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ガチホは正義か〜Like a fish on a hook

 ここ1月ほどは日経平均が下げ基調。なぜ下げているかといった議論は専門外なので掘り下げないが、こういう局面になると、「落ちてくるナイフは掴むな」とかいう言葉が溢れる一方、「売らなければ損失は確定しない、現実にはならない」といった話も出てくる。後者はいわゆる「塩漬け株」の発生メカニズムだ。
 コロナ禍で国民の在宅時間が増えたことが影響してか、チャンネル登録者数を大きく伸ばしたyoutuber等が、手元資金で投資を始めるといった動画が流れて来た。ネタかもしれないがやはり値が下がり、早速損失を抱えながら追加購入したり、売らなければ確定しないなどと典型的な負け犬の遠吠えをしていた。
 一見、確かに売らなければ損失は確定しないというのは説得力があるが、持ち続ければ大丈夫と安直、素朴に考えていると失敗すると思う。色々な金融商品や不動産も含めて分散投資していれば傷は浅く済むかもしれないが、一点張りに近い場合は致命傷になる。なぜそういう無謀な行いに至るのか、人の気持ちを考えてみた。

「塩漬け株」の発生メカニズム

①値上がり期待で金融商品を買う。
②予想が外れて価格が下がるが、事実を受け入れられずに「すぐに戻すだろう」と気持ちを強く持ち始める。
③時々ちょっとだけ値を戻すこともあるので「やっぱり自分は正しい」という思い込みが強化される。
④意に反して価格が暴落すると、群集心理が間違った方向に進んでいると考え、持っていれば必ず値上がりすると考える。

このようなメンタルプロセスで塩漬け株が出来上がる。人によっては、もう少しドライに、「上がる時も下がる時もある。売らなければ損益は確定しないから、買値から上ブレるまでは手放さない」というスタンスもあるだろう。

素人の参入 = 養分の注入

 日経平均の暴落や下落基調の状態にあると、「今が買い時」、「下がったら上がるだけ」みたいな文言が出て来たりする。そうすると、もともと投資に興味がある層がこのような釣り針に見事引っかかる。ここで引っかかる層は、少しお金を手にして投資に興味が出て来た人。もっと付け加えると、権威に弱い人もそうかもしれない。なぜかというと、投資に興味を持つと経済のことを知ろうとする。このときに真っ先に目を付けるのが某経済新聞。某経済新聞は有名で偉い新聞社だから客観的な事実が記載されていて、これを読んでいれば大丈夫だと信じるような素朴な人は、ダメだ。某経済新聞の記事になった時点ですでに情報戦が展開されているということに気付かないと、たぶん養分にされるからだ。ちなみに私自身は過去、某経済新聞社の記事に不信感を持ったことがあり、某経済新聞が嫌いなので真に受けることはあまりない。そのおかげで「経済新聞の読み方」が分かったのは収穫だったが。新聞社もプロだから、間違った事実はそうそう書かない。だが、そのタイミングでなぜその記事が出たかといったことに想像力を持たないといけない。雑誌の記事だって、お金を払えば記事を書いてくれたりする。良くも悪くもそういう商売だから非難する気は1ミリもないが、聖人ぶって大衆を誘導するような媒体は消えてしまえばいいと思う。
 ここで、下落時に「今が買い時」の言葉に踊らされた素人は、買った時点で「塩漬け株発生のメカニズム」①に組み込まれることになり、立派な養分の誕生となる。なぜ養分かといえば、売り手の立場になれば自明なことで、損切りを目的としている可能性が高いからだ。値上がりの確率が高いなら普通は持ち続けるのに、なぜ相手は売ろうとしているんだろうと疑問を持たないといけない。もちろん結果はわからない世界なのだが、餌に反射的に飛びつく人はおそらく養分になって終わるだろう。

ガチホ誕生

 このようにして晴れて養分となった人たちは、上記発生メカニズムに従って塩漬け株戦略をとることになるだろう。もともとちょっと手持ちのお金が増えた程度の層にとっては大切な資金であり、ローン返済や子供の教育費の補填にしようと思っていたというケースもあるだろう。ぜっっったいに損失は確定できない。家族には口が裂けても言えない。ガチホ勢の誕生である(通常は仮想通貨の取引に使う言葉かもしれない)。

ガチホの盲点

そもそもの話、「持ち続ければ損失は確定しない」は正しいだろうか?例えば5年、10年間持ち続ける場合、検討しなければならいことは何か。
 ひとつは株主自身の資金繰り。ローンの返済は容赦無く続き、子供はどんどん成長して食費も上昇し、受験するなら塾代や学費が膨らんでいく。あれ買ってこれ買ってと、物欲も旺盛になりひとつひとつの単価も上がる。そんな子供の成長に幸福感を感じるには資金繰りが安定している必要があるのに、その時に株価が戻っているかどうかわからない。株価がいずれは戻るとしても、お金が必要な時に戻っているとは限らない。
 もうひとつは、発行体企業の寿命だ。上場会社といえどもいずれその役目を終えて退出していくことになる。5年先、10年先にその企業は残っているか?その企業のビジネスは、長期的に魅力のある成長産業か?そもそも人口減少している日本で、長期的に存続余地のある企業は何社あるだろう。突然粉飾が発覚し、経営破綻するかもしれない。可能性を挙げればきりがないが、ひとつ言えるのは、投資先はきちんと見極めようということだ。情報戦に巻き込まれて詰む前に、企業の財務諸表を一度でもいいから見てみるというのは有意義である。

ガチホ勢の心の強さが試された結果、血まみれになった事例

 スカイマークの事例を取り挙げる。同社は資金繰り難から2015年1月に民事再生手続き開始の申立を行い、同年2月に上場廃止。同年9月に再生計画認可となり、再生ファンドのインテグラルとANAの支援を受けて再生を図ることになった。2019年10月には再上場に向けて申請したが、コロナ禍の影響を受けて申請取り下げ。今後の需要回復を見極めて再上場時期を決定するとしている。
 この間、何が起こったかというと、有り体に言えば設備投資に失敗したため資金繰りに窮し経営破綻したのだが、その最中に飛び交った情報はおおむね下記のようなものだった。ただしその時点では真偽不明。
①代表取締役社長が株を売り抜けた
②航空機の解約を巡ってエアバスが違約金を請求し、債務超過となる見込み
③ANAがスカイマークを買収する
 このような情報が常に飛び交い、個人株主はまさに右往左往。損失を確定させて退出する人もいれば、買収者がある程度の値段で株を買い取ってくれるのではないかと考えてホールドする人もいる。結果的には「民事再生手続き終結のお知らせ」にある通り、再生計画に基づき 100%減資の手続とスポンサーによる合計 180 億 円の募集株式の払込み手続が実施され、再生を果たすこととなった。

 「何だ、結局生き延びているじゃないか、やっぱりガチホが正しい」と安易に考えてはいけない。100%減資について、スポンサーとなった再生ファンドは「株主責任を問う」と発言し、既存株主は一掃されることとなった。どういうことかというと、債務超過から再生させるため、会社自身によるリストラ、債権者による債務免除、そして株主が株主責任を負うことで両成敗とするのだが、こと株主責任に関しては、100%減資の場合は排除されることを意味する。既存株主は会社の経営の失敗を見過ごした責任をとって新株主のために席を明け渡さなければならない。その際に、減資手続と一緒に株式消却という手続が行われ、文字通り既存株主の株式は滅せられる。株券が存在した昔風に言えば、無情にも紙屑になった状態である。
 ガチホしようと思っても、強制的に損失確定させられることがあるということを知っておいていただきたい。

養分にならないために

 自分が養分にならないためには、情報に踊らされないことが重要。時には損失を受け入れて退出することがもっとも合理的な場合もある。投資は余剰資金でやりましょうと言われる所以である。チェンジ料金を払ったらもっと悲惨な目にあったという経験がある人もいるだろう。追い銭はやめた方がいい。
 企業自身を見ることも大切である。さまざまな思惑で動く株価に翻弄されずに、企業の業績、しっかりとしたビジョンを持って真面目にビジネスをしている企業を見分けられるか、そんな企業を見つけてガチホする。これはアリだと思う。
 よく調べもせず、投資の知識も浅いのに、他人の業績に乗っかって儲けようとすれば、付け込まれて養分にされてしまっても仕方ないかなとも思う。

お詫び

 実際に養分になってしまった人には申し訳ない。やや嫌味な書き方になってしまったが、真面目に働いて得たお金で生きていくのが真っ当な社会なのであり、株などの金融商品で稼ぐなら相応の知識と経験が必要ということ。
 冒頭のyoutuberの動画では、買った株が暴落したけど持ち続ければいいんだ的な発言をしており、それを見て安易に参入して養分になる人が続出してはいけないなと思った次第。
 養分にされるとは、こういった素人が、プロもしくは売買に慣れている人たちの売り逃げに利用されることを言っている。大事なお金が養分にされることは、不幸だし、本人も悔しいだろう。いや、養分になっていることすら気づいていないひともいるかもしれない。
 自分の財産を簡単に提供するのは止めましょう。

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