見出し画像

クリープすぎておどろおどろしい世界 - 『殯ノ山』で異様な恐怖の淵へ

奇妙で醒めない悪夢

この本は、若本衣織氏による怪奇短編集『殯ノ山』である。表題作「殯ノ山」をはじめ、全6編の物語が収録されている。氏の才能は、最初の一文から読者を別世界へと誘う力にある。日常とは毛よりも細い境界線を越え、そこには絶望と混沌が待っている。一度その世界に足を踏み入れれば、二度と平穏は戻らない。

冷徹な描写に堪えられるか

作者の筆致は常に冷静沈着で、残虐な場面でさえ無機質に記される。しかし、その無感情さが逆に恐ろしさを増幅させる。理不尽な出来事が淡々と語られるたび、読者の内側で何かが引き裂かれていく。気がつけば、自身が住む世界も、危うくもろい虚構に過ぎなかったことに気づかされるだろう。現実という砦が、いとも簡単に崩れ去るのである。


人々を狂わせる異形の存在

この本に描かれるのは、人類の認識を越えた異形の存在である。それらは時に人の姿をとり、時に怪物と化す。しかし常に、あまりに異質で非合理的な現象を引き起こし、遭遇した人々の心を蝕んでいく。著者の想像力は際限なく、夢にも現れまい恐怖の摸写に余念がない。異常が日常に紛れ込み、読者はたちまち非常識な世界に閉じ込められてしまう。

緻密な筆致の妙味

若本氏の文体の妙味は、細部にまで徹底的な注意が払われている点にある。描写が過剰にならず、適度な情景だけが巧みに提示される。そのスタイルは、まるで一枚の精密な写真を見るがごとくである。しかし、その写真の内容はあまりにグロテスクで非日常的なものばかりだ。そこには常に、人の心を恐れさせる何かが潜んでいる。作者はうまく、その"何か"を視界の周縁に控えさせている。それが不安と緊張を生み出す源泉なのだ。

恐怖の極限に肉薄する一冊

総じて本書は、人知を越えた領域を探求し、最終的にそこに潜む異形の存在と対峙する。その様は、まるで理性の淵に肉薄し、狂気の影に手を伸ばそうとするがごとくである。しかし一方で、作者の才能は並ならぬものがあり、皆が決して踏み込めない領域を見事に魅力的に描き出している。恐怖と興味の狭間を行き来させられるtasteは、この本ならではの価値があるだろう。

人間が認識できる現実とは一体何なのか。この問いに立ち向かうには、通常の発想を離れる必要がある。本書はそのための傑作の入り口となり得るに違いない。しかし同時に、その入り口を潜れば、もはや同じ人間としては戻れない領域があることを覚悟しなければならない。それでも、未知の恐怖に挑戦してみる価値は充分にあるのではないだろうか。

忙しい毎日を送るあなたに、『Amazon Audible」が新しい読書体験を提案します。

通勤中でも、家事をしながらでも、耳から流れる物語で、心を豊かに。 選び抜かれた数万冊の『Amazonのオーディオブック』から、あなたの好奇心を刺激する一冊を見つけてください。 今なら30日間の無料トライアルで、好きな本を気軽に楽しめます。 時間を見つけるのが難しいあなたに、『Amazon Audible』で贈る特別な「読書時間」を・・・・。

※万が一サービスにご不満があった場合でも、30日間の無料トライアル期間が終了するまでは利用を 継続できますので、安心してお試しいただけます。


#読書 #読書記録 #本紹介 #読了 #読書垢 #若本衣織
#読書好きさんと繋がりたい #書評

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?