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20年にわたる友情:孫正義とAlibabaのジャック・マー

2020年6月25日に、ある20年も続いた日本と中国の伝説的創業者二人のビジネスパートナーシップの幕が降りました。その日に、ソフトバンクの創業者の孫正義氏(以下、孫氏)とアリババの創業者のジャック・マー氏(以下、マー氏)は、お互いの会社の取締役を退任しました。

2000年にソフトバンクが設立されたばかりのアリババに投資してから、ソフトバンクとアリババの関係、そして孫氏とマー氏の関係はいくつのステージを歩んできました。今回の記事では、「孫マー同盟」を4つのステージに分けて、紹介したいと思います。


ステージ1:投資家と創業者

アリババは1999年にマー氏によって杭州市で設立されました。学歴や経歴がお世辞にも優れているとは言えないマー氏は、自分のアパートの部屋で初期の社員の18人を集め、「世界で最も大きなインターネット企業を目指していく」と宣言しました。

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孫氏と初めて出会ったのは翌年の2000年でした。当時の孫氏は、これから中国にもインターネット革命が訪れると考え、有力な投資先を探していました。それの一環としてマー氏と面談しました。普段、ベンチャー経営者が潜在投資家にピッチする時に、最初の数分間に話すのは事業計画などですが、マー氏はそうしませんでした。マー氏はひたすら自分の哲学や理念、それにいかに世界を変えていくかというような話をしたようです。「目がキラキラしていて、僕は心を掴まれたんです」と孫氏は回想しています。初対面からわずか5分後に孫氏が「投資したい」と伝え、結局約20億円の投資で合意しました。

2004年に孫氏のソフトバンクは約60億円の追加出資をし、合わせて80億円をアリババに出資しました。その代わりに、アリババの株の30%を持つようになりました。その30%は2019年末の時点で約12兆円になりました。ある意味で、孫氏とマー氏が最初に出会った5分間は、恐らくベンチャー投資史上最も効率的な5分間でしょう。

ステージ2:メンターとメンティー

単純に投資した後に放置するのではなく、孫氏とマー氏は事業面においても戦略提携を結びました。アリババの本業は企業同士の取引(B to B)プラットフォームでしたが、2003年に個人向けのEコマースに巨大なチャンスがあることに気づき、その領域に進出しました。2003年のSARSが流行していた期間中に「Taobao」という後日アリババの看板サービスとなった個人向けのEコマース取引プラットフォームをリリースしました。

最初は、SARSが原因で外出できなくなり、インターネット経由で買い物をする人が増えたという追い風もあり、順調に成長しました。 しかし、まもなく当時世界ナンバーワンの個人向けのEコマースのeBayは中国にも進出し、アリババの「Taobao」の強力なライバルになりました。しかし、2005年半ばになると、明暗が分かれ、eBayは「Taobao」に徐々に差をつけられ始めました。途方に暮れたeBayはソフトバンクからアリババの株を購入し、水面下でアリババをコントロールしようとしました。噂によれば、eBayが1000億円という価格で孫氏が保有していた30%のアリババの株を購入したいという提案を孫氏に送りました。

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投資家でもあるので、孫氏がそんなに美味しい提案を真剣に検討しないわけにはいきませんでした。マー氏も当時、自分が立ち上げた会社の大きな一部を敵に譲ることを心配しました。幸いなことに、孫氏は結局、eBayの提案を受け入れませんでした。その代りに、孫氏が斡旋し、自分の盟友のYahooにアリババに融資してもらいました。それだけではなく、Yahooは中国事業をアリババに譲ることまでしました。その一連の出来事で、マー氏のアリババは豊かな資金と堅調な事業を手に入れました。それのおかげで、強敵のeBayを破ることができました。eBayは2007年に実質中国から撤退しました。

2005年に孫氏はマー氏を含む4人で構成されていたアリババの取締役会の一人になり、2年後の2007年に、マー氏はソフトバンクの取締役に就任しました。

ステージ3:時々の意見の相違

孫氏とマー氏の間柄にはずっと問題が発生しなかったわけではありません。外部に漏れた情報を整理すると、少なくとも二点にめぐって大きな意見の相違があったようです。

1点目は、社員に株を譲ることです。アリババが成長するにつれ、社員数も増えてきました。社員の企業に対するロイヤリティを高めるため、そして社員のモチベーションを高めるために、実質的に既存大手株主が一部の株を社員に譲ることがよくあります(実際に譲るのではなく、新規株を発行するという手段ですが、実質の結果は同じです)。そうすることで、既存の株主の持ち分、すなわち企業の株の何割を持つかという数字、が少なくなります。マー氏はそれをかなり行いました。2005年頃に十数%の株を持っていたのに、2018年頃に5%前後まで減らしました。もちろん、2018年の5%の価値は2005年の十数パーセント%の価値を遥かに超えていました。孫氏はマー氏と逆で、2005年に取得した30%という持ち分の割合を、ずっと保ってきました。つまり、同じアリババの取締役で大株主なのに、孫氏は社員に利益を配ることにかなり消極的です。

もう一つの争点は孫氏の経営判断です。取締役会の一人として孫氏はもちろんアリババの重大な経営判断に関与しました。しかし、孫氏の指摘に対して、マー氏の評価は芳しくなかったようです。ある報道によれば、マー氏は2010年にこう言い切りました。「孫氏のアリババの経営に関する意見で受け入れられるのは30%ぐらいです。それ以上受け入れると、会社が死にます。彼の多くの意見はバカバカしいです。やっぱり、投資家は経営できないですね」

二人の会社は資本面のみならず、業務面でも様々な提携がありました。例えば、アリババ傘下のクラウドサービスの「Alicloud」が日本に進出した際に、「SB Cloud」というソフトバンクとのJV(共同企業体)を作って事業を展開しました。しかし、結局頓挫し、アリババはまた独自の会社を立ち上げ、日本で「Alicloud」を販売し始めました。

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そういった意見の相違があったものの、孫氏とマー氏の関係は全体的に友好的と言えます。お互いの株主総会や二人とも参加する講演イベント(例えば、2019年12月東京大学が主催したイベント)で、基本二人とも笑顔で関係の良さを見せてきました。マー氏は、ある取材でこのように二人の関係を描きました「私たちは昼間仕事上でよく喧嘩しますが、夜は仲良くお酒を飲みます。」

ステージ4:別れ

関係者によると、孫氏とマー氏は2019年12月東京大学が主催したイベントに登壇した後に、マー氏はプライベートで孫氏に「ソフトバンクの取締役を辞任したい」と伝えました。孫氏は少し難色を示しましたが、結局マー氏の意志に逆らえず、2020年6月25日に二人はお互いの会社の取締役を辞任しました。

https---s3-ap-northeast-1.amazonaws.com-psh-ex-ftnikkei-3937bb4-images-5-9-0-1-23841095-1-eng-GB-20191206Photo by Ken Kobayashi AO7I3153 のコピー

今の孫氏とマー氏のそれぞれの立場は20年前と大きく変わりました。20年前は、すでに日本インターネット業界屈指の経営者の孫氏と、どこの馬の骨か知れない創業者のマー氏でした。今は、マー氏は世界的に有名な経営者になり、資産も知名度も孫氏を超えていると言われています。2018年にアリババの会長を辞任することを発表し、そのあと、徐々にアリババの株を売却しました。現在、すでにアリババとソフトバンクに役職についていないマー氏は、自由人として色々な慈善活動をしています。孫氏は、最近自ら運営してきたSoftbank Vision Fundが大きな損失を被りました(こおむりました)。しかし、60歳を超えてもなおの日本インターネット業界の代表的人物である孫氏は、まだまだ経営の最前線で戦っています。

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