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栃木県高根沢「元気あっぷ村」再訪を、公園施設と地方創生の視点から予習してみる。

高根沢町を訪れる

高根沢とは、栃木県の中央に位置する町で、県庁所在地の宇都宮から地図の右上へ電車で15分ほどの通勤圏、人口3万人弱の小さな町です。
航空写真で見るとわかる通り、もともと水田が多い農村だけど、県庁所在地の宇都宮のベッドタウンとしてここのところ着実に人口増を続けているエリアでもあります。
栃木県には、学生仲間と鬼怒川温泉に行ったことがあるらいで宇都宮餃子も食べたことがないけど、高根沢町には縁があって2021年の夏に日帰りで行きました。
そのときに、町営施設の道の駅「元気あっぷ村」を訪問して当時まだまだ認知度の低かったグランピング施設を見て、いつかここに泊まってみたいなあと思っていました。今回、2年越しに再訪がかなうので、元気あっぷ村とはなにか?、公園施設管理の立場からあらためてまとめて見ました。

元気あっぷ村の再生プラン

城のような立派な建築に温泉も掘ってあるこの施設は元気あっぷの名の通りもともと高根沢町の町民のレクリエーションを目的として整備された施設でした。

温泉付本館(1997年開業)


いま、バブル期に建設された「かんぽの宿」のような元公営施設や民営の保養所などは時代が変化して大変な苦戦を強いられています。元気あっぷ村も当初の目的を長らく果たして来たけど、周囲に類似施設ができ競争力が低下して売上が年々下がり、ついには経営主体である第3セクターが経営破綻してしまいました。
こうなると、施設はいったん閉鎖せざるを得ません。ここからが大きな課題です。
閉鎖した施設は、維持管理されないので数年もすると廃墟になり、その解体費用は行政にとって重い負担になる。それだけでなく廃墟があることで、負の印象は周囲のエリアにひろがり、町全体の魅力が低下していく。閉鎖した施設は10年もしないうちに住民にとって、大変重たい「お荷物施設」になってしまう。日本全国にそうしたバブル期の負の遺産とも呼べるお荷物施設とその予備軍があり、全国の行政マンはその解決に苦心しています。

廃墟化を防ぐには施設閉鎖からいかに素早く再生への施策を打てるか、この機動性がカギです。高根沢は元気あっぷ村の再生プランを素早く実行しました。

施策の一つ目は、この施設を「道の駅」にしたこと。道の駅は国交省の認可で市町村が設置する仕組みでその条件はなかなかハードルが高いのですが、道の駅にすることの広告効果はとても大きい。道の駅は認知度が高く地図上にも表示されるため、広域からの集客が期待できます。また、道の駅はランキング的に扱われる場合が多く、テレビで取り上げられる場合も多い。実際に道の駅特集でのメディア露出は増えているようです。

もう一つの施策は、ゾーニングの見直しとコンテンツの新設による利用者の回遊性の向上です。
元気あっぷ村は全体の敷地は広いですが、エントランスの先に本館があり、その手前で農産品販売をしていたがその先にコンテンツがなく手前で買い物をして帰る近隣の利用者がメインになっていたそうです。敷地の最奥には林地や調整池があったが、コンテンツがないために人が訪れない。
これではできる体験が少ないために滞在時間も短く、施設の魅力は限定的です。
そこで、敷地全体へ利用者を誘う目玉コンテンツとして導入されたのが「グランピング施設」です。
かつての調整池ほとりにアメリカ製のキャンピングトレーラーを設置することで、他にはない景色を効果的に産んでいます。

新設されたグランピングエリア

この施設が目玉となって、道の駅元気あっぷ村は大きな注目を浴びています。今回は実際に利用者として、その仕掛けやロケーションを肌で体感してみたいと思います。

経営者がいないとコンテンツは実現しない

元気あっぷ村再生へむけた町の改革が、ひょっとすると民間施設よりも早いスピードで実行されたことは驚くべき事例です。
公開されている町の議事録を丁寧に読むと、これは首長のクリエイティビティと決断力によるところが大きい。
「この池にグランピング施設をつくる」という「まだ観たことのない風景」を作りだす行為。これは、一般論として行政の苦手分野です。実現するためには最初に、この場所をお荷物施設にしてはいけないという強い動機と、何よりも夢・構想(ビジョン)がなくてはいけない。そして、その夢を実現するために人々を導くリーダーシップも不可欠。
町長により議会に諮られた元気あっぷ村再生プランは、ベテラン議員等からの反応はぐらんぴんぐ…??という懐疑的なものでした。まず、議会を説得しなければいけない。さらに、行政マンに対しても、道の駅登録申請のためには広域道路に接していないことなど、諸条件を乗り越えるためのテクニカルな処理を完徹させるために鼓舞し、指導していかなければ行かない。議会と行政に号令をかけてみんなを動かしていくというリーダーシップ。
また、資金面でのプランニングも重要です。
夢と構想を掲げ、建設事業にあたっては「地方創生」事業の一環として国庫からの補助金を引きだす。数億円をかけた再生事業の半分ほどは、補助金によって成り立っています。この初期投資を行い、さらにグランピングをはじめとした収益事業を指定管理者が行うことで、町民が将来的に負担するランニングコストを下げる、あるいは究極的にはゼロにする。
このように地方行政の首長の仕事は経営判断そのもので、ポイントは事業構想、資金調達、財政計画の3つです。

経営者の構想はモノづくりの細部に宿る


たとえば、トレーラーと一体で整備されたデッキは池にかなり近い場所で基礎を作っている。また、池の中に仕込まれた照明は、ある模様を表現するように配置されているそうです(現地で夜、確かめなければ)。これらはモノづくりの細部ですが、放っておくと施工業者としては施工が難しいとか、様々な制約があるなかでより簡単な方法へ設計変更してしまいがちです。意思決定のプロセスが多重構造になったり曖昧になったりすることで当初の構想が失われていく。そうではなく、あるべき構想を貫徹させるためには、細部にこそこだわるべきです。
僕たちは、モノづくりの細部は職人の仕事と思い込みがちで、それも事実なのだけど、実は細部にはリーダーの意思があらわれる。大局から構想はなされるけど、それが貫徹されるのは細部においてなのです。

グランピングの今後と、夢が場に宿り続けるということ

この数年でグランピングは一気に普及しました。補助金がついたり、ドーム型テントでも一棟数百万で導入できるために参入障壁が低かったり。
しかし、ブームというのは燃え上がるのも早ければ冷めるのも早い。全国に類似施設が一気に増えれば、すぐに差別化競争がはじまり、需要も落ち着けば施設の利用率は下がっていく。
10年、20年とコンテンツの魅力を高め育てていくのは並大抵のことではありません。
あえて悪いシナリオを想定すると、事業収益の採算が取れなくなり指定管理者がこの事業から撤退してしまうことです。そうすると、再び「お荷物施設」問題に直面する。

コンテンツの陳腐化。
なぜそれが起こるかの理由のひとつは、「既にあるもの」の模倣が多いからかもしれません。全国ニュースで先進的な事例が話題になる。じゃあ、ということで視察にいく。流行ってるらしいから、ぜひうちにもということで誰かの肝煎りでグランピングが導入される。
けれど、そうした施設でなにが体験できるか?
そこではたぶん、夢と構想がなく、その構想を貫徹させるリーダーシップもなく、それが宿った細部もない。そうすると、結果として生まれるのは「なんだか普通だったね」という、平凡な結果です。

今後の施設の維持管理において、キーワードになるのは、その場所で何が体験できるのか?という顧客体験へのこだわりの強度と言えます。
とても簡単なことではないけれど、夢と構想は、語られて、為されて終わりではなく、その場所に宿り続けるものでなくてはいけないのだろう、と僕は思います。









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