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中国企業なのに、会長がアメリカ人?! 中国インターネット企業のトップ人事の話

先週、世界の若者の間で一世を風靡しているスマホアプリTikTokの開発会社、中国インターネット企業のByteDanceは、世間を驚かせる人事発表をしました。The Walt Disney Company(以下Disney)の動画配信事業の責任者を務めたKevin Mayer氏をByteDanceのCOO兼TikTokのCEOとして任命したという発表でした。

急成長している中国インターネット企業がアメリカ人を会社のナンバーツーにさせることは、確かに一見すると異常に見えます。しかし、蓋を開けてみたら、今回の採用は中国インターネット企業のこの数年間の成長ストーリーの趨勢に合致していることが分かりました。今回の記事では、Mayer氏の採用の背景を説明した後に、視野を広げ、ByteDanceの人事戦略、そして中国インターネット企業の人事戦略、とりわけ外国人の起用についても触れたいと思います。

Mayer氏はどういう人

Mayer氏は1962年にアメリカで生まれ、名門校のMITやハーバードを経て、1993年に初めてDisneyに入社しました。2000年に一旦Disneyをやめ、他の企業に勤めましたたが、五年後にまた戻りました。それから、戦略責任者として、Pixarや21st Century Foxの買収などのエンタメ業界に地殻変動を起こした買収案件をリードしてきました。2018年の初めからDisneyの動画配信事業の責任者になり、つい最近「Disney+」という動画配信プラットフォーム立ち上げを率い、サービス開始してから6ヶ月で5000万人の有料会員を獲得したという快挙を成し遂げました。学生時代にアメフトの選手でもあったMayer氏のたくましい体も四角い顎もDisneyの人気映画Toy StoryのキャラのBuzz Lightyearに似ていることから、Disney内部で「Buzz Lightyear」というあだ名が付けられたらしいです。

このような華やかな経歴を持つ人物を採用したのは、時価総額10兆円もする(未上場なので、正式な数字ではありません)中国インターネット企業のByteDanceです。ByteDanceの広報によれば、Mayer氏は単なるTikTokのCEOになるだけではなく、ByteDanceのCOOにもなります。その後半の部分を聞いた時に、驚いた人が多いでしょう。その理由を説明していきます。

ByteDanceという会社はいくつかの人気アプリを出しています。その中で、最も人気度が高いのは、ショートビデオアプリの「Douyin」と「TikTok」です。その二つのアプリは実は基本同じもので、「Douyin」は中国大陸版のアプリ名、「TikTok」は日本やアメリカなどの海外版のアプリ名です。つまり、Mayer氏がTikTokのCEOになることで、そのショートビデオアプリの海外版の責任者になるわけです。もちろん非常に重要な任命ですが、そもそも海外向けという位置付けのアプリなので、異常とは言えないと思います。

しかし、ByteDanceのCOOにもなることは、Mayer氏がこれから中国企業であるByteDanceのナンバーツーの席に着くことを意味します。私が調べた限り、Mayer氏は中国語が話せず、中国で長く暮らしたこともなさそうです。それでも今後直接ByteDanceの創業者CEOの張一鳴氏(チャンイーミン)に報告し、「TikTok」のみならず、当社のゲーム事業や音楽事業も率いることになります。

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Mayer氏だけではない

Mayer氏は決してByteDanceが採用した最初の外国人の経営幹部ではありません。今まで、アメリカではWarner MusicからOle Obermann氏、YouTubeからVanessa Pappas氏などのシニア幹部層の採用を行ってきました。今のアメリカのByteDanceの上層部は恐らくGoogleやFacebookにも引けを取らない程の錚々たる業界の顔ぶれが揃っていると思います。

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実は、ByteDanceはアメリカだけではなく、欧州でもインドでも、そして日本でもかなり積極的に現地の大企業の幹部層から人を採用してきました。日本の場合、公開された情報によれば、元Googleの佐藤陽一氏をTikTokの日本General Managerに、元電通の西田真樹氏を日本副社長に任命したそうです。今後、ByteDanceの世界展開につれ、より多くの海外の海外企業の幹部が入社するでしょう。彼らのほとんどは恐らく主に海外現地の事業に特化すると予想されますが、もしかしたら、Mayer氏のように会社全般のリーダーシップを取る人も出るかもしれません。

他の中国インターネット企業:アリババ

ByteDanceはこの2年間、中国インターネット企業の新勢力の代名詞として、今まで述べてきた海外人材採用を含む様々な面で脚光を浴びています。しかし、積極的に海外の人を経営幹部として起用している中国インターネット企業は、決してByteDanceだけではありません。調べてみれば、興味深い発見に辿り着きました。中国インターネット企業の上層部には、驚くほど多くの中国国籍以外の人、もしくは海外の経歴が長い人がいるという発見でした。

まず、日本のソフトバンクの孫正義氏も投資した、あるカリスマ経営者Jack Ma氏が創業した中国のアリババのケースを見てみましょう。長年アリババの実質ナンバーツーで、Vice Chairmanを勤めてきたJoseph Tsai氏は、台湾生まれ、アメリカ育ち、カナダ国籍を持つ人です。名門校のイェール大学を卒業した後に、アメリカや香港の法律事務所と投資会社に勤務しました。1999年に当時創業したばかりのJack Ma氏に会い、Ma氏のビジョンに惹き込まれたと言われています。それからアリババにジョインし、最初は主に資金調達や買収といった企業戦略面でアリババの成長を支えました。今では会社全般を管理しており、12%の株を持つことでアリババの第二大株主でもあります(Jack Ma氏は2019年会社から引退したことに伴い、保有株をほぼ全部売却しました)。

アリババのもう一人の外国人経営幹部は、実質ナンバー3で、会社のPresident(会長)を勤めているカナダ人のMichael Evans氏です。Evans氏は2015年にアリババに入社する前に、金融業界で20年に渡って働きました。中華系の家族で生まれ、完璧な中国語を話せるTsai氏と違って、Evans氏の生まれ育ちは中国と関係がなさそうです。

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他の中国インターネット企業:テンセント

テンセントのトップ経営層の人事構成は非常にアリババに似ています。テンセントにおいて、アリババのJoseph Tsai氏と同様のポジションに当たるはMartin Lau氏という人です。現在、テンセントのナンバーツーで、会社のPresidentを勤めています(President = 会長。アリババの場合、会長は会社のナンバー3ですが、テンセントの場合、ナンバーツーらしいです)。Lau氏は、北京で生まれましたが、幼い頃から香港やアメリカで暮らし、今、アメリカ国籍を持っていると言われています。2005年にテンセントに入社する前に、Lau氏は香港の投資銀行に勤め、テンセントの上場にも投資銀行のバンカーとして携わっていたそうです。テンセントに入社してから、最初の役割もアリババのTsai氏に似ており、主に金融面で会社の成長を支えたそうです。今、既に会社の運営全般を率いる人物になっています。

Lau氏のほかに、テンセントの15人の取締役の中で、顔と名前だけを見たら中国とは距離感がある二人がいます。戦略責任者のJames Mitchell氏と新技術投資責任者のDavid Wallerstein氏です。Mitchell氏は、Lau氏の後任として、投資や投資家関係などを担当してきました。Wallerstein氏は恐らくテンセントの外国籍社員一号として2001年に入社し(テンセントは1998年に創業した会社)、それから海外での事業展開に携わってきました。

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日本の場合

日本の大手インターネット企業はほとんど上場企業なので、トップ人事(通常、取締役会)は有価証券報告書で公開されています。CyberAgent、DeNA、Gree、Softbankの公式情報を見る限り、日本人以外の取締役員(社外取締役を除き)は一人もいないようです。メルカリの取締役の中に米国事業責任者のJohn Lagerling氏、楽天の取締役の中にも米国事業責任者のCharles Baxter氏がいます。しかし、彼らはテンセントの戦略責任者のJames Mitchellやアリババの会長のMichael Evansと違って、企業全般のリーダーではなく、外国現地の事業を率いるというポジションのようです。

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中国インターネット企業と比べたら、日本の大手インターネット企業のトップ人事は、ある意味内向的と言えるでしょう。もちろん、取締役会の大多数のメンバーが日本人なので、いきなり外国人が入ると、コミュニケーションコストや文化的な摩擦が発生する恐れがあると思います。それに加え、主要市場である日本国内マーケットについてどこまで理解しているかという懸念もあるでしょう。しかし、世界を獲る航海を目指すなら、やはり企業の上層部に世界の最も優秀な人材を取り入れる工夫が必要のではないでしょうか。ちょっと逸話となりますが、冒頭で述べたMayer氏を採用したByteDanceの創業者の張一鳴氏は、グローバルな人材と上手く付き合うために今猛烈に英語を勉強していると言われています。


写真の出所:

'https://www.ft.com/content/9682e5ea-6042-4f56-ae93-3086441e12ad'

'https://radiichina.com/bytedance-tiktok-controversy/'

'https://markezine.jp/article/detail/32623'

'https://www.gettyimages.dk/detail/news-photo/michael-evans-co-president-of-alibaba-group-holding-ltd-news-photo/698762892'

'https://kr-asia.com/tencent-cso-bitcoin-is-an-intrinsically-valueless-asset-that-tencent-will-not-bet-on'

'https://www.cyberagent.co.jp/en/corporate/directors/'






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