【猫噺#3】ちびちびのこと
19年間預かったのは、凶暴で可愛げがない猫だったー
預かった猫
今の住処に引っ越す前の前、ペット可アパートで猫と暮らしていたときのこと。
ピンポーンと鳴るチャイムに応じてドアを開けると、隣家の三人娘がいた。
年齢不詳で、高校生にも生活に疲れたシングルにも見えるお姉さんに、小学校低学年と、就学以前の女の子。
小学生の女の子が「あげる!」と差し出した小さな手の中に、サバ色の子猫がいた。
「?」の私に一番年長のお姉さんが説明する。
要するに、子猫を拾ってきて飽きるまで遊んだあと、親に捨ててこい!と言われたらしい。
困った揚げ句、隣に住む怪しい猫飼いオジサンに押しつけようという魂胆。
「いや、ウチにはもう猫がいるし」
一番下の子が泣きそうな顔で「(親に)保健所持ってく、言われてん」
はあ~ ため息が出る。
「なら、飼い主が見つかるまで預かってやるから、自分らも飼ってくれる人を探すんやで」
小柄で丸まったお団子尻尾の子猫は、ブサイクかつ抱っこするとシャーと暴れ、まったく可愛げがなかった。
これはもらい手見つからんやろな。
予想は当たって、ちびちびと名付けたこの猫は、19年共に暮らすこととなる。
性格が丸くなった最後の1年
ちびちびの性格は変わらなかったが、保護猫で左の前足が悪いCoCoは、いたく気に入ってストーカーの如く後を付いてまわった。
そんなちびちびも、2回の引っ越しののちに現在の住処に移った頃には、性格が激変し、懐こくなった。
私が夜にトイレに起きると、後を付いてきて撫でてほしい、とねだる。
そんなとき、なんとはなしに、コイツ死期を悟ってんちゃうかな、などと思って、面倒でも撫でてやると嬉しそうにした。
忘れられない最後の微笑み
そのときは唐突に訪れた。
前日まで異常もなく、食欲もあったので驚いたのだが痙攣が起こって、のたうつように苦しんだ。
その揚げ句、もうダメか、と思うようにぐったりする。
信じてもらえないかもしれないが、猫は死の間際でも「死んだらあかん! 帰ってこい」と呼び掛けたら、本当に帰ってきてくれる。
ちびちびもなんとか、戻ってきてくれた。
獣医の先生に緊急の電話で、時間外の診察をお願いする。
診察を受けたちびちびは、寝台の上でやや落ち着いたようだった。
「痙攣もないし、点滴すれば良くなるでしょう」
ほっとひと安心して、入院するちびちびを撫でてやる。
そのときに見せたちびちびの笑顔、兇悪極まりなかった性格からは考えられないような透き通るような笑顔が忘れられない。思い出すたび、甘いような苦いようなものが胸を突く。
結局それが最後になった。
猫と別れるたび、ああしてやれば良かった、こうしてやれば良かった、と後悔が尽きない。
おまえはウチに来て良かったか? 問いかけても返事は帰ってこないのだ。
(次回は【#4 高齢おひとり様が里親になるまでの苦労】)
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