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「北風と太陽の共同戦線」企画書

キャッチコピー:卓越した分析力を持つ少女、「北風」とお調子者の少年、「太陽」。予想外な学校生活が今、はじまる!

あらすじ:陽キャ高校生デビューを果たした日野太陽ひのたいようは浮かれていた。これからキラキラ高校生活!……と思いきや隣の席の北風零亜きたかぜれいあに自分の黒歴史を明かされてしまう。入学したばかりだというのに零亜はクラスメイトの事細かな情報を知っていた。彼女の趣味が人の心理と行動を分析することだったのだ!独自の視点、経験から短時間で学校中の人間関係を把握するというとんでもない生徒だった。太陽は零亜の能力を生かして学校一の人気者になろうと目論むが……。学校内での小さなトラブルから犯罪組織が絡む事件まで。予想もしない学校生活が今始まる!

第1話のストーリー
「日野太陽。誕生日10月7日。身長168㎝、体重約57キロ」
「え……?」
口を開けたまま少年、日野太陽は隣の席の少女を見る。ショートカットにすらりとしたスタイル。男女問わず視線を集める見た目にも関わらずその目は死んでいる。声も同じように何の感情も感じられなかった。
かわいい子が隣で良かったと思ったのも束の間。少女の発言に太陽は驚きと絶望に襲われていた。
(俺、まだ一言も発してないけど?)
背中に冷たい汗が流れる。
「中学時代は目立たないタイプだったから目立つタイプに憧れるようになった。彼女でも作って人生の勝者になってやろうとか考えてる」
そこまで一息に言い放つと思い出したように付け加えた。
「あ。私の名前、北風零亜と言います。一年間宜しくおねがいします」
自己紹介を定型文のような締めくくると頭を下げる。そんな零亜を太陽は震えながら眺めた。
(一言も本人が話さない自己紹介なんてあるか?)
輝かしい高校デビューが隣の席のかわいい子によって侵されようとしている……。太陽は希望に満ちていた数時間前の自分を思い出す。

「うわー!すっげー。本当に冠英かんえい高校に受かったんだ!」
夢中になってスマホで校舎の写真を撮り、SNSに投稿する。冠英高校は有名な進学校で、生徒の殆どが有名大学に進学。経済界やスポーツ界、芸能界などあらゆる分野で活躍する有名人を輩出する。とにかく凄い学校なのだ!
(まあ、そんな学校に合格点スレスレで入れた俺もラッキーだよな)
腕組をしてうんうんと一人頷く。
(今の俺はどこからどう見ても陽キャだし!)
今こそ太陽は爽やかな男子高校生だが、陰キャだった。いじめられはしなかったものの、ぱっとしない学校生活を送っていたのだ。
(本来の俺はもっと面白くてイケてるんだからな……)
女子生徒とは雑談をする程度だ。
日夜スマホに流れて来る、イケてる陽キャのSNS投稿。その隣には必ず彼女がいる。楽しそうな輝かしき世界……。
(この世の中見た目が9割。そんでもって学生時代が未来の自分に強く影響するんだ!要するに今が一番重要な時ってわけ!)
太陽はこの日のためにSNSや本を参考にしてイメチェンしてきたのだ。

(俺はイケてる自分になって、ここで輝かしい人生と彼女を手に入れるんだ!んでもって……人生の勝者になる!)
長年の夢が可憐な少女によって打ち砕かれようとしていた。
(くそ……どうにかしなきゃ。俺の人生のために!)

2話以降のストーリー
「お隣さん同士の紹介は終わったかー?次はクラス全体の自己紹介はじめるぞーっ!」
熱血体育会系風の教師、城丸信二しろまるしんじがパンッパンッと力強く手を叩く。
(いや、俺一言も発してないけど!隣の席のことは後で考えよう。今は全体自己紹介に集中!寧ろこっちの方が重要だろ!)
クラスメイト達が自己紹介をしていく中、零亜の様子を伺う。先ほどの只者ではないオーラは薄れている。横顔ですら凛としていて美しかった。先ほどあれだけコケにされたのに太陽は少しだけ見惚れてしまう。
(やっぱさっきのは気のせいだったんだ。うん、気のせい気のせい)
「次!日野太陽っ!」
城丸が試合に送り出すかのように力強く太陽の名を呼ぶ。
「はいっ!」
太陽も試合に臨む選手のように返事をしたので教室からは笑い声が巻き起こる。
「日野太陽です!真中まなか中学校に通っていました。好きな食べ物は焼肉、嫌いな食べ物はピーマン。趣味は漫画とゲーム。学校生活の抱負はとにかく楽しく生きていきたいでーす。宜しくお願いしまーす!」
「楽しむだけじゃなくて勉強もちゃんとしような」
城丸のツッコミもあって太陽の自己紹介は大いに盛り上がった。
(やった!出だしは順調!どうだ、北風零亜!)
太陽が得意そうに零亜の方を見ると……。
(なっ……!笑ってやがる!)
零亜が冷たい笑みを浮かべていた。太陽は震えあがった。
(俺の過去を何もかも知った上で憐れんでるんだ!いや、もしくは見下してんのかも。「お前陰キャのくせに」っていう目してる!!!)
太陽は零亜に弱みを握られた気持ちになり、体を縮こませながら自分の机へ戻って行った。
「それじゃあ……次。北風零亜」
「はい」
太陽は机に上体を寄りかからせながら零亜を見た。
教室の空気が一瞬で変わるのが分かる。
自己紹介ひとつでクラスの立ち位置、キャラクターまで決定される気がするから人間の集団というのは恐ろしい。
(いけねえ。陰キャ的思想)
太陽は首を振ると改めて零亜に注目する。身長は163㎝ぐらい。体型もふと過ぎず細すぎず。顔は小さく、ショートカットが非常によく似合う。化粧していないのにはっきりとした顔立ちをしていた。
(だよな。やっぱ美人っていうか、かわいいよな。北風さん)
「モデルさんみたい」「かわいくね?」という声が自然と耳に入って来る。いくら性別が違うとはいえ、太陽は内心羨ましく思った。
(いいなー。俺なんか努力しねえと相手にされないのに。北風さんが本気だせば一瞬で人気者じゃねえーか。俺の人生の目標、秒で達成じゃん)
拗ねながらも零亜の自己紹介に耳を傾ける。
「北風零亜です。好きな食べ物も嫌いな食べ物もありません。趣味もないです。学校生活の抱負も特にないです。一年間宜しくお願いします」
「え……。ええ~?」
太陽は思わず声を上げていた。周りの生徒達も目を丸くしたり、口を開けっぱなしにしている。
自己紹介最短記録更新。
零亜は名前以外の情報を一切与えずに自己紹介を終えたのだ。
「北風。もう少しなんかないのか?どこの中学だったとか、好きな科目とか……。せめて抱負は教えてくれ」
呆気に取られていた城丸がなんとか口を開く。すでに自分の席に座った零亜が全く動じることなく答えた。
「すみません。私、最近こちらに引っ越してきたばかりなので。突き抜けて好きなものというのはないんです。全て平均的に好ましいと思っていますので」
難しい言い回しながらも他者を説得させる強さがある。零亜の声には何の感情も上乗せされていないので嫌味に聞こえないから不思議だ。
「そ……そうかあ?」
声がでかいことで有名な城丸の小声。教室にいた誰もが「先生こんな声出せたんだ」と驚いた。
「それと抱負ですけど……そうですね。自分の成し遂げたいことを成し遂げられるよう頑張りたいと思います」
教室内の空気がぴしっとする。他の人が言ったら恥ずかしい台詞も北風零亜が言うと様になった。
笑い声ひとつないどころかクラスメイト達から拍手が起こった。
(か……格好いいこというじゃねえの!)
太陽もつられて拍手を送る。
「そ……そうか。しっかりとした目標があって何よりだ。じゃあ、次の人……」

授業のガイダンスが続く中。太陽は考えていた。
(これから学校生活を送るに至って、やっぱり最大の障壁になるのは北風さんだよな)
教科書を見るふりをして零亜の横顔を見る。
(俺が人気者になりだしたとして、北風さんが突然俺の黒歴史について喋バラしたら……!SNSに書かれでもしたら俺の人生が終わる!)
恐怖で太陽は机に突っ伏した。
頭の中で小さくなった太陽を掌に載せて凶悪な笑みを浮かべる零亜を思い描く。
(それだけはぜったいに嫌だ!マジに嫌だ!北風さんだけは敵に回したくないっ!)
「敵」という言葉に太陽はハッとする。
(敵じゃなくて味方にすればいいってことじゃん!仲良くなればなんの問題も無し!)
再び零亜の横顔を見る。
(仲良くってことは……北風さんを俺の彼女にすればいいんじゃね?)
太陽は頭の中で零亜が彼女になった時の妄想を捗らせる。
手を繋いでのデート。一緒にご飯を食べに行ったり、遊園地に遊びに行く。規制がかかるところまで想像しそうになってやっと妄想を止める。
(おっと危ない、危ない。それにしてもいいアイデアじゃね?)
太陽はニヤニヤしながら前を向く。
(問題解決と同時に彼女をつくる計画まで立てるとは。俺ってば天才!)
太陽は授業のガイダンスをろくに聞きもせず、零亜を味方に引き入れる計画……ではなく彼女にする計画を立て始めた。

「ねえねえ。北風さん部活動は何に入るの?」
「良かったら一緒に見て回らない?」

放課後。自己紹介で一番目立っていた零亜は当然、クラスメイト達に囲まれていた。
(くそっ……。女子にあんなに囲まれて羨ましいぜ)
太陽は心の中でべそをかきながらも零亜に話しかけるタイミングを伺う。
「私、部活には入らないので。それじゃあ」
どうやったのか。取り囲まれた女子生徒の輪から華麗に抜け出す。女子生徒達はもぬけの殻となった座席を見て呆然とする。
(お!ナイスタイミング!)
太陽は廊下に出たところで零亜に話しかけた。部活動見学に向かう生徒達が通り過ぎていく。
「き……北風さんっ!」
いざ、声をかけると緊張する。零亜の大きな目に太陽の姿が映し出される。
「何?」
「あの……ちょっと聞きたいことがあって」
太陽は笑顔を貼り付けて作戦通りに零亜に話しかけた。
(流石に急に「好きです。付き合ってください」はないだろ!無難にしゃべる仲になることを目指す。落ち着いて頭脳派な俺でいくんだ)
「北風さんは何で俺の誕生日とか身長、体重まで知ってたの?さっきはびっくりして聞けなかったんだけど」
零亜は少し考える素振りを見せた後。驚くべきことを答えた。
「誕生日はSNSのユーザー名から。身長体重は計算すればすぐに分かる」
(それって……俺の情報調べてたってこと?)
太陽は複雑な心境になる。喜ぶべきか恐怖すべきか。とりあえず話を続けることにした。
「なんで俺のこと調べてんの?もしかして、俺の事気になるとか?」
ふざけて問いかけてみると、零亜はまたにこりともせずに淡々と答えた。
「私が調べているのは君だけじゃない。……ここにいる人間全員だよ」
「……え?」
「私、この学校にいる人達のこと全部知ってる」
零亜の発言に太陽は凍りつく。
(この子……ヤバい子だ)







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