは答えた。

「ううん、大丈夫。その日暮らしなんて意外に平気なんだから」

そう言って笑うその人の笑顔があまりに清々しくて、ボクは打ちのめされたような気分になってしまった。

「ホントにそのコップいるの?」

「うん、いるいる。最近こっちに引っ越してきて食器が必要だから。じゃぁまた!」

時々振り返ってボクに手を振りながら、その人は出ていった。

人間って面白いな。

そう心から思った。

その後もずっと心がざわついて落ち着かなかった。

夕ご飯の準備が終わって一息ついていると、スタッフのふうゆちゃんが表のバザー品の整理から戻ってきてボクに言った。

「さっきテンギョーさんにお礼を言いに来た人、友だちに借りた千円は明日の食材買うのに使い切っちゃったって。でも明日はとりあえず大丈夫って嬉しそうに言って、バザーの無料ボックスからお盆を2枚持っていきました」

ボクはまだ生活用品が揃っていないその人の部屋に置かれたばかりの百円のコップを思った。

(書いた人:テンギョー)

現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています