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【地域おこし協力隊】橋本華加さん  インタビュー記事

2019年4月より双葉郡川内村へ移住し、川内村地域おこし協力隊に着任された橋本華加さんにお話をうかがいました。
橋本さんは食と地域と経済をキーワードに、おたがいさまで助け合える地域づくりを目指すコーディネーターとして活動されています。
そんな橋本さんの地域おこし協力隊として働く想いや田舎の魅力が詰まった記事をぜひ、ご覧ください。


1、地域おこし協力隊として働く前と現在


― 川内村で地域おこし協力隊として働こうと思ったきっかけを教えてください。
地域おこし協力隊の仕事をする前は福島県の県庁で働いていました。県庁では、原発事故で被害を受けた12市町村の事業者さん向けに行う補助金の運営業務を担当していました。その時に12市町村の地域の方々とお話する機会があり、特に川内村の事業者さんから心の優しさを感じて、とても好印象でした。こんなにいい人たちがいる村ってどんな村だろうと興味を持ったことがきっかけの一つです。
もう一つは、震災で歴史がストップしかけた時期があった地域のために、何か役に立てることがあるかもしれないと思ったことです。過去に挑戦したいけど挑戦できなかった経験が何度もあったので、これを機に思い切って行ってみたらいいきっかけになるかもしれない、挑戦したいと思ったので思い切って行こうという気持ちでした。

― 公務員から地域おこし協力隊に。気持ちの切り替えが難しそうですが、、、?
公務員は、「全体の奉仕者」が基本の精神です。特定の人や一部だけに奉仕をするのはNG。だから人に直接働きかけたり、一緒に働いたり、もっと近い距離でなんの気兼ねもなく接する仕事がしたいという思いが強くなった時に、気持ちは自然と切り替わりました。

― 川内村に行ってみて仕事に対する考え方の変化はありましたか?
交流人口の拡大、観光資源の開発、魅力的な仕事づくりなどが地域おこし協力隊の募集要項にあったので、当初はそれに合わせた仕事づくりを目指し、そして自分で事業を運営するような仕事がしたいと考えていました。
移住してから、まずは村を知ることから始めようと、暮らしや行事、イベントの様子を見て勉強しました。その中で、住民の求める幸せが単純な「村経済の発展」や「人口が増えること」だけでは無いことを知り、「住民が本当に幸せになれる事業とは?」という問いを改めて考え直さないといけないなと思いました。そこで、もともと食に興味があったことから、食に関することで村の役に立てる事業はないかと考え直し、食の方に転換しました。

― 橋本さんの業務内容を教えてください。
① 現在は食材販売を行う「ふくのさち」というプロジェクトを起こそうと考えています。食材の販売だけでなく、生産者さんの生きがいを作りたいと思っています。そのために生産者と飲食業と消費者がコミュニケーションをとれるような場づくりをしています。また、地域食材を全国に発信するために、地域食材を使ったPRレシピの開発をする仕事もしていこうと考えています。
② 地域おこし協力隊として、県内の地域おこし協力隊同士で繋がりを作れるような事業を行っています。
③ 子供が少ない、ママ友ができづらい、引きこもりのおばあちゃんがいるなど、中山間過疎地域の課題はどの地域でも似通っています。川内村の周りも中山間過疎地域なので、村の中だけでは子供が少ないですが、村同士が友達になれば子供は増えるという発想で、村や町の垣根を超えて助け合っていこうという事業を作ろうと考えています。
④ あとはWEBライターの仕事もやっています。

― 川内村のために現在どんな活動をしていますか?
現在行っている野菜販売をするための野菜の仕入先はすごく小さい農家さんです。彼らの作る野菜は、自分たちが食べる分、息子や娘に送る分、近所に配るかもしれない分、あとプラスアルファです。二つ目までは使い道が決まっていますが、それ以降は決まっていません。だから余ったら畑に放置して腐らせてしまう。そんな野菜です。ですがその野菜は顔の見える人のために作る野菜なので美味しいのは当然です。
ですが、それを自分で売ろうと思うと、きれいに洗って袋詰めして自分で売り場まで持って行かなければならず、手間がかかります。この作業は70歳、80歳の方々にとってとても負担になります。だから、結局面倒くさいからと捨ててしまいます。
そういった野菜は他の人たちが美味しく食べられるのだから、食べられる道を作ろうという活動を現在行っています。一つの農家さんで採れる野菜は少なくても、たくさんの農家さんから少しずつ買っています。その野菜を、よその地域で販売しています。
そうすることで、まず消費者が新鮮で美味しい野菜が買えたと喜んでくれています。さらに「持って行った野菜、大好評で、もっと欲しいって言われたよ。」と生産者のおじいちゃんやおばあちゃんに伝えると、「おお、そうか。次も頑張るか。」と嬉しそうに言ってくれます。この活動が少しでも消費者や生産者の、楽しみや生きがいづくりにつながってくれると良いなと感じています。あとは、「橋本さんが一生懸命やってくれているから、俺たちも頑張るか。」と言ってくれることが、すごくありがたいなと思っています。


2、田舎で働くことについて


― 田舎で働くことの魅力を教えてください。
長年そこに住み慣れた方は「ここには何にもねえよ」と言いますが、外から来る人からすれば、自分の持っていないものは魅力的に見えますよね。例えば、忙しない日常を送っている人にとって、のどかな田園風景は憧れの場所になります。だから、私から見れば川内村周辺の地域は理想の田舎、思い描く田舎にとても近かったです。例えば、ふらっと行ったときにお茶を飲ませてくれるおばちゃんがいたり、何も用事がなくても来ていいよと言ってくれて、それを真に受けて行くと結構歓迎されたりとか。そういう人と人との繋がりが憧れだったので、実際に行ったときにはそういうところに満足しました。

― 川内村の魅力を教えてください。
川内村だけではないですが、「人がいい」ところです。頑張ってる人には素直に「頑張れ」と言ってくれます。「なんでそんなことしてんだ」とはあまり言われません。頑張っているときに頑張れと言われることは嬉しいですよね。そして地域にも実直に頑張っている人が多いから、私も頑張れと言いたくなります。そんな信頼関係を築けるところが魅力です。

― では逆に田舎で働くことの難しさは何ですか?
もともとあるコミュニティを壊さないことが一番気を遣うところです。私は、地域のもともとのバランスを壊しに行くわけではありません。既存のお店から利益を取ったり、人同士の対立を生んだりしてはいけないですよね。だから、何をやるにしても現今のコミュニティにとって良い影響があるかどうかをまずは考えています。
それからヨソモノならではの新しさも期待もされるので、ゼロベースで作り上げていく覚悟はある程度必要です。
なかなか環境や設備が自分の思い通りにいかないところがあり、そういうところは難しいです。

― 地域の方とコミュニケーションを取る上で意識していることは?
くさい言葉になりますが、とにかく誠実に接することが大事です。上手くやろうとすると、どうしても嘘をついてしまいがちになります。田舎のコミュニティは情報共有がSNSより早いことがあって、あっちではこう言っていた、こっちではこう言っていた、などと齟齬が生まれるとどうしても信用には繋がりません。
それから、こちらが一生懸命誠実に付き合っていると、じゃあこっちも誠実に付き合ってやろうかなと、誠実さには誠実さで返してくれる人が多いので、誠実に・実直に・真面目に、を心がけています。
あとは、あまり外に出ない方とはなかなか出会えてなくて、未だに出会えてない人が多分たくさんいます。そういう人には、「私は地域おこし協力隊のものです。」と言っても通じないから、「村に来て一年半になるんです。」のように「私も村の人なんだよ」と伝えた方が響くのかなと思っています。


3、働くことについて


― 橋本さんにとって働くとは?
マズローの欲求五段階説、欲求のピラミッドの法則というものがあります。低次の欲求が満たされるごとに次の欲求に向かっていくとされるもので、ピラミッドの一番下は生理的欲求で、ピラミッドがだんだん高くなっていくと自己実現欲求になります。
それを仕事に置き換えると、「最低限自分の生活ができる給料を稼ぐ」ことが底辺の欲求で、最終的に「なりたい自分になる」ことを仕事の中で見つけていくことが欲求になると思っています。「最低限の生活ができるお金を稼ぐ」というところから始まり、「理想の自分になる」手助けをしていく自己表現の一環が仕事なのかなと考えています。
私の場合、工場で野菜を切る仕事でもいいですが、同じ給料をもらえるなら、人との関わり合いがしたいし、自然の中でも暮らしてみたいと思っていました。あとは、自分が他の人にどれだけありがとうと言える仕事ができるのか、それを自分の力だけでどれだけできるのか挑戦してみたくてこの仕事を選びました。そういうことが私にとって働くということだと思っています。

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4、今後の展望


― 最後に、今後のお仕事の展望を教えてください。
儲けることより、どれだけ多くの人に「ありがとう」と言ってもらえるかを目標にしたいです。自己満足なところもありますが、どれだけ人の役に立てるのか挑戦していきたいと思っているので、川内村だけに限らず、いろいろな人を巻き込んで、この人が来てよかったと思ってもらえるように頑張りたいと思っています。
食の事業に関しては、小さい畑をやっている方たちが、「来年は今年より少し多く作って息子や孫へのお小遣いを増やしてあげよう、自分のために温泉旅行に余分に行けるようにしよう」など、頑張る目標を作ってもらえたら嬉しいです。
マーケットを広げることや活動の幅を広げることなど、課題はたくさんありますが、自分自身のビジネスを大きくすることで、生きがいを作るお手伝いができれば最高だなと思っています。住民の方に、ここに住んでいてよかった、ここで生きててよかったと思ってもらえるような地域づくりのお手伝いを、これからも続けたいです。


終わりに
橋本さんへのインタビューを通して、橋本さんは地域おこし協力隊の仕事に対する自分なりの考えを持って活動されている、素晴らしい方でした。特に、仕事が自己表現の一環であるという考え方は圧巻でした。私も自分なりの考えを持って仕事ができるよう、考える習慣を作りたいと思いました。

橋本さん、インタビュー取材にご協力下さりありがとうございました。

(記事作成:インターン生 宇川賢人)


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