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6基の神輿、西寺公園に松尾神社の祭り

数時間にわたり夢中になっていた興奮が、          一気に潰えた幼いころの祭りの思い出

大勢の男たちの大声とともに、でっかい神輿6基が西寺公園にやってきた。幼いわたしは工事現場で働く人たちや、交通整理の警察官、祭りの準備をする男たちがざわめく様子を見るのが大好きだった。時間をかけて慎重に西寺公園の小さな山の上に、6基の神輿が並んでいた。わたしは朝から黙々と緻密に祭りの準備作業をする男たちを最初から最後まで観察していた。途中で祖母がおやつの時間と、わたしを呼びに来てはじめて、どれほど時間が経過したかを認識した。「あんなドロドロのところにじっと立ってながめて…。」咎めるわけでもなく、「あんた、変わった子やなぁ」と祖母が小声で言うが、わたしにはまったく聞こえなかった。「あ~あ、お腹へった」迎えにきてもらって、仲良く手をつないで帰った。

大人の無神経で一瞬に興味がなくなった

祖母はお祭りのためにわたしの髪にお団子を結って、とっておきの振袖を着せてくれた。祖母は「昨日雨だったから、地面がぬかるんでいるから、着物を汚さないように気いつけてや」の言葉が終わるのを待つのももどかしく駆け出していった。公園に戻ると、その時刻には神輿だけでなく、あらゆるタイプの屋台が広大な西寺公園にびっしり並び、それぞれの準備を競いあうようにガンガンすすめていた。それと同時に、たこ焼き屋、お好み焼き、リンゴ飴、カステラ焼き、せんべい焼きのいろいろな匂いが風に混じって漂う。子供に人気のわた菓子、ジュースやコーラ、アイスクリーム、くじ引き、土産物、金魚すくいやヨーヨー釣りも慌ただしく開店準備に余念がない。わたしはこうした人が夢中になって何かに熱中する様子を見るのが何よりも好きで、振袖を着ていることすら忘れて見とれていた。突然、父が名前を呼んだので振り返るとカメラをむけて撮影しだした。最近父は8ミリムービーに凝りだした。「あっ!」大声で名前を呼ばれ、驚いてぬかるみに転んでしまった。その一部始終を父はカメラにおさめていた。「はっはっは」と父。「なんで突然呼ぶの!びっくりして転んだやんか。着物ご汚して、おばあちゃんにおこられる!」この事件がこの年のお祭りのターニングポイントだった。転んだことがきっかけで、わたしは突然大人になり、お祭りにはすっかり興味がなくなっていた。

子供のころ夢中になったお祭りは、思ったよりも由緒正しく、古くは平安時代に遡る歴史があると成長してから教わった。お祭りは松尾神社の大きな神輿6基が桂川をわたる船渡御(ふなとぎょ)が有名で、勇猛果敢な男たちが水しぶきをあげて神輿の渡りを取り仕切る。1000年以上の歴史がある松尾祭の神幸祭の荘厳な行事だそうである。


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