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【気になるウワサ】「化粧水ってほぼ水だから意味ない」って本当?化粧水に隠された秘密を語ります!

「化粧水ってほぼ水だから意味ない」

このようなウワサ、聞いたことはありませんか?

SNSなどで定期的に盛り上がるウワサですが、
「今まで化粧水を使っていたし、嘘であってほしい…」
「意味がないなら、もう使わない方がいい?」
と不安に思っている方、いらっしゃるのではないでしょうか?

本記事では、化粧水とは何者なのか、どんな役割を果たすものなのかを徹底解説していきます。


「ほぼ水」は本当、ただ「意味がない」は間違い!

化粧水は、下記のように水を含む水性成分を中心に構成されていて、組成割合的には「ほぼ水」と言えます。

図1 化粧水の組成イメージ

ただ、組成割合的に「ほぼ水」ではありますが、「水」ではありません。

例えば、海水。
水が約96.5%、塩分が約3.5%と、構成割合的には<ほぼ水>と言えます。
でも、<海水>と<水>は同じもの、とは皆さん思わないのではないでしょうか。(塩分が約3.5%とはいえ、海水はかなりしょっぱいですよね!笑)

化粧水にも役割があり、その役割を果たすために様々な技術が隠されています。そんな隠された技術を知ると、「化粧水は意味がない」は間違いだということを理解していただけると思いますので、是非最後までお付き合いください!

化粧水の役割

角層に<保湿剤>を届けて水分保持することが役割の1つ

皮膚は、人体の一番外側にある臓器で、外部刺激から人体を守ったり、体内からの水分蒸散を防ぐ役割を担っています。
皮膚には、構造や構成成分などによる保湿の仕組みがもともと備わっています。しかし、その仕組みは外的環境など様々な理由によって崩れやすく、つっぱるような肌の不快感や乾燥による小ジワなど、様々な肌トラブルを引き起こします。だからこそ、保湿の仕組みをサポートすることが必要で、化粧水が担う役割の1つです。

肌の保湿の仕組みのお話は、下記記事に詳しくまとめています。
気になった方は是非読んでみてください!


<保湿剤>とは

上記基礎編の記事でもまとめていますが、大きく2つに分類されています。

■ ヒューメクタント
水そのものと結びつく性質を持ち、水分を保持する働きを持つ成分です。
どれも同じような効果を持つわけではなく、水分を抱え込める量が多い、角層浸透量が多い、保湿効果の維持力が高いなど、さまざまな特徴の違いがあります。

■ エモリエント
閉塞性が高いバリアを形成する性質を持ち、水の蒸散を防ぐ働きを持つ成分です。こちらもどれも同じような効果を持つわけではなく、それぞれの物性(粘度など)とバリア(膜)の状態によって特徴に違いがあります。

化粧水は主に、水溶性のものが多いヒューメクタントを角層に届け、肌の水分保持をサポートします。

図2 ヒューメクタント¹⁾


「保湿剤(ヒューメクタント)が肌の水分を保持するのであれば、保湿剤を水で薄めず、そのまま塗ればいいんじゃない?」
と思う方もいらっしゃると思います。

そんな単純な話ではないのが、皮膚科学・スキンケアの面白いところです!
なぜ保湿剤をそのまま塗らないのか、化粧水に隠された秘密の技術とともに語らせてください。


化粧水に隠された秘密の技術

化粧水の進化

少し話は脱線しますが、化粧水の歴史は古く、皮膚科学研究・皮膚測定技術の進歩と共に進化してきたと言われています²⁾。

✓ 江戸時代~
へちま水やノイバラ(植物)の花から化粧水がつくられる。
✓ 明治時代~
グリセリンが登場し、保湿剤として化粧水に配合されるようになる。その後1,3-ブチレングリコール(BG)なども登場。
✓ 1950年代~
皮膚には天然保湿因子(NMF)が存在し、角層の水分を保っていることが報告される。その後アミノ酸や尿素、ピロリドンカルボン酸などのNMF成分が保湿剤として配合。
✓ 1960年代~
ヒアルロン酸や糖類などの保水性が高い成分が保湿剤として配合。
✓ 1970年代~
簡易的な皮脂測定装置が開発される。その後、角層水分量の測定も簡易的にできるようになり、商品販売時に肌質別の提案などがされ始める。
✓ 1980年代頃~
高分子の成分は角層から容易に吸収されないことなどがわかり、成分の経皮吸収を促進させる製剤技術が開発され始める。

このように進化し続けてきた化粧水。
スキンケアアイテムの1つとして現在まで生き残っているということは、多くの人が何かメリットを感じてきた結果ではないかと私は考えています。


化粧水には様々な技術が隠されている!?

本当に様々な技術があるのですが、今回はその一例をお話させてください。

✓ 保湿剤を角層に届けるために、化粧水から角層への保湿剤の分配力を上げる

皮膚の構造は複雑なため、保湿剤単独ではその機能を充分に発揮することはできません。例えば、グリセリンは濃縮された状態では角層に浸透しづらく、水の浸透とともに角層に浸透する、ということが分かっています⁴⁾。

もちろん水と保湿剤を混ぜて塗るだけでも、保湿剤を角層に届ける(分配する)ことはできますが、より多くの保湿剤を分配させるためには技術が必要です。

分配量を増やすには、化粧水における保湿剤の熱力学的活動度を高めることが重要と言われています⁴⁾。
熱力学的活動を高める…。詳しくお話すると、それだけで記事が書けるほど長くなるので次の機会にするとして(笑)。
簡単な説明にさせていただくと、
保湿剤が化粧水内に留まるよりも角層に移動した方が居心地いい/安定する、という状況を作ってあげるということです。

ある化粧品原料Aは、水に溶ける性質を持ちつつ比較的油にも溶けやすい、という特徴があり、下記図3のように保湿剤の分配力を向上させる働きをすると考えられています。

図3 化粧品原料Aの働きのイメージ図

実際に、この化粧品原料Aによって肌の水分保持量が変わるのかを実験してみました(図4参照)。

実験の様子
図4 塗布前の角層水分量を100%とした角層水分量相対値の変化

【実験方法】
下記被験品を被験者(n=6)の腕に塗布し、塗布前・塗布30・60・120・240・360分後の角層水分量を測定。
【被験品】
コントロール:無塗布
被験品①  :保湿剤(BG)水溶液
被験品②  :保湿剤(BG)+化粧品原料A2%水溶液

塗布30分後では、[保湿剤のみ化粧水]も[保湿剤+化粧品原料A化粧水]も、塗布前よりも角層水分量が増加しました。
しかし塗布60分後では、[保湿剤+化粧品原料A化粧水]に比べて[保湿剤のみ化粧水]の角層水分量が大きく減少しました。
また、[保湿剤+化粧品原料A化粧水]は[保湿剤のみ化粧水]に比べて、角層水分量の減少の仕方がなだらかだった、という結果が得られました。

これは、[保湿剤+化粧品原料A化粧水]の方がより多く角層に保湿剤を届けられ、より長い時間、肌の水分保持をしたのではないかと考えられます。


分配力を向上させるアプローチは他にもいくつかあり、さまざまな化粧品原料が開発されています。


番外:使い続けてもらえるように、保湿剤のべたつきを軽減する

より水分保持力の強い保湿剤が多く配合されている化粧水が、肌にとっては良い気がするかもしれません。しかし、保湿剤の特有の「べたつき」が発生しやすく、毎日使用することを考えると良いとも限りません。

化粧品は、皮膚を健康かつ美しい状態に保つために毎日使用してもらうことが大切です。毎日使い続けることができるような使用感にすることは、化粧品を開発する上でとても重要なポイントです。実際に、使用感は継続使用へにも影響を与えるといった報告などもあります⁵⁾。

そのため化粧品開発会社は、化粧品の使用感を考慮した保湿剤の選定・配合率・組み合わせなどを日々試行錯誤しています。

また最近では、化粧品の使用感・触感など感覚的な部分を数値化し、可視化できないかなどの測定技術の研究が進んでいます。
これまで皮膚科学研究や皮膚測定技術の進歩とともに化粧品が進化してきた歴史を考えると、今後もさらに新しい保湿剤、保湿剤の配合率・組み合わせなどが開発されると思いますので、是非最新研究なども注目してみていただきたいです!


化粧水は「ほぼ水」だけど「意味がある」

冒頭のウワサに対する真相は、ご理解いただけたでしょうか?
化粧水には肌の水分保持をサポートすることが役割の1つであり、そのための様々な技術が隠されています。

もし、化粧水は意味がないというウワサを信じていて、「化粧水を適当に選んでしまっていた」という方がいらっしゃいましたら、今後は是非、化粧品に込められた技術を想像し、丁寧に肌に塗ってあげてください。
その化粧水に込められた効果をより実感できるかもしれません。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


執筆:小笠


<参考文献>
1)皮膚をみる人たちにための化粧品知識 第1版, 日本香粧品学会誌, 53-64, (2022)
2)スキンケア化粧品のコンセプトの変化—角層を保湿することの重要性—, 岡野由利, 日本化粧品技術者会誌, 50(2), 91-97, (2016)
3)皮膚をみる人たちにための化粧品知識 第1版, 日本香粧品学会誌, 15-36, (2022)
4)高保湿スキンケア製剤の処方設計の考え方, 岡本亨, 日本化粧品技術者会誌, 50(3), 187-193, (2016)
5)商品開発からみた化粧品使用感の重要性, 岡部美代治, フレグランスジャーナル, 28(10), 89-92, 2000