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食の安全性 第六話 癌と食習慣

癌の原因

 昨今、癌は「国民病」として異名をとるようになっています。将来的には国民の2人に1人は癌になる・・・などと言われており、そのために予め保険に加入しておくとか、癌になっても職場復帰が可能となるような体制を整備していくことにお役所(厚労省など)は力を入れ始めています。

 しかし、一方で、癌の根本的問題を解決するような生活習慣改善や環境問題への取り組み、さらには癌を予防するような抜本的な見直しについては、私の目からするととてもトーンが低いという印象です。

 今回は「癌と食習慣」としてお話をさせていただきます。特に、これからどのように癌と向き合えばよいのか、お話していきたいと思います。

 「癌と向き合う」としたのは、今、癌でない方もこれから、癌になる可能性もあるという視点でお話しをさせて頂くためです。癌にならないのが最も良いとは思います。しかし、癌とは他の病気の病態とはやや異なっているところがあります。

 それは、もともと自分の細胞であったものが変化して無秩序な状態を作るという病態であるということです。形あるものと、形なきものの間に、仮に首尾一貫した秩序があるとするならば、これは生命システム全体の掟を無視している現れかもしれません。無秩序を警告する戒めや自戒を諭すためのサインであるとも考えられます。

 つまり、少し考えればわかりますが、現代社会で癌が猛威を振っている根本的な問題は、地球上のあらゆる汚染の問題と直結するのです。これを理解しなければ、本当に癌と向き合うことはできません。そして最終的にここでは、精神免疫療法という精神的な癌との向き合い方まで含めて超視野的な展望で解釈を進めていきたいと思います。そしてその意図は、精神的な浄化が環境の浄化にも直結するのだという認識であろうと思います。

こうした事柄について、なるべく視野を広げ多角的に解釈してみます。

さて、本題に入りましょう。ここで簡潔に書きますが、癌の要因として考えられるのは大きく次のものがあります。

1)環  境
そして

2)食  品
最後に

3)遺  伝
の三つです

 嗜好品の酒やタバコ、紫外線などで、肝癌や肺癌、皮膚癌になるのは、二次的に起きていることを見ているにすぎません。もちろん一次予防には、過剰飲酒やヘビースモークを控えることは正しいと考えますし、バランスのよい食事も大切でしょう。しかし、このシリーズでも何度もお話ししていますが、食材自体の吟味を忘れてはいけません。

 今後の取り組みとしては、癌の早期発見や治療といういわば二次予防は、「集団検診」や定期検診などの受診で良いと思います。しかし私が皆さまに一番にしていただきたいことは、まず「癌」にならないようにすることです。つまり一次予防が最も大切であり、そのためにできることを惜しまないでいただきたいのです。
 
 それと何度も申し上げますが、「癌」保険にお金を掛けるより、良質の食材にお金を掛けて下さい。その方の人生が豊かに愉しくなります。スーパーの見切り品やお勤め品には手を出さないでください。癌になる前に生活習慣、特に食習慣を見直していただく、それが私の切なる願いです。

 たとえ遺伝的な背景があるとしても、それは生活習慣によってかなり変えられることが分かっています。体質とあきらめてはいけません。また、精神的な影響も遺伝に大きく関与しています。このあたりも含めて解説をしていくことにしましょう。
 
 そして、癌になってしまった方も、ご自身の人生をもう一度見直していただき、癌、すなわちご自身自身と向き合っていただきたいのです。人間ドックを受けているだけではダメです。チェックは大切ですが、それ以上に生活習慣を見直していただきたいのです。

1)環境について

①大気汚染

 この問題は、大変重要重大な要素を孕んでいます。歴史を見れば明らかですが、核実験をしていた1950年代後半から世界中で癌が増加しました。大気へ放出された放射能が全ての癌の発症に関連しているのは明らかです。この問題を言わずして、全ての「癌」の予防を語ることは出来ません。

 そして、すなわちそれは非常に密接に関係する原 発問題へと進みます。核の平和利用という表向き耳ざわりの良い言葉に乗せられ、わが国でも54基もの原 子力発電所が乱立しました。「原 子 力」という言葉は「核」に対する悪いイメージを避けるための「まやかし」にすぎないので、ここでは「核発電」と申します。

 震災が起きる前から、核発電所付近での白血病や各種癌の発症率が高いというデータがあったのですが、そういう調査は意図的に伏せられてきました。そして、震災から11年(2022年現在)。福島の事故が未だに収束していないのにも関わらず、国は核発電の輸出や再稼働を推進し、未だに核の問題にまともに関わろうとしません。

 この情報統制の陰には、メディアのスポンサーになっている電力会社、さらに国の責任を回避する意図があります。メディアはスポンサーが嫌がることは一切言いませんし、国に従順です。放 射能問題を、PM2.5やスギ花粉、光化学スモッグなどの一般大気汚染の問題にすり替え偏向報道しているだけのように見えます。

 さて、本題に入りましょう。

 ここで皆さんに非常に辛い話しをしなければなりません。私の個人的な見立てですが、これから、お年寄りも、若い人も、食生活に気をつけない方は本当に「癌」やその他のあらゆる病気で早く亡くなるでしょう。日本人の長寿国としての印象も、もはやこれまです。すべては放 射能汚染が原因です。

 私は、チエルノブイリ事故の後、ベラルーシの平均寿命が10歳以上低下したという資料を見たことがあります。これは恐るべき数値です。私たちは覚悟をしなければなりません。今までのように歴史を省みず検証しない態度で過ごせば必ず同じことが繰り返されます。

 チエルノブイリ事故が起こる以前も、1945年から過去数回に渡る原水爆実験で実験後5年目から5~9歳の小児がんの発症率がウナギ登りに増えている現実があります。福島の事故から10年を超え、これからが正念場だと思います。様々な疾患が増えてくる可能性があるでしょう。

 そして、2015年の国勢調査によると約95万人の人口減少という、とてもショッキングな現状があります。ここまで減少したことは今だかつてありませんでした。国はこれから外国人を数十万人単位で国内に優遇的に移住させる話を始めています。

 これはこれから大量に失われるであろう人口にみあう労働力の確保と、見かけ上の平均寿命を改ざんする目的があるかもしれません。ただでさえ平均寿命として国が発表しているのは、平均予測寿命であり、100人の死亡した年齢を足して100で割った数値、というような単純なものではないのです。概算すると本来の平均寿命はおおよそ10歳程度寿命が短いとされています。

 非常に穿うがった見方かもしれませんが、こうした統計発表の裏には、長い老後がある幻想を国民に抱かせ、年金や保険に加入させるようとする意図があります。もし平均寿命が60台前半とした場合、これから年金受給開始年齢が65歳へと段階的に引き上げられる状況の中で、若い方がまともに年金を支払うでしょうか。

 そうした統計上の数字のまやかしはともかく、自らの命のために、食の安全性をもう一度見直さなければいけません。そうでなければ、私たちは生命財産をまるごと絡め捕られてしまうことになるでしょう。このようなことにならないよう、まず、健康管理を行い日本人として世界から求められている役割を果たさなければなりません。

 私たち日本人が、原爆と原発事故の二つの経験をしている世界で唯一の生き証人として、世界中の方々に「和食」の「こころ」と、食材の「真の安全性」を訴えていかなければならない責任があるのです。

②土壌汚染

 次の問題は、土壌汚染です。有機栽培のところでもお話した通り、日本では「有機栽培」=健康、のようなイメージがすっかり定着しました。オーガニック食品店では「有機」が売りになっています。このようなイメージを覆すように最近は「自然栽培」を売りにしているところも出てきました。

 その背景には、4)良質の繊維質、のところでもお話ししたように、有機栽培で問題なのは、土壌中の窒素による植物への影響です。日本の土壌中の亜硝酸性窒素の量は基準がありません。過剰になると良質の繊維質やビタミン・ミネラルが不足した野菜ができます。また、それにより腸内細菌への良質の餌の供給も不足となり腸内細菌が弱ることになるのです。

 また、繊維質は三大栄養素の中に含まれていません。昔、といっても30~40年あるいは半世紀前くらいまでですが、その頃は繊維質のことはあまり考えなくても良かったのだと思います。土壌の状態が比較的保たれていて炭素成分も多かったからです。

 慣行農法で化成肥料などの強力な窒素リン酸カリを撒いてしまうと土壌に本来住めるはずの土壌菌の居場所が失われてしまいます。これらの化成肥料は強力で一度撒いてしまうと特に窒素は4~5年は抜けません。植物はその間見事に成長しますし、見た目は立派に育ちます。

 しかし、繊維質やビタミンミネラルが極端に低くなるという状態が生じることになります。ある報告によると、緑黄色野菜の繊維質はもとより、ビタミン・ミネラル分が10年前の1/5~1/2に減少しているというデータもあります。これらは有機栽培への過度な取り組みが原因ではないかと考えています。

 農家としては収穫率や見た目の良さがまず問題になります。売れなければ仕方がないですし、少しでも収穫量を増やすために様々な方法を試みています。

 このようななか炭素の多い土壌に改良し、肥料を極力減らすようにすることで、良質の線維質を持つ食材を作るための取組が少しずつ行われています。しかし、まだまだ慣行農法や有機栽培に頼る農家が多く遅々として進まない現状もあるようです。

 実は、こうした土壌の問題は『癌』と直結するのです。

 最近は腸内細菌の研究が盛んに行われています。土壌はもともと東洋医学では「胃」や「脾」(西洋医学では脾臓ではなく膵臓のこと)に関与するといわれています。土壌を健康な状態に保つと腸内細菌の餌である良質の繊維質を摂ることができ、それによって腸内細菌が活性化されて体に必要なビタミン・ミネラルを作ってくれるのです。

 ですから、土壌を汚染させると、胃腸病が増えます。大気を汚染させ木々が枯れ始めると肺病肝臓病が増えるのです。

 これからお話しする海洋汚染はしいて言うと尿路系の腎、特に骨に関与することになるかもしれません。このように東洋医学的な見立てからでも環境と人間の疾病は非常に密接な関係があることがわかります。

③海洋汚染

 原発事故以前から海洋汚染として問題になっていたのが、重金属の汚染です。特にタンカーや大型の客船などの船体外板にフジツボやアオノリ等の生物が付着すると、船舶の推進抵抗を著しく増大させるだけでなく、海生生物の越境移動の加速等の問題を生じることになります。
 
 このため、船体表面には生物に対して活性を有する化学物質(防汚物質)を含む塗料を塗布して、付着を防止しているのですが、防汚塗装は、有毒な防汚物質を徐々に海水に溶出して効果を持続させるため、周辺の海域の生態系に影響を与えることになるのです。特に有機スズ問題を契機として、船底防汚塗料の海洋環境への影響が注目されています。

 そして、この問題は解決しつつあり、2008年に世界的に有機スズの使用禁止が奨励されました。今後徐々に重金属の汚染は減少していくと思われます。

 しかし、今後はこれに変わり、原 発事故の影響から日本近海の放射能汚染はひどくなることがあっても改善することはしばらくないでしょう。事故後10年以上が経過した現在でも、福島から毎日大量の放射性物質が垂れ流されています。北半球のほとんどと南半球もすでに、かなり汚染している可能性が考えられます。

 はじめにお話しましたが、放射能汚染は一般的に海洋における放射能濃度が低くても、そこに棲む魚は生体濃縮が起き、体内では数万倍~数百万倍になることもあり得ます。各種データは検索するとすぐにでてきます。私がここであれこれ言うことはないでしょう。しかし、この事実はしっかり認識しておくべきです。

 そして、もう一つ問題があります。それは、養殖魚です。良質のたんぱく質でお話したように、魚の養殖生簀いけすを消毒するための消毒剤や餌の合成飼料などに抗生物質やホルモン剤などが大量に使用されている場合があります。これらを添加された養殖魚は抗酸化力が極めて低くなるため特に酸化しやすくなるのです。

 餌にビタミン・ミネラルなどが添加されるのですが、良質の繊維質のところでお話したように、慣行農法の窒素燐酸カリとまったく同じことが海洋で起きていると考えてよいでしょう。本来必要のない栄養素を追加することで体が弱りやすく病気になりやすいモノになってしまうのです。

 特にスーパーでは、酸化しやすい養殖魚を切り身に加工しますが、空気に触れる時間が長ければ長いほど、酸化が進むことになります。また、切り身をミンチにしたりすると、さらに酸化が激しくなります。ですからハンバーグやソーセージなどはよほど生きのよい素材を使用しないと食品自体が酸化されてしまうというわけです。

 発がん性のある化学物質が使用されているか否かの前に、このように酸化されたものを食すると身体は必然的に酸化されやすくなるのです。なるべく酸化を招く食材は摂らずに抗酸化力の高い食材を摂取するように心掛けることが大切です。ですから、魚は天然の一匹モノ、放射能のことを考えると小魚のほうが良いのでしょう。

 放射能の海洋汚染の問題も書きましたが、こちらも現状では侮れません。私は太平洋側の海産物はほぼ汚染されていると考えてよいと思っています。このようなことを話しますと大抵反対論が巻き起こるのですが、事実としてこれは知っておいた方が良いでしょう。それこそ身のためです。

 自然栽培や天然モノの違いは見た目では分かりにくいのです。食べてみると一食瞭然でその違いを知ることが出来ます。

2)食品について

 常識的に考えて、やはり発がん性のあるものは控えた方が良いのは言うまでもありません。特に添加物の中には様々な副反応が生じるものがあります。前回、食品添加物でお話しましたが、アスパルテームのように体に問題があるにもかかわらず認可されているものもあるのです。

 また、キャリーオーバーと言って食品業界において、原料中には含まれるが使用量が微量、あるいは完全に回収される物質など、特に副作用がないと考えられるため、法律によって表示を免除される添加物を指すのに用いられるものもあり、その代表的なものが、サラダ油を始めとする油脂成分を抽出処理するときに使用する猛毒ノルマルヘキサンです。

 完全に除去できるとして成分表に表示されていませんが、その化学物質を除去するときに高温にさらしたり他の薬物と反応させたりすることが多く、油の場合は高温処理を何度も行うので、それだけ酸化された油ができやすいのです。それが過酸化物質として人体に少しずつ影響を及ぼしていきます。

 猛毒ではなくとも、少しずつ知らない間に、緩徐に人体への影響を及ぼしていく害のある物質というのは、検出もされにくいですし非常にわかりにくいのはもちろんのこと、企業側にとってはそれを上手く利用することもできるわけです。

 現在進行形の<○ほ>の問題にしても、現在病気になっている方々の発症や病態のベースになっていることが考えられます。

では、食品は何を摂ればよいのか?

 これは、いままでお話してきたことに答えがあります。つまり、良質のたんぱく質、脂質、繊維質、糖質を摂取すればよいということに尽きます。しかし、現代の食事情ではなかなか手に入れることが難しいかもしれません。

 冗談めかして、「そんなんだったら、最終的には全て自分の手でつくらなければならないね」と仰る方もいるでしょう。そうお考えになるのも無理はありません。そうでなければ本当に安心できないと、私も考えてしまいます。

 私は医師としての自分の立場もありますし、昔から食べることや料理することも趣味の一部でしたので、人一倍食には拘っている方だと思います。そのような経験の中から最近では、食は精神を含む健康問題すべてに通ずると思うようになりました。身体面のみならず心の情操にも深く関係しているのです。

 食べもので子供達の精神状態が変化することも経験的に理解しました。特に甘いものを食べ過ぎると、機嫌が変わりやすく情動に影響があると感じます。実験的に外食を控え甘いものを極力とらず、炭水化物でも小麦粉(強力粉)系のパン、うどん、ソバなどを控えると神経過敏になりにくく夜なきなども少なくなる印象です。

 これは、あくまでも印象ですので、多少思い込みもあるかも知れませんが、子供に情動不安や易攻撃性あるいは衝動性など気になる症状がみられるようでしたら、食事に留意していただいても良いかもしれません。このお話は、次回の食育、徳育のところでお話いたしましょう。

 食事については、できることからで構いませんので、出来るだけ自然に近いものを召し上がっていただくほうが無難であると思います。

 最近では、油のことについても注意を促す本が出版されているようです。私も基本的には良質のタンパクと良質の脂質、そして良質の繊維質を摂っていただくことが食品から影響する「癌を予防する」方法であると考えています。

3)遺伝について

 遺伝については、簡単なことがあります。やはりご両親やご親族に癌の方がいらっしゃらないかどうかは確認をしていただいたほうが良いでしょう。もしどなたかいらっしゃった場合は、ご自身も気を付けるに越したことはありません。

 特に女性の場合、乳癌になりやすい家系もありますし、女性器の癌も傾向としては遺伝に絡むものもあります。最近では牛乳と乳癌の関係が取り立たされているようですが、特に乳牛に妊娠促進剤などを与えて育った牛乳を飲用すると問題があるようです。

4)精神免疫的な対処
生きがい・生きる意味の再発見

 最後に癌の精神免疫療法についてお話ししておきましょう。「市民のための癌治療の会」独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター院長 西尾正道先生も創立委員として参加している団体です。

 この会のホームページの中のコラムにある方の癌治療の経験が紹介されています。癌治療の現状とその治療に関係する医師やコメディカルを含めた心模様をうまく表現している内容ですので、少し長い引用になりますが、参考までにお読みいただくと良いでしょう。記事は2011年10月のものです。

 以下引用開始~~~~

【ある日突然】

 例えば、思いがけないことからがんが見つかり、医師から「根治療法はなく3ヶ月の余命です。しかも、いつ腫瘍が肺にとんで動脈をふさぎ、呼吸不能で頓死するかわからない。」と宣告されたとしたら・・・。

筆者は放射性医薬品の製造・販売する医薬品会社で長年、新薬の臨床開発に従事し、現在、ストロンチウム-89という骨転移疼痛の緩和剤(がん医療の今No.48東京医大 吉村真奈先生の寄稿ご参照)に携わっています。

2006年12月、健康診断でたまたま肝がんがみつかり、当初、手術可能とみられていたのですが、いつの間にかがんは肝静脈にそって右心房に達しStageⅢb。手術や局所治療も適応はなく、肝がんの常識からは冒頭のとおりの状況でした。しかし、幸い専門家も驚くような過程を経て完治に至りました。現在のところ明らかな再発所見はなく、自らが開発に携わった薬の世話になることはありませんでした。

本稿では、一般の方が、がんと直面された時の心がまえのご参考になればと思い、その体験と、患者として感じたこと、現在の想いなどを紹介させていただきます。

【治療経過】

 外科手術ができない肝がん。とはいえ当時から、肝がんには著効する化学療法があるわけでなく、肝臓内科を受診してもあまり薦めてはくれませんでした。そこで記憶にあった5-FU(抗がん剤)の肝動脈注入とインターフェロン併用療法についてたずねたところ、東京では杏雲堂病院の小尾俊太郎が臨床試験をされているとのこと。後にこの「市民のためのがん治療を考える会」で小尾先生が講演されていることを知り、本会の創立委員である西尾先生に紹介状を書いていただきました。何かの縁があるものですね。

ところが、5-FUを動脈注入のために血管造影をしたところ、肝動脈は正中弓状靱帯で圧迫され動脈注入するためのポートが留置できないことが判明しました。とはいえ、他に治療方法もないわけで、仕方なく5-FUは動脈注入ではなく点滴静注することになりました。

小尾先生も最初から効果は期待されていなかったようで、その1ヶ月後に効果判定に画像診断を頼んだのですが、「そんな1ヶ月ぐらいでは効果はないですよ。」という返事でした。と言いつつも、翌日CTを施行してもらったところ、「吉村さん、劇的に効いてますよ!」という小尾先生の驚きの声でした。

その後、肝外に伸びた腫瘍は徐々に縮小、ついにがんが肝臓内に限局して切除可能となり、2007年6月に東京医科歯科大学 肝胆膵・総合外科 有井 滋教授に執刀してもらって、今日に至っている次第です。有井教授はその2週間後に開催された日本肝癌研究会の会長を務められ、会長講演の中で「内科と外科のコラボレーションが功を奏した1例」として、私の症例報告がなされました

【いきなりそこまでおっしゃいますか】

 当初、手術を目的に受診した専門病院の外来でのこと。肝切除を前提に撮り直したCT画像に、肝がん右心房まで伸展しているのをみつけた医師は、その“喜び”を隠せないふうで手術できないと告げ、面談説明書には「標準的な根治療法はない」と大きな文字で書いてくれました。また、「心臓の腫瘍がはがれて肺動脈の起始部を詰めると頓死に至る。これだけは安静にしていてもどうしようもない。」さあ、どうするといった感じでした。もちろん、これはあくまで、患者側の印象です。

杏雲堂を受診した時、「来年の桜が見れるか見れないかくらいかな~」というのが小尾先生の最初の言葉で、私は内心「オー、そうくるか!」と感心しました。仕事柄、局所治療の適応のない肝がんの平均余命が3ヶ月程度であるとの知識はありました。それを伝えるのに、はかなさ漂う桜を使った表現がうまいと感じたからです。小尾先生の病院には手術不能の多くの患者が他施設から紹介され、毎週のように患者を看取らざるを得ないような医療現場で、「患者に無念さを残させないのが我々の仕事です。」と推定寿命を告げられた理由を補足されていました。

私の場合、いつ頓死しても不思議でない状態だったので、以上のような説明は無理からぬことだったとは思います。しかし、医学業界になじみの薄い一般の方が、このような言葉に突然さらされると、頭が真っ白になるのではないかと懸念します。

【悪い知らせのとらえ方】

がん告知の衝撃でガラスのようにもろくなったこころは、医療者や周囲の人々の、患者側からすれば無神経な、心ない言動で容易に壊れてしまうので取扱注意が必要です。

正確な余命の推定は1ヶ月以内でなければ困難です。医師が伝える生存期間は、類似した患者集団における中央値という平均的生存期間であって、決してその患者自身の余命ではありません。それより長生きする確率も十分あります。ただ、医師の立場に立てば短めに伝える方が安全です。短めの余命を伝えて、それ以上長く生存できれば名医となるし、逆に、より短命に終われば、そんなはずではなかったのではということになります。このことを心に留めておくとよいでしょう。

「悪い知らせの伝え方」に関する臨床腫瘍医におけるコミュニケーション・スキルは、我が国では最近やっと教育資料が作成された段階です。若い医師による事務的ながんの告知を受けて、うつ状態になる患者が少なからずいるとのこと。その一方、告知は医師にも辛いことで、それがストレスとなり精神的バランスを失っている医師もいるようです。

不幸にも医療者の心ない言動に傷つきそうになった時には、この人たちは正解のある問題に解答するのは得意でも、患者のこころというアナログ的な課題には苦手なんだと思えば、余計なストレス・怒り、不信感をそらすことができるかも知れません。

日本では現在2人に1人が生涯にがんを発病するといわれています。これほど確率的に平等な病気は他にないと思います。これは夫婦のいずれかががんになる確率です。「どうして私ががんに」ではなく、妻でなく自分でよかったと考えることも可能です。また、この数値は、完治可能な初期段階のがんの早期発見が可能となったことも反映しており、「がん=死」という時代ではなくなっています。

私は、「人は自らが進化するのに一番適した環境のもとに生まれる。人には乗り越えられないハードルはこない。」という考え方が気に入っています。そう考えればどんな過酷な状況でも受け入れやすくなりきます。「宇宙は絶対にあなたをつぶさない。」という、昔、知人から聞いた言葉が、がんの告知を受けた時から常に支えてくれていました。

この考えで、たとえ私の子ども達が幼くして父親を亡くすということがあっても、彼らにとってそれなりの意味があることだろうと教えています。ただ、私の父と母は私が9歳と12歳の時にがんで他界しており、自分と同じような人生を送らせるのもいかがなものかとは思いますが・・・。  

【セカンドオピニオン】

治療法を自分でも考え、納得できる治療法をみつけるために、セカンドオピニオンも重要です。私の場合、前述の治療で昼間は暇だったので併用する治療法を探していました。標準治療はないため、重粒子線治療以外にも、高度先進医療にも指定されていないカテーテルで腫瘍に抗がん剤を注入するIVR治療、養子免疫療法など、保険外照射の高価な治療法も様々検討しました。ただし、適応がなかったり、高額な割にはきちんとした臨床データが示されてないなど、自分に合理的なものはないと判断しました。現在はワクチン療法など新たなアプローチが急速に進み臨床研究がなされています。そのプロトコールに合致・参加できるか研究機関に問い合わされるとよいでしょう。

逆に、がん治療の研究を主とした医療機関や大学で治療を断られても、決して落胆しないで下さい。このような施設では、その施設での臨床研究の対象となる条件から少しでも外れる患者、あるいは、自施設の治療成績を高く保つため、治療成績効果があまり期待されないような患者では断る場合があると言われています。 私が外科手術を受けた東京医科歯科大学 肝胆・膵外科のホームページには、「他の病院で手術できない難しい症例も、積極的に手術していますので、是非ご相談ください。」との記載があります。それでありながら、当大学の治療成績は全国平均と比較しても良好です。私の場合、いったん腫瘍が心臓まで伸展したような危ない患者ですから、他の大学での手術適応の基準には合致しておらず、当大学であったからこそ手術してもらえた訳です。 がん治療は情報戦であるとも言われています。このような医療機関にぜひとも巡り会って下さい。  

【サプリメント・補完代替医療】

日本では、がん患者の45%が補完代替医療を利用しており、その96%は漢方を含む栄養食品・サプリメントということです。しかし、現在のところ、がんに対する直接的な治療効果(がんの縮小、延命効果など)を証明する報告はほとんどありません。ただ、直接的な治療効果を示すデータがないということがすなわち、その療法がその人に無効ということではありません。

私の場合、サプリメントやアーユルヴェーダのハーブも含め、自分で納得したものは経済的に許される範囲で使用していました。また、消化器内科の友人が紹介してくれた里芋パスタによる湿布を妻にやってもらいました。問題がなければ、何かをしてあげたいという周囲の思いを受け入れるのも、患者の社会的な役割だと思います。

がん治療においては、正常細胞のごとく身を隠しているがん細胞を見破り攻撃できる自らの免疫力が決め手になると考えています。この免疫力はストレス、絶望感、うつ状態により極端に低下します。

私は超越瞑想(Transcendental Meditation)という瞑想を時間が許す限り行っていました。この瞑想は精神的・身体的ストレスを低減するということで多数の医学・科学論文が公表されており、がん患者に対してはQOLの改善に有効であるという報告があります。また、マインドフルネス瞑想という釈迦の教えにヒントを得た認知療法を、初期乳がん患者に導入してストレスを減少させることで、免疫機能、QOLの改善をもたらしたという報告もあります。

期待していたほど治療結果がでない時、否定的な想念がよぎるかもしれません。そういうときは、「否定的なことを考えている自分がいる」と認識し、その想いと、事実・自分とを切り離し、否定性・絶望に巻き込まれないようにしましょう。

オーストリアの精神科医で、ナチスに強制収容所へ送られたヴィクトール・フランクルは、「絶望が人を死においやる。医師はそれに荷担してはならない。」と述べています。  

【治すのはあなた自身です】

フランクルは、また、以下のようにも述べています。

「強制収容所において人々の生死を分けたのは、多くの場合、ものごとへの対処の仕方を決めるのは自分だということを自覚しているかどうか、その苦しみの中に生きる意味をみつけられるかどうかであった。」

「人間だれしもアウシュビッツ(苦しみ)をもっている。あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望しない。あなたを待っている「誰か」や「何か」がある限り、あなたは生き延びることができるし、自己実現できる。」

私が実践した補完代替療法は、西洋医学にはない身体に滋養・活力を補充するというものが中心で、西洋医学を無視するのは危険です。ただ、私は生命に対する不可思議さ、畏敬の念から、病気の治癒にはプラセボー効果を含め、人間が持つ自己治癒能力が非常に重要だと考えています。そのために、西洋医学的では根拠がないとされるようなことも含め、いろんな治療法も検討しました。その奥には、このような行動をつうじて、がん治療を医者任せにするのではなく、どんな時でもあきらめることなく、自分で治すのだという強いメッセージを、自らの身体に向かって伝えたいという思いがありました。

【「病は気から」の自然科学的背景】

我々の身体では細胞が分裂と消失を繰り返し、毎日12兆個の細胞が入れ替わります。この過程で遺伝子の複製ミス(突然変異)によりがん化する細胞の数は1日に3千~6千個に達するといわれています。しかし、我々が容易にがんにならないのは、体内の免疫機構によりがん化した細胞を殺傷・排除しているためです。

この免疫機構に悪影響を及ぼす大きな要因の一つが、ストレスとそれに続く抑うつ状態です。

たとえば、我々が隣人の死、健康問題や経済的などの危機に遭遇し、自らの対応能力を超えた状況に直面して高度のストレスを受けると、脳の視床下部から副腎へと刺激が伝わり、アドレナリンやコルチゾールなどのストレスホルモンが産生されます。ストレスやうつ状態が長期間におよぶと、TNF(腫瘍壊死因子)-α、インターロイキン(IL)-1、IL-6などのサイトカイン(免疫系の主な情報伝達物質)が影響を受け、さらに、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性低下、ひいては腫瘍の増殖を誘発すると考えられています。また、私のような肝疾患の場合、ストレスにより血管が攣縮して肝血流が低下し、肝細胞が低酸素状態に陥り、傷害を受けることもあります。

このような現象は疾病に限ったことではなく、精神社会学的ストレスによるDNA修復への影響なども知られており、例えば学生の試験によるストレスで、DNAの酸化的傷害が誘発されたり、血中の抗酸化作用が低下することが報告されています。

さらに、免疫細胞と脳細胞との間にはいくつかの共通性があります。すなわち神経内分泌系と免疫系では共通の刺激・伝達系や受容体を有し、また、サイトカインなどの免疫系から逆に視床下部~下垂体~副腎皮質系(HPA axis)の機能へと影響が伝わることも知られています。

すなわち、「病は気から」は神経生理学の観点からも根拠があることです。

【ストレスと免疫に関する動物実験】

「人々の生死を分けるのは、ものごとへの対処法を決定するのは自分だということを自覚しているか否かである」というフランクルの言葉を前半で紹介しました。ストレスに対処可能か否かで、免疫機能がどう影響を受けるかを検討した動物実験があります。

2匹のラットの尾を電極でつなぎ電撃を与えます。一方は目の前の棒を押せば電撃から解放されますが(対処可能群)、他方は、前述のラットが棒を押さない限り電撃から逃れられません(対処不能群)。

繰り返しの電撃の後、両群の行動・免疫反応を調べた結果、前者の対処可能群では著しい変化はみられませんでした。他方、後者の対処不能群では、体重低下、胃潰瘍の発生がみられ、行動的にもエサに対する競争性・ストレスからの退避行動・攻撃性が低下しました。さらに、脳内のストレスホルモンであるアドレナリンが増加し、NK活性が低下し、移植された腫瘍への拒絶率も低下しました。

【がんと精神的要因の臨床研究】

精神的要因やがん患者の予後を検討した臨床研究において、無力感や否定的な感情抑制という精神的要因が、がんの増殖や広がりに関連することが示唆されています。

例えば、コルチゾールやエピネフリンなどのストレスホルモンの存在下で、子宮がん細胞を膜浸潤培養系で培養したところ、これらのストレスホルモンがない場合に比べ、がん細胞の浸潤性が89%~198%増加したとの報告があります。

前述のフランクルの言葉や、ラットでの実験結果は、臨床的にどのように現れるのでしょうか。がんをどう受けとめ,どう対処するのか(コーピング)という患者の精神的要因とがんとの関係を検討した臨床報告があります。

早期乳がん患者62例を対象に、がんに対して① 前向きに積極的に対応した、② がんを否定した、③ 冷静に受容した、④ 絶望感をもったというと4種類に分類し、生存期間が調査されました。その結果、いずれの群も標準的治療が実施されたにも関わらず、①から④の順に生存期間が短くなり、15年後の生存率は①群で45%に対し、③、④群では17%でした。本研究では、臨床病期、がんの大きさ・程度、手術・放射線治療実施の有無と生存率・再発率の間に有意な関係はみられず、がんに対する精神的反応・気持ちのありかたのみが生存・再発に関連する有意な要因であったとされています。

なお、この研究はその後、同じグループにより大規模な追跡研究が行われ、その結果、上記の研究ほど生存率に差はなかったものの、うつ状態に至った患者の予後が悪いことが確認されています。

【がん患者・患者家族とうつ状態】

がん告知を受けた時の一般的反応として、衝撃、否定、絶望・怒りなどの感情の後、悲嘆・落胆・うつ・不安などを経験し、通常は2週間から3ヶ月ほどかけて、徐々に日常生活に支障がない程度に回復していくといわれています。しかし、悲嘆・うつ・不安の状態が続くと、前述のような機序で体内の免疫機能が低下し、がんの進行を助長するという悪循環に陥ります。

問題なのは、大うつ病の特徴である抑うつ気分、意欲・興味低下、睡眠障害、食欲低下、思考・集中力低下および倦怠感などの症状は、がんに起因する症状と類似しているため、多くの場合、これらの症状ががんによるものと看過・放置され、中にはがんによる痛みよりも辛いうつ症状を体験する例もあるということです。もしも、これらがうつによる症状であれば抗うつ剤などで治療することにより、抑うつから解放されて、再びがん治療に積極的に取り組む意欲が出てきます。

がんにおける精神的要因は患者のみならず、その配偶者・家族にもおよびます。すなわち患者の家族の2~3割に抑うつがみられ、また、配偶者の死別後1年以内におけるうつ病の発症率は45%に達するとの報告があります。さらに、進行性乳がんで治療中の妻をもつ夫の免疫反応を、妻の死亡前後で調べた研究では、死別後1ヶ月後に免疫細胞(T細胞・B細胞)の機能が低下し、その状態は4~14ヶ月以上の長期にわたり持続していたとの報告です。  

【笑い・生きがい】

ストレスとは逆に、笑いが免疫活性にどのような影響を与えるかの検討もあります。大阪なんば花月で健常ボランティア29例を対象に、3時間の笑タイムの前後においてNK細胞の活性が調べられました。その結果、全例においてNK細胞の活性値は上昇または正常化して、低下例はみられず、しかもこの効果は、即効性という点において免疫療法剤の注射よりはるかに強力であったとのことです。

フランクルの実存主義の観点から、浜松医大心療内科では全人的医療という療法が検討されました。専門医により予後が6ヶ月未満と告知されたがん患者28例を対象に、漢方学的な補剤を用いてエネルギー補給を行い、また、その患者が生きてきたプロセスを積極的に評価し、人生に十分な意味と価値を与えられることに意識を向けさせて、患者固有の社会的役割を遂行させるというような指導がなされました。その結果、平均生存期間は18.4ヶ月と、推定生存期間の3倍以上長かったとのことです。また、この28例のうち、美しい自然に心を打たれるなど、がんになるまでにはなかった感動的な体験(至高体験)があった6例では、他の22例と比べてストレスホルモン(コルチゾール)の指標、抗コルチゾール物質(DHEA-S)、生活の質(QOL)、生存期間などの項目で有意に良好な指標が示されました。DHEA-Sは免疫力や生体の恒常性の維持を改善することが知られており、フランクルの言う実存的な気づき(生きる意味への目覚め)によって脳が刺激・活性化され、DHEA-Sの分泌が亢進し、QOLと生存期間が改善されたものと考えられています。  

【結語】

以上述べてきたような精神的要因ががんの臨床にもたらす影響は、主要な治療法の結果を大きく左右するものではないかも知れません。しかし、類似した医学的背景の患者に同一の治療を施行しても、患者の生存期間に大きな開きが出る要因の一つとして、このような精神的な要因は無視できないものと考えます。

「絶望が人を死に追いやる」というフランクルの言葉を述べました。自分の人生に価値を認め、希望をもって強いこころでがんに対面するということは、患者にしかできない、しかも、その予後を決定する上で重要な要因だと考えます。  
 
 以上、引用終了~~~~

 実は、ヴィクトール・フランクル先生の最後の愛弟子である先生が、私を心療内科へ導いた師匠です。この文中に出てくる【笑い・生きがい】で示されている研究にも私自身関与しました。そして私は、全人的医療の枠組みとして、身体、心理、社会、実存的に患者さんを検討していくというPEG(Patient Evaluation Grid)を学びました。

5)「実存」と「全人的医療」の先に


 「実存」という言葉は、哲学用語なので一般的に解釈が難しいのですが、初めに日本語に訳したのは九鬼周造であり、彼が、Existeceを「現実存在」と訳し短く「実存」と意訳したと言われています。その思想である実存主義は、普遍的・必然的な本質存在に相対する、個別的・偶然的な現実存在の優越性を主張、もしくは優越となっている現実の世界を肯定してそれとのかかわりについて考察する思想である(「実存は本質に先立つ」)とWikipediaには記されています。

 「実存」をわかりやすく言い換えると、一言で「個々の精神」であるといえます。哲学が開花した実存主義の時代背景には二極思考体系があり、普遍性と個別性、必然性と偶然性などの対比の中から思想展開をしていることが特徴です。

 先ほどもお話しした通り、全人的医療には、心理、身体、社会、精神の枠組みがあります。基本的に、患者様のこれら四つの領域を全て網羅して治療を検討していく方法論なのです。

 「個々の精神」とは、すなわち個々が想う想念、あるいはそれより具体性のある思想などを概念化しさらに力強い意志や志向性へと導き、本質へ向かうディテールに近づかせるための意識の成り立ちであると思います。それが「実存」であり、この強い志向性が現実の世界を作り出す原動力になることから「実存は本質に先立つ」と言われているのです。現実の世界はまずこのような意識の広がりから生まれてくるものであると考えられます。
 
 私たちの自我と自己を内部と外部とし、内部外部を分かつ時にできるその架け橋が今顕現している自分すなわちわれであり、さらに内面外面、そして過去未来、個々と集団それぞれの狭間のなかで、私たちは現代社会に溢れる情報に晒され、常に自ら選択に迫られています。

 このようなときに、

「人間だれしもアウシュビッツ(苦しみ)をもっている。あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに絶望しない。あなたを待っている「誰か」や「何か」がある限り、あなたは生き延びることができるし、自己実現できる。」

この言葉が胸に沁みます。

 私の感覚では、大自然の一部である本来の自己と個々の自我のバランスをうまくとるための思想であると感じています。自己と自我の間に私の身体と精神と、そして文化を含む自分という環境が顕現しているのですが、その表現を愉しむことができるか、人の心の情動と物の意味と価値を<あたま>がどのように認識しているかにほかなりません。

 これは、苦しみの対処やそれを理解する方法、考え方の違いで人生観は変わってしまうということです。

 どのように物事を対処するのかという対処可能感、理不尽だと思えることでもそこに意味があると考えられる理解可能感、そして価値があると思えるかという有意味感。これが社会学者のアーロン・アントノフスキーが、人生を前向きに考えらえる方の特性として掲げた3つの特徴です。

 氣力が沸くと、自然治癒力も向上し生体反応に違いが生じます。そのバックアップをするのが食の重要性だと思います。このブログ記事が、皆様の健康のお役にたてれば幸いです。

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次回は、食育についての話をいたします。










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