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2022年8月14日

今日のココ日(ココルーム日記)

"古老は語る"

釜ヶ崎夏祭り1日目。

釜芸はお昼過ぎから書のコーナーを開いている。

3年ぶりの開催となった今年の夏祭りは、新型コロナの急拡大により規模が縮小になった。

お祭りの出店がなく、ステージイベントも夕方からになり、例年と比べて物寂しい雰囲気の漂う三角公園。でもその分中央に建てられた櫓と慰霊祭の飾りが際立っていた。

テント下で書のコーナーを始めると、地域の人たちは物珍しそうにこちらを覗いてくる。

「こんにちは。一筆どうですか?」と話しかけるも、「いや、わしはええ。字が汚いんや」と返ってくる。

こちらも簡単には引き下がらず「下手とかうまいとか、そんなこと関係ないですよ。どうぞ好きな字を書いてってください」と言うと、「そうか」とニヤッと笑って筆を握る。

私もだけど、字を書くことに苦手意識を持ってて、本当は書いてみたいけど書けない人が多いようだ。安心して表現できる場をつくるのはなかなか難しい。

そんなこんなで地域の人に、好きな字や、伝えたいメッセージ、文章を書いてもらった。

そのなかで昭和8年生まれ、釜ヶ崎歴50年のおじいさんと出会った。

その方も最初は「いや、私はいい」といって様子を見ていたけれども、周りの人が書いてるのを見て、「きずなってどんな字やったかな」と尋ねてきた。

「糸へんに…」と答えていると、「そうか、ありがとう」と言って、小刻みに横に震える手で「笑」の字を書き始める。

私は「あら気が変わったのかな」と思って目を離していると、いつの間にか立派な文章ができていた。

"笑顔と絆を大切に"

なかなか味のある文字で「おお素敵やね」と思わず声が出る。

さらにもう一枚、今度は何も聞かず、真剣に書き出すおじいさん。

"人並みの生活してねと

妹は何時しか二児の

母と成しか"

私はその表現に思わず息をのむ。達筆に書かれたその字は確かに力強く、でもどこか大切な人に会えないことの哀しさを感じた。

そのおじいさんは、しばらくテント下で涼んで、書のコーナーの様子を見守ってくれた。それから、人がいないと、ぽつりぽつりと昔話をしてくれた。

「わしは暴動あったときにここ住んでたで」「あの時は阪堺線の石が全部なくなってな」

「そうなんや。おっちゃんも石投げてたの」

「そうや。警察に捕まりかけたわ(笑)」「あんた、どこの出身?」

「私は…」

そんな話をしていると、実は私が住んでいた地域の近くの出身であることがわかる。

同郷のよしみで話が盛り上がっていると、「あそこの**商業高校に行ってたんや。本当は税理士になろう思って…でもな…」と突然言葉を選びながら、そして沈黙を交えながら、過去にあったことを断片的に話してくれた。

…ここまで書いて、今、私はそのおじいさんの話をうまく飲み込めていないことに気づいた。どうしても続きが書けない。

釜ヶ崎で暮らす人の生活史を聞いていると、たまに身体がこわばって、社会への怒りなのか絶望なのか、はたまたそれでも生きてきたことへの尊敬なのか、よくわからない感情が駆け巡ることがある。釜ヶ崎ではその感情と向き合いながら、共存するしかないが、今日のおじいさんとの出会いは刺激的で、気持ちを落ち着けるのが難しい。

そんなこんなで…

明日も、明後日も、三角公園で書のコーナーあります!よかったら遊びに来てくださいね!!!

(書いた人:釜ぷーのキョージュ)

現在、ココルームはピンチに直面しています。ゲストハウスとカフェのふりをして、であいと表現の場を開いてきましたが、活動の経営基盤の宿泊業はほぼキャンセル。カフェのお客さんもぐんと減って95%の減収です。こえとことばとこころの部屋を開きつづけたい。お気持ち、サポートをお願いしています